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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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聖戦前夜

お久しぶりです。不定期ながら投稿スタートします。

「ゴェッ」


「ガカッ」


 二匹のゴブリンが村落の中央で一匹の鶏を追いかけている。半ば遊んでいるようで、飛んで逃げられた方を、もう一匹が笑うように囃し立てた。


 その側頭部に矢が突き立つ。ギョッとしたもう一匹が叫び声を上げようと開けた口にも、二本の矢が飛び込んだーー普通のゴブリンならばこの時点で絶命しているであろう。


 だが倒れ込んだ二匹は、ダメージを無視して矢の飛来した方に向き直った。貫いた矢は傷口に固定され、血は固まり出している。だが、それに続く突進は、目に見えない壁にぶつかると、自らの質量とスピードをもろに食らって再度転倒した。


 すぐ側に迫った剣が首を刎ね、もう一匹の頭を戦鎚メイスが潰すと、ようやく生命活動を停止する。




「ジュエル様、外にはこいつら以外いないワン」


 霊剣を振るったウーシアがゴブリンの死亡を確かめて報告する。頷くジュエルの後に続くのは、静かに侵攻する兵士達。ゴブリンが占拠した集落を、百を超える兵士達が取り囲むと、全隊が命令を待ってしばし沈黙した。金属鎧と葉擦れの音が落ち着いた頃、


「動きはあるか?」


 と尋ねた〝聖騎士〟ジュエルに、ウーシアが首を横に振る。いつの間にか側に来た信兵のマルセイは、


「動きはありません。主らしきゴブリンは数体の仲間と共に皆屋内に篭っております。その他は既に成敗いたしました」


 と答える。右手の短剣はゴブリンの血に濡れ、両の瞳は光彩魔法によって木製の建屋を透視し、翻訳される情報によって正確に状況を把握していた。


 魔法王国時代に、命を省みない暴虐性と個体数で脅威をもたらした爆薬小鬼ドーピング・ウォー・ゴブリンは、ゴブリンの女王が生み出した後継種によって、フォレスト・ゴブリンの隠遁能力や、上位種の強靭さを手に入れていた。

 計画性の欠片も無いゴブリンの集団にあって、なぜか見事な連携を見せる女王軍だが、その支配下を外れた集団は規範も緩くなり、命令系統も碌に機能しない烏合の集と化している。


 先だって仕掛けた罠に嵌まって、大部分のゴブリンは集落を離れ、伏兵によって討伐されていた。


 討伐後、集落を取り囲んだ兵士達は、斥候兵を先頭に重装備の戦士の後を弓兵や神官戦士が続き、そのさらに後ろを、聖都の魔術師達が取り囲む万全の体制を敷いている。それらはジュエル命令と共に屋内に攻め入った。


 据えた臭いの先に、犠牲となった人間の女性達が昏倒している。半ば意識を失ったそれらの虚ろな目線の先には、だらしなく横たわる全身を黒く染めたゴブリンの姿があった。


 斥候を務めるマルセイが、屋敷の中を隈なく検分する。屋内にいるのはその他に三匹のゴブリン。それぞれがだらしなく寝こけているのは、彼らが飲み水に仕掛けた麻痺毒のせいであろう。

 しっかりと昏睡状態に落ちているのを確認したマルセイの合図で、兵士達が進行する中、毛先ほどの違和感を覚えたのはウーシア。彼女は続いて入ってくるジュエルの側で護衛任務に専念する。


 最後に敵のボスを仕留めるのは討伐隊を率いる〝聖騎士〟ジュエルでなければならないのだ。


 ゴブリン討伐は民衆の希望の星としての存在を強調し、大規模な戦役を控える主神教の宣伝任務も兼ねそなえる、それでこその〝聖騎士〟……巨大な黒ゴブリンの頭部は、寝ていてもジュエルの脛ほどの位置にあった。その頭元で聖句を唱えたジュエルは、


「穢れをまき散らすものよ、主神ハドルの御名の元に、神の子ジュエル・エ・ポエンシャルが鉄槌を下す」


 と名乗りをあげて、神官達が合唱する中で聖鎚を振るう。その儀式めいた行為の間に、マルセイが示した違和感の正体は隠匿能力を使い、透明なベールの裏で毒の刃を抜いた。


 その周囲に霧が立ち込めると、瞬時に実態化した霊剣がその者の腕を斬り飛ばす。血しぶき……地面を転がるのは、小柄なゴブリン。しかし未知の深い青色を示す皮膚は、それが通常の種ではないことを示していた。信兵達によって身柄を拘束されたゴブリンは、間一髪残りの腕で自らの喉に刃を突き入れると、血を吐きながら絶命する。


 その様子を見届けたウーシアは、背後に現れた微かな気配に振り向くと、現れたもう一匹の青ゴブリンと対峙した。そのゴブリンは呆けたように立ち尽くして、警戒するウーシアはうかつに手を出さずに距離を取る。


 その時、儀式を終えたジュエルが黒ゴブリンの頭部に鎚を落とした。鈍い音と共に飛び散る血肉、その時、呆けていた青ゴブリンの瞼が痙攣し始め、ウーシアが見守る中で、痙攣は全身に伝播する。


「抑えつけろ!」


 と叫んだマルセイの言葉に反応したウーシアが果敢に体当たりするが、引き倒して体を拘束する直前に頭部が破裂した。


「くそっ、なんだこいつは?」


 駆けつけたマルセイが彩光魔法を向ける中、床に広がる血と脳漿……穢れたウーシアは、鈍る嗅覚の中、空にまぎれた魔力の残滓を嗅ぎ取った。





 *****





 ゴブリンの女王が地方都市を占領して以来、増えすぎた飢餓ゴブリンが各地へ散り、住民達を脅かし始めた。生命力が強く、繁殖能力に特化するように品種改良を受けたゴブリン達は、森や山に潜み、数を増やす。そして村落の人口を上回るようになると、武装した人間をも恐れず、集落を襲撃し始めた--


 ゴブリンの本拠地である地方都市近郊の村落は壊滅状態となり、さらなる異種交配によって数を増やしたゴブリン達は、不幸の種をばら撒くように周辺各国に散って行った。


 その結果、住処を焼き出され、保護を求める難民は数千、数万人にものぼり、近隣諸国の街に押し寄せると、街壁外に襤褸ぼろ布で組んだ住居とも言えぬスラムを形成し、衛兵や住民とトラブルを起こしはじめる。


 治安維持にも兵力を注がねばならない都市部は、ゴブリン討伐に兵力を割く余裕を無くし、中途半端な出兵は、短命というバッドステータスの代わりに得た、爆薬小鬼の力を持つゴブリンの群れを抑える事に失敗し続けた。


 その事態を打開したのは〝聖騎士〟ジュエル率いる〝聖騎士軍〟である。神殿騎士団の分隊と、主神教に組する国から派遣された神官職などで構成された軍隊は、諜報機関である信兵達の補助もあり、スムーズに各地のゴブリンを退け、次第に民衆から英雄視されるようになった。


 それらは無論、主神教団上層部の書いた筋書きを辿るものであったが、次第に彼らの予測を超える熱狂を帯び始める--そして現代の英雄信仰に危機感を覚えるのは、何も彼らばかりとは限らなかった。



「少しやり過ぎたか。こうも熱狂的な歓迎を見ると、不安になってくる」


 珍しく弱音を吐くラガン信兵長に、そば付きのマルセイは驚いて目を向けた。採光魔法使いの瞳に照らされたラガンは、


「どうも聖騎士様に関しては不穏な気配が纏わりついてくる。ゴブリン共の中に紛れた工作員の件はどうなった?」


 とマルセイに問うた。ゴブリンの工作員、それは戦闘に参加せずに、聖騎士ジュエル達を観察していた青ゴブリンの事である。その遺骸は詳しい検査のために、大聖堂内の分析機関に送られていた。


「それが、捕まえた時に自らの頭部を破壊したため、ほとんど情報が検出できませんでした」


 マルセイが悔しそうに呟く。彼は大聖堂に直接届けた後、分析官のリーダーとしてゴブリン解体に関わったが、採光魔法の出番が無いほどの損傷に、手も足も出なかったのだ……


「しかしこれだけは掴みました」


 と顔を近づける。その瞳から放たれる光に、ラガンの中に幻視が送られてくる。そこには巨大な女王蟻を連想させる白い虫腹を背景に、背中の曲がったゴブリンが映っていた。


「これは……」


 老いたゴブリンなのか? それにしては目の光に若さを感じる。異種族に対する観察眼には自信のあるラガンは、推定年齢10歳は超えないであろうゴブリンに興味を持った。


「死んだゴブリンが死の直前に発した魔力を捉え、可視化しました。女王ゴブリンに操られているはずのゴブリンが、他の個体の情報を残しながら死亡した……憶測ですが、この個体に操作されていた可能性が高いと思います」


 と告げる分析官に、鋭い視線を投げかけながら、


「では女王以外に命令系統が存在するということか。もしかしたらゴブリンの軍勢も一枚岩ではないかもしれんな」


 いまだ残る残像が、その個体の特異性を際立たせた。最初に感じた目の光、それはモンスターには無いものを秘めている……


 〝これは……人間の目だ〟


 ラガンが裏社会で培ってきた直観力が一つの解をもたらす。人間の目を持つゴブリンの指揮官、危険を告げる意識の内に、これはチャンスかも知れないという思考が湧き出てきた。ゴブリンの女王による絶対支配に、もう一つの指揮系統というひびが垣間見えた瞬間かも知れないのだから……


「マルセイ、そのまま信兵の部隊を率いてこのゴブリンを調べ上げろ。内通者との渡りは付けておく。厳しい任務になるが、この戦を左右するかも知れんぞ」


 言葉を受けて無言で退室するマルセイ。それを見送ったラガンは、側近に彼に付ける人選を告げると、自身が聖騎士の護衛を務めるための準備に取り掛かかった。

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