表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第四章 聖騎士団の受難
141/196

アレフアベド地下空間

 アレフアベドに侵攻したタイタンは、バッシが討伐した〝あの〟タイタンでは無かった。

 魔法王国崩壊後に原種として持ち出され教授のコレクション、その中から世界情勢に合わせて急造された複製体のタイタン亜種ーーいわば使い捨ての存在である。


 寿命は短く、オリジナル程の魔力を持たない。そんな使い捨ての巨人兵にもそれなりの利点はあった。自我を持てぬほどに強められた軛の影響から、より命を惜しまずに消耗でき、補給を必要としない利便性と、死とともに土に還る情報の秘匿性は、攻め手に圧倒的なバリエーションを与え得る。


 優秀な手駒である劣化型人造巨人兵団《レッサー・ホムンクルス・ジャイアント・コープス》、その中でも大規模戦に長けたタイタン亜種は、巨人達を率いてアレフアベドの街を蹂躙しながら、ある地点に達すると集団で地下に潜行していった。

 深く進むにつれて明らかになっていくのは地下遺跡群、それは今のアレフアベドが作られる、遥か以前に存在した遺跡であった。


 土に埋もれた外壁はドーム状の建物へと続き、巨人達が詰める事のできる構造は、人間種が居住する空間とは思えぬ巨大さを誇る。


 以前に訪れた事が有るように迷いもなく進んだ一行は、ドームの中の土を操作して掻き出し、代わりに息苦しくなる程の巨人を詰め込んだ。


 肉同士の擦れる壁の正面には、何かを収めるための空間がぽっかりと口を開けている。そこにタイタンが手をつくと、凹みに合わせて土の装甲が変形した。その内部に仕込んだ教授の手土産アイテムが窪みにはまると、巨大な装置が動き始めて、地響きが耳をうつ。


 ドームの底が抜けると、巨大な穴に巨人達が落下して、滲み出る液体に浸された。滑り落ちて禄に立てなくなった一体が狂ったように暴れだすと、他の個体にも狂気が伝染していく。真っ赤な液体に染まった巨人達は、回転し始めたすり鉢状の穴に攪拌されると、混乱の極致に達して肉体を絡めあうーー


 巨大な地下遺跡自体が何らかの装置であり、前文明の秘匿物として今日まで地下に眠っていた。その存在を知る者も無く……いや、一部の者達には知る所だったのだろう。それ故にタイタン亜種は遣わされ、アレフアベド地下に超質量の働きを生み出した。


 地響きは地上の街にも震動となって伝わり、巨人達から逃げ惑う人々の足元をすくった。一際大きな縦揺れが街の石畳に亀裂を作った時、地に噴き出したのは血しぶきーーまるで巨人達の静脈から溢れ出たような赤黒い粘液が溢れ出ると、狂乱に揺れる街を満たしていった。





 *****





「何だこれは? 早く地下の様子を探らせろ、ベイルお前もだ。これが有害かどうか、お前の能力で分かるか?」


 フロイデの大音声が響く中、目の前にはとめどなく溢れ出る血液状の何かが広がり、とうとうフロイデやハムス達の居る場所まで迫っていた。


「え〜? またやるの〜?」


 と言うベイルをよそに、早速地下を探るフチは、地下に捉えた建造物の現状と、最前に確認した時との相違点を感知した。


「これは……魔力をはじく結界が消えています。内部にはより高度な魔術式が現れて……私でも理解不能です。それにこの血のような液体は、魔力の伝達を阻害しているわ」


 と告げながら、


「なにかが近づいて来ます、この大きさは巨人達かしら」


 とフロイデに向き直った。フチの水晶球には何も映っていなかったが、阻害されつつも高度な魔法操作に伝わる感覚からそう判断したようだ。


「外にいる目ぼしい巨人は討伐できた。残党をさっさとやっつけて、この血みたいな気持ち悪いのを何とかするぞ」


 フロイデの言葉に反対するものは無く、皆が一様に身構え、魔法を使える者は魔力を錬成する。目の前で裂けた地面からは、まるで産道から生まれ出るように粘液まみれの巨人達がゆっくりと這い出てきた。


「おかしいな〜、探ってみてもよく分かんないや〜。どうにも魔力が通らない感じ〜?」


 ベイルの声が耳に入るか否か、赤黒い巨人の群れは、兵士達の放つ無数の魔法に蹂躙され、目の前を埋め尽くす魔法に吸い込む息まで熱せられた。


「全く効いておらん、どうなっている?」


 フロイデが配下の魔法使いを止めると、目の前には血みどろの巨人達がのたりと蠢いた。重く纏った血液状の粘液は異臭を放ち、弾かれ固まりながらもボタリボタリと滑り落ちる。


「この血液状の物質に魔力を吸い取られているようです。魔法が身体まで届かずに分解されています」


 そうしている間にも巨人の足元からは血液状の液体が溢れ出し、ねっとりと街を覆い始める。


「フロイデ様をお守りしろ、隊列を組み前線を敷け」


 近衛兵長の号令一下、戦士達が二重の防衛線を敷く。ジュエルは結界を張ろうとしたが、兵士達の邪魔になる懸念から隊が整うのを待った。その逡巡の間に粘液が戦士の足元に到達、その末端に触れた兵士が狂ったように暴れだす。隊列が乱れると同時に、待っていたかのように巨人達が咆哮を上げ、突進して来た。


「その液体に触れるな! 錯乱した者を鎮圧、巨人は魔法を控えた物理攻撃を用いて遠距離で仕留めろ」


 フロイデは軍用バジリスクを操りながら、その背に挿した手槍を抜き取る。手槍とはいえ、大人の前腕ほどの太さを誇る槍を無造作に投げつけると、一体の巨人の心臓に命中させた。


 続いて配下の兵士達が、混乱した兵士を殴りつけて気絶させると、後ろ詰めの弓隊がクロスボウで太矢を放ち、手斧や手槍などの投擲物を放つ。だが前面を行く巨人達を数体倒したところで、あえなく前線同士が接触、接近戦に突入した。


 乱戦の中に割って入るのは、聖守護力場の青い壁。


 攻撃魔力が効かなくとも守りには活かせる。ジュエルの結界は十全に働き、巨人達の進行を食い止めた。後ろからハムスの幻影剣やフチの後光が撃ち込まれるが、効いているのかどうかが傍目にはわからない。


「だめだ、カースの兵士と同様に悪神の加護を得ている」


 ハムスの言葉どおり、十分なダメージを与えても支障なく動く巨人達、垣間見える傷口は即座に血液状の粘液で覆われ、塞がっていく。その内の一体が魔力を高めると、血だまりが腕に纏わりつき渦を描いた。


「土属性ーータイタンの魔法!」


 フチが後光をのばしてタイタンを攻めるが、血だまりの渦に絡まってうまく当てられない。その間に他の巨人が聖守護力場に取り付き、腕力と粘液をもって攻め立てた。

 フチ由来の魔力操作を得たジュエルは、その圧力を余裕をもって受け止める。今までならば全力をもって当たらなければならなかった聖守護力場を、最低の魔力消費で維持でき、さらに負荷が掛かる場面に適切な力を発揮できた。


 だが、そこに血混じりの土嵐が打ち付けられると、力場に費やしていた魔力が分解するように消滅していく。さらに反対側の腕から放たれた土嵐の突きが、辛うじて維持していた結界に放たれると、結界維持の魔法操作が複雑化して、ジュエルの手から滑り落ちたーー瞬時に同期するフチの意識が流れ込み、後光の助けも得てなんとかその一撃を凌ぎきる。


「血の抗魔力を甘く見ないで」


 フチの警告に魔力を上げるも、一度管理を手放し崩壊し始めた結界は止めようがなく、呆気なく他の巨人達の粘液混じりの一撃に破られる。理解を超えた事態にジュエルはパニックを起こしそうになるが、シンハの後光を纏った斬撃に時間を稼いでもらうと、一瞬の内にフチの意識が完全に乗っ取り、聖守護力場を立て直した。その時、ジュエルは完全に傍観者となり果てる。


「ゆっくりでいいから、主導権を取り戻して。この血の分析に魔力を費やすベイルの手助けをしたいの」


 必死に耐える事しばし、再び自力で結界を張りなおしたジュエルは、魔力の循環がいつ途切れてもおかしくないほどの魔力を消費しなが結界の出力をあげる。少しの間に学習した魔力操作と、成長した聖騎士の鎧の加護がジュエルを後押しして、赤の土嵐を繰り出すタイタン達を押し返し始めた。


 だがそれと同時に違和感を覚える。それは結界の主導権をフチに譲渡し、俯瞰的ふかんてきに状況を眺めていた際に覚えた引っかかり。


 はっきりとは断定できないが、粘液の流れに変化ができはじめている。特に結界によって停滞している場所にかゆ状の血だまりができているように見えた。それごと結界の力で押し退けようとすると、却ってその摩擦で粘度が増し、糊付けされていく。そうする内に、守られているはずの結界内部に変化が生じだした。


 感覚異常ーーある者は手足に力が入らなくなり、ある者はめまいを覚え、酷い者は頭痛のために嘔吐した。ジュエル自身も物が二重に見え、左半身に軽い痺れを覚える。


 焦りは魔力操作を困難にする、それをなんとかこらえて味方の分析を待つが、その間にも痺れは増して思考も纏まらなくなってきた。


「あれは!?」


 その時、上空を見上げたフチの視界が煌めく魔光を捉える。それは急速に巨大化すると、地面に落下する直前で巨大な羽を広げ、爆風をもって再び上空へと飛び上がった。


「剣龍ミュゼルエルド、という事は……」


 上空で閃光を放つドラゴンの口から、眩しいほどの光柱が放たれると、それを受けた地面が沸騰し、余波が聖守護力場を打つ。


 ミュゼルエルドの超高温のブレスによって、血みどろの巨人達が溶けていった。だが、


「ダメだよ~、高温で血液これを焼いちゃだめだ~」


 警告を発するベイルが手を交差させる。その目の前で、煮えたぎる粘液から血霧のような瘴気が立ち昇った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ