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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第四章 聖騎士団の受難
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飛翔

 爆発的に花開く、鋼睡蓮の鋭利な輝きに圧倒されたシアンは、背後の異空間に後ずさり吸い込まれた。

 バッシーー否、鋼の精霊は、ギクシャクとおぼつかない足取りでそれを追うと、素早く閉じる平面に倒れ込むように侵入する。


 異次元を駆けるシアンは、ブリストル・キングダムのさらに深部に穿たれた地下通路を探すが、神聖な気に満ちたゴルディ―神の火入れ月には、小さな綻び一つ見つけ得ず、舌打ちを漏らす。

 唯一の傷痕ともいうべき地龍の墓所は、不気味な侵入者であるバッシの背後にある。こうなっては一旦地上に出て、正規のルートから侵入しなおす方が安全か。


 ついでにバッシをこの空間に閉じ込めてしまえば、厄介払いができるかも知れない。そう結論付けたシアンは、地竜の餌場に意識を向けると平面を出現させた。その足元にこっそりと張り付いた鋼睡蓮の綱に気づけずにーー





 *****




 バッシの去った後、ドワーフ騎竜戦士団は、ゴウン達龍人族と共に、闇百足との戦闘を持ちこたえていた。持ち前のタフさと、兵器類の使用、さらには地竜の機動性を生かして、縦横無尽に地竜の餌場を駆ける。


 だが、神聖魔法を封じ込めた矢を関節部に集弾させても、分厚い外皮を破るのがやっとの現状。傷口は大量の瘴気によってすぐに固められ、高速の反撃を繰り出す触手に、徐々に数を減らされていく。さらには重い体を曲げ、移動を始めた闇百足ーーその向かう方向の地下には、ブリストル・キングダムの王宮があった。


 今まで号令を受けていた上級戦士が、一瞬にして吹き飛ばされ、触手と岩盤に挟まれてすり潰される。それを横目に、リグス戦士長は通信魔具の接続を切ると、結界石を操って被害を抑えているゴウンの元に向かい、


「このままではジリ貧だ、かといって我々が撤退するわけにはいかない。少しの時間で良い、何か足止めの策は無いか?」


 と問うた。自分達の技術に絶対の自信を持つドワーフ族が、他種族の助けを乞うのは珍しいが、事態はそれほど切羽詰まっているという事だろう。唯一の大型兵器である、竜車牽引型の大型弩バリスタが神聖魔法の宿る特殊大矢を放ったが、触手を数本吹き飛ばすのみで破壊されたのも、焦りの原因となっていた。


 他の龍人と共に結界石を操るゴウンは、ドワーフ騎士の操る地竜後部にまたがりながら、リグス戦士長に並ぶと、


「一時的な足止めならば、今ある結界石を使い潰す事で、再度結界内に封じ込められるかも知れません。しかしあれをされては、結界も組めません」


 と闇百足を指差す。それは丁度、うるさく飛び回る二匹の若龍に対して、獄火を放射しているところだった。頭頂部に生える老人の上半身から放たれた炎は、最初こそ大した威力ではなかったが、堰を切ったように熱量を増すと、一帯の温度が跳ね上げるほどの業火を放ち、空を赤く染める。


 定まらなかった方向が集束し、輝きをもって直進すると、若龍達は回避のために、遠くまでの撤退を余儀なくされた。


「龍が支える形で初めて組める結界です。球に触れるまで近寄らないと構築できません」


 と話す先から、獄火を掠らせた龍が墜落しそうになり、地上すれすれで風精を操り急浮上する。爆風に晒される地面には黒い血が滴り落ちた。


 ゴウンの後方にも触手が迫る。それを白息の結界で岩盤に吸着させるが、内の一本が強引に戒めを外すと、うねるように襲いかかった。

 リグス戦士長は、激しく駆ける騎竜の上で化合弓を構えると、神聖魔法の封じられた矢で触手を貫く。勢いの落ちないノーム謹製きんせいの鏃は、さらに奥の触手をも断ち切った。


 ゴウンは感謝の代わりに、新しい結界球を吐き出す。彼らの頭上に迫る触手の群れが、薄日に立ち込める瘴気に影を落としていた。音速を超える巨大な鞭が、高熱を纏って空を切る。目にも見えない無数の衝撃を、金光を纏ったリグス戦士長が射貫き、硬質な音を響かせた飛び散った肉塊に、瘴気が煙った。


「ゴウン殿無事か」


 リグスの問いに答える声は無く、新たな触手に備えて双鎚紋の戦斧を構えたリグスに、地面を跳ね飛んできた触手が迫る。咄嗟に竜首を巡らせると、無造作に金光を纏わせた斧を振り抜いた。


 目の前を飛んでいく触手の切れ端は太く、その断面から噴き出した瘴気を浴びた騎竜は、突然塞がれた視界にパニックを起こして、身を硬くする。

 それでも暴走しないところは軍用竜だけはあったが、一瞬の停止があだとなって、触手の群れに引きずり込まれ、炎熱に煙を上げながら足元から炭化させられていった。


 鳴き声ごと飲み込まれた竜を尻目に、金光に身を包み跳ね避けたリグスは戦斧を振るう。切っても切っても押し寄せる触手に、引いては斬り、移動しては矢を放ったが、小さな抵抗は巨大な質量に飲み込まれていった。


 灼熱の鞭が金光の消耗を誘い、微細な魔力コントロールも追いつかないほどの連撃が繰り出される。それを切り伏せ、最後の矢を放ったところで、闇百足の頭部が鎌首をあげて、リグスの頭上に屹立した。


 全ての熱が一瞬消えると、ある一点に向かって集束し、空中に禍々しい魔法陣を描く。その中心部から眩しい光線が放たれると、避ける間もなかった。一心に金光の出力を上げるリグスの、ゴルディー神の祝福月に、寵愛を受けし場所で発動した神聖強化魔法は、しかし呆気なく破られた。


 貫通する光線が血煙をあげながら地面を穿つ。その衝撃に打ちつけられたリグスは、貫かれた鎧を確認すると、すんでのところで致命傷を避けた事を知った。これが並の鎧であったならば、既に一巻の終わりだったであろう。


 優秀な鎧職人の仕事に感謝する暇もなく、続いて襲い来る触手に備える。圧倒される戦士長を救ったのは、部下達の放った一斉射撃だった。


「リグス戦士長! 早くこちらへ!」


 機械弩に取り付けたベルトを背中に回し、身の丈に見合わぬ大きさの方形盾を構えたドワーフ戦士達が、声を張り上げて上官を盾後に庇う。

 その頭上に触手が振るわれると、数人が魔力を振り絞って、衝撃を防いだ。


 灼熱の噴煙に耐える戦士達の目に、日頃の激しい訓練を潜り抜けてきた自負が宿る。頼もしき部下達の奮闘に反応したリグスの戦斧が引き戻される触手を断ち切った。


 盾の一団は、リグスを中心に数を増やすと、同じく群れを作るゴウンの結界と合流する。


「ゴウン殿、我が身を龍に運ばせて欲しい」


 リグスは使い物にならなくなった鎧を脱ぎ捨てると、部下の鎧を纏い直した。補充した矢筒と化合弓、そして戦斧を、新たな鎧にしっかりと結びつけていく。


「龍を……どこに飛ぶ気ですか?」


 結界魔法の連続使用に喘ぐゴウンが尋ねると、ドワーフ達に指示を出していたリグスは、


「闇百足の頭頂部だ。我が金斧をもって彼奴の炎を引きつける」


 告げるが早いか、闇百足の間合いから離れるように、走り出した。全体が一つの生き物のように移動する。その中で意思を通じさせたゴウンが、若龍の内、まだ被弾していない個体を呼び寄せる中、盾の上に触手の連撃が襲いかかった。


 血を吐きながらも歩みを止めない戦士達が、鬼の形相でゴウン達を庇う。その陣形がサッと割れると、上空から飛来した若龍が、中央のリグスを攫って急上昇した。


 その背中を狙って獄火の光線が空を切り裂く。当たる! と思った瞬間、両の翼に白息の結界が生まれると、爆風を巻き起こして、若龍を跳ね上げた。


 速力を得た龍が瘴気に霞む空に消える。瞬間、反転したドワーフ戦士団は、半数がその場に留まり、半数が小さな盾陣形を作り直してゴウンを逃した。


「な、何を?」


 取り残された戦士達は、地面に何かを設置し始めている。ゴウンがそこに結界の防御を与えようとすると、


「おやめ下さい、ゴウン様方は素早く闇百足を封じる結界の準備を。リグスを含め、我らは身をもってそれまでの時間を死守いたします」


 と熱い息を吐き出しながら告げた。その目には一切の迷いがなく、でたらめに地面を削る触手にも、怯えを見せない。


 その気迫に答えるように、ゴウン達は合一させた息吹を吐くと、一心に結界石の操作を強める。地面に打ち付けられていた大小様々な結界石の周りに、魔法陣の輝きが浮かび上がると、結界石自体からも光が溢れ出て、闇百足の周囲を回り始めた。


 その時、残してきたドワーフ戦士達の場所から、爆発音が轟く。爆炎石と呼ばれる、地面を削る事に長けたドワーフ達が用いる消耗魔具が炸裂したのだ。その周囲にいた戦士達の安否は不明、ゴウンの視線を受けた警護団は「承知の上」と言い放った。


 ゴウン達は、一心に結界石に祈りを捧げる。荒い息をつく戦士達に報いるためにも、彼らが守ろうとするドワーフの王国を守るためにも、ゴウン達は出し得る限りの魔力を注いで、結界石の準備を進めた。





 *****





 上空高く舞い上がった龍の背で、加速度に歯を噛みしめるリグスが、鱗の突起に身を埋める。全身に纏った金光の保護の内に、足を固定し、化合弓を構えると、急速に視界を過ぎる闇百足の頭頂部に弓を構えた。


 鏃に滾る金光が痛いほどに飽和し、魔鉄を熱する。フツフツと音を立てるその照準が、過ぎる闇百足の頭頂部を捉えた。金光に強化された視線が一直線に人型を捉える。そこには幾本もの同じような人型が揺れていたが、魔力を蓄えたそれは一目で見分けられた。


 瞬間、矢離れと共に金線が走る。それは点となって人型を貫き、分厚い胴体に埋没した。さらに二射、三射と放つ矢が闇百足を貫くと、遅れて空中に禍々しい魔法陣が現れる。


「行けいっ!」


 龍の言葉を知らぬリグスは、ドワーフの言葉でそう言って龍を蹴ると、上空から自由落下に闇百足へと迫った。蹴られた若龍は、質量に見合わぬ衝撃に横滑りすると、空を焼く獄火を回避して飛び去る。


 落下するリグスを三本の触手が迎撃した。捻れ振るう灼熱の鞭に金斧を振るうと、それを緩衝代わりに闇百足の表皮に降り立つ。


 腕に絡めた柄紐に斧を任せ、すぐに番えた矢に魔力を注ぐ。走りながらの射撃が貫く人型。先刻から続く手応えにもリグスは気を緩めなかった。三射目ーー明らかに異なる魔法陣を展開した人型は、その中に矢を吸収すると、ゆるりと蠢く。


 やはり一筋縄ではいかぬな。


 得物を化合弓から戦斧に変えたリグスは、上空に影なす触手を意識に入れつつ、魔力を滲ませる人型を見据えた。

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