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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第四章 聖騎士団の受難
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白刃に死す

 無言の将軍は、土煙の上がる戦場にあって、そこだけが凪いでいるかのように静かに歩んでいた。実際彼のことを気にかけているのはバッシのみらしく、他者はそれぞれの戦闘に埋没している。


 それは歴戦の猛者であるハムスやベイル達にしても同じらしく、まるで絞り込んだようにバッシにだけ認識できるーー上空には肉男が潮流し、真赤が将軍の銀を浮き上がらせた。


 バッシの後ろでは、ウーシアが新たな肉男達に対処しようと霊化を始めている。それを肌で感じ取ったバッシは、半ばまで肉体を残したウーシアを戦闘圏外まで押し出すと、将軍へと突貫した。


 赤に佇む将軍を中心に、まるで道が開けているかのように周囲の干渉を受けない空間が広がっている。


 一歩進む毎に手汗が知覚され、体の動きと心が乖離していくのが分かった。さらに冷気が毛穴を縮め、気持ちも小さく固く萎縮させる。


 間も無く将軍と対峙したバッシは、敵わないながらも仲間達を逃す事ができるように祈りながら剣を振るった。


 刹那の白光、と同時に、


「お前では無い」


 と腹に響くような低い声が放たれる。訳の分からぬ間に地面に打ち捨てられたバッシは、それだけで金縛りにあうと、目だけを動かし、一瞬にして穴を穿たれた四肢の関節を見た。


 冷気に固まる穴を血液の熱が溶かし、さらに脈動と共に地面に溢れ吸収されていく。超回復が軟骨から穿たれた肉体を形成しなおしていくが、間違った形に固まる懸念から動かす事はできなかった。


 〝鋼の精霊すら反応できなかった〟


 今までにない現象にバッシの頭が支配される。力の差は認識していたが、精霊との同期による力の発動だけは通用すると思っていた。だがあの白い光はーー鋼の精霊の反応すら上回っている。


 将軍はもはやバッシなど眼中に無い様子で、後方を見据えて立っていた。


 その時、空間に銀色の靄が生まれると、切り裂く人影が伸びる。その足元を見た瞬間、バッシは希望に目を輝かせて顔を上げた。


「ウォード」


 剣聖と呼ばれた男は、しかし最前見た時の精気を失っていた。失われた左目に嫌な予感を覚えたバッシは、回復した手足を操り、赤黒い空間のなるべく端に身を寄せ、剣を構える。


 その眼前で、将軍の元へと歩み寄ったウォードは、腰元の収納袋から片手大のオーブを取り出すと、うやうやしく将軍に差し出した。


 それを白い光とともに変形させた内臓に収めようとした将軍に、


「この聖なる玉(ホーリー・オーブ)には欠点がある」


 と告げる。それを聞いた将軍の腕が一瞬刃状に固まるのを無視して、


「力の代償だ。お主にかけられたくびきを解くほどの力は、お主の身体にも影響を及ぼす。その副作用はお主の力を打ち消すやも知れぬ」


 と言って将軍の腹に収まる玉を指差した。そこでは滲み出る力の影響から真銀が液状化し、影響が及ばない範囲の真銀を器に、玉を封じ込めている。

 光を通さないはずの真銀ごしにそれが見える時点で異常である。だがそれを不思議と思わせないほどの力が玉からは溢れ出ていた。


「これももうだめになった」


 と収納袋を地面に打ち捨てるウォードに、近寄った将軍が手をかざす。だがそれを避けるように身を離したウォードは、


真銀片こいつは自分で何とかする、それほどお前を信用しちゃいない。それは俺に勝った褒美だ」


 と言葉を残して踵を返す。すぐそばを無言で通り過ぎるウォードに、


「リロがさらわれた」


 と思わず声をかけたバッシ。そちらを見もせずに、


「俺は今何もできない、先に行って待っている」


 と言葉を残して靄の中に足を踏み入れた。


「力の限り仲間を守れ」


 との言葉を残して。


 どこで待つのか? 何故助けてくれないのか? 全く理解不能ながらも、のっぴきならない事情がある事だけは伝わる。それと共に苛烈な剣聖の剣技が脳裏に蘇った。


 将軍は腹の玉に手を当てて、白い光を集極させている。溢れ出る力を制御しようとしているその姿に、今なら対処できるかも知れないとの機を見て、鋼の大剣に意識を向けた。


 すぐに返ってくる鋼の精霊の意識が、


 〝バッシ〟〝逃げろ〟


 と避難を呼びかけるが、人造巨人兵団に所属していたバッシには分かる事があった。


 一度侵攻した都市では、破壊の限りを尽くさなければ撤退する事は無い。そうして恐怖心を植え付けるのが魔法王国の常套手段であり、〝教授〟と呼ばれる人物が関与している限り、その姿勢は変わるべくも無かった。


「教授は健在か?」


 と尋ねると、初めてバッシを見据え、返事の代わりに片手を伸ばす。目の前で変化する爪の先が一体化し、銀線となってバッシに伸びた。


 何とか大剣を打ち合わせようとした眼前で、白い光が弾けると、飛び散った針金状の真銀がバッシに伸びる。


 銀光の粘つく空気の中を必死に動こうとして、余計な力が入る。さっきまでの自由な動きは消え去り、目の前で肉を貫く真銀を見る事しかできなかった。


 内部で爆ぜる真銀に、肉体を削られる。骨を振動させる衝撃に、痛覚が後から追いついて来た。


 急激に消費される熱量カロリーと引き換えに、傷ついた先から回復する体。再合成される筋肉と龍装が、根を張ろうとする真銀を盛り返し、体外に放出すると、それは将軍の操作で本体に戻って行く。


 ーーその時、生命の危機にバッシの中で何かが閃いたーー


 傷ついた足に龍装の蓋をして、大きく踏み込むと、頭に描く剣聖の動きと己の身体が自然と一体化するのを感じる。さらにその感覚をも頭から手放すと、銀光の世界で動きが制限される事からも意識を離し、一瞬剣を振るう事をも忘れた瞬間ーー


 バッシの表皮一枚外側で銀光が爆発し、その周囲を睡蓮火が覆った。


 目の前では反対の腕を打ち下ろして、バッシを両断しようとする手刀が迫る。睡蓮火圏内に突入した手刀の際が発火し、真銀を薄く焼くと、白い光が爆ぜた。


 反発する銀光が白い光を押し留める。睡蓮火は銀光に加勢するかのように燃え盛り白光を押し返すと、その隙間に大剣が滑り込んだ。


 将軍の胸に刃が伸びた瞬間、傷口から新たな白光が漏れ出し、槍状の飛沫がバッシを貫く。それは分厚く張った龍装をも貫き、バッシの内臓を捉えると炸裂した。衝撃にこらえようと踏ん張った足が無い事に気付いた時には、そのまま地面に打ち付けられ、勢いよくバウンドした体から大剣がこぼれ落ちそうになるのを、握りしめて耐える。視界の隅に飛び散った足を見ながら。


 睡蓮火はなおもバッシを応援し、白い光が貫こうとするのを焼き切った。


 残る足爪を地面に突き立てたバッシは、体を地面に横たえたまま、捻るように大剣を振るう。その腕と将軍の手刀が打ち合った瞬間、白光と銀光が激しく火花を散らして、視界を染めた。


 意識を取り戻した時、バッシが知覚したのは、後方に吹き飛ぶ己の右腕と鋼の大剣。左腕は上腕からあらぬ方向に曲がっている。


 跳ねた体が地面に着く直前、将軍の傷口から伸びる槍がバッシを貫いた。


 龍装の表皮を破り、筋肉を分け入り、肋骨を削って心臓を貫き、裏側の肋骨を折りながら筋肉を貫き、大量の血液を伴って龍装を破った真銀の槍が、地面に突き立つ。


 〝バッシ〟


 と意識を引っ張る鋼の精霊の声を聞きながら、吸い込まれるように睡蓮火に包まれたバッシの体が〝銀光の世界そのもの〟に吸い込まれて行く。


 その頭部に指先を突き込もうとした将軍は、地面を貫く己の手を引き抜くと、バッシの消えた空間を見た。


『剣聖と同じ場所に行ったか……』


 と周囲を見回すと、異空間を提供していたカースと目が合う。いやらしい笑顔を作るカースが、


「お楽しみは終わりましたか? その腹はひどく目立つから早く何とかしなさい」


 と肉男の塊を地面に投げて寄越した。肉塊の中に展開する異空間は、女神の内臓を現している。


「それをやろう、いつでも取り出せるようにしておいた。教授には内緒だよ」


 と口に手をやって片目をつぶる。その空間に取り出した玉を入れると、異空間を閉じた肉男達は一体の人型を形成し、将軍に付き従った。


「さてと、我々はしばらく姿を消そう、とりあえず役割は果たしました。それに本来の目的が待っていますからね。一人が死ねば力を失っていく運命共同体の死兵とは言え、貴重な三ツ子剣士を消費する羽目になるとは、計算外でした」


 と言って、肉男たちを束ねたカースは赤黒い空間の向こうに消えていった。残された将軍は身体に意識を向ける。


 玉を取り出したとはいえ、内部の真銀に受けたダメージと、消費したエネルギーを癒す事に集中力を要する。そこで初めてバッシに付けられた傷口が癒えにくい事に気付くと、鋼の大剣を探した。

 切り飛ばしたバッシの腕に握られた剣は……しかし打ち捨てられた地面に見当たらない。


 鋼の精霊ーー真銀の精霊には無い力の発露を記憶した将軍は、同じく鋼の精霊使いである剣聖のもたらした玉に思考を向ける。


 撃ち込んだ真銀片を抜き取る事を拒絶した彼の真意が読めない。そして手に入れるはずだった、教授の〝真なる軛〟を消し去る手段は、使用する事もままならず、肉男の体内に隠し持ったままである。


 忌々しげに肉男を掴んだ将軍は、喧騒に沸く戦場を無視して、紅竜を呼び寄せると、空中の相棒に肉男を放り投げ、自らも地表すれすれに飛ぶ紅竜の足に掴まって、戦乱に揺れるアレフアベドを後にした。

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