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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第四章 聖騎士団の受難
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魔剣士と紫間者

 青血戦士団ブルー・ブラッズを筆頭とする私兵を引き連れたテオドールは、シアン達が聖騎士団を追いたてて来るのを待って、街道そばの森林に身を潜めていた。

 木こりが伐採した広場状の空間に、数十名の男達が立派な鎧を着込んで集まる姿は、一種異様な光景といえる。


 万が一シアン達が討ちもらした際は、時間をみて進軍する手はずとなっていた。だが相手はたったの四人、しかも巨獣との戦闘後を狙っての襲撃である。引き入れた冒険者達の数と、それを率いるシアンの精神魔法との相性から、テオドールはほぼ彼らのみで勝負が決すると踏んでいた。


 余裕を持つ指導者の元、配下の兵達も半ば緩み、雑談を交わしたり、中には地面にだらしなく腰を下ろす者もいる。直属の部下である青血戦士団も手慰みに草を切りつけて、今夜の遊興に心を飛ばす始末であった。


「それにしても遅いな」


 テオドールがシアンからの使者が来ない事に違和感を唱えると、数人の取り巻きが賛同する。それを聞いた他の者達は、進軍する必要が有りそうだと、渋々出立の準備に取り掛かった。


 その一人、テオドールの世話を務める下男は、実は彼の父親である大貴族が遣わせた間者である。その中でも最上位を表す〝紫間者むらさきかんじゃ〟と呼ばれる彼の任務の中には、陰からテオドールを助け、危険を前もって排除し、敵対してはいけない相手には裏から手を回すなどの他に、テオドール自身を監視、査定する事も含まれていた。


 その男が馬を取りに木立に入った瞬間、違和感を察知して懐から短剣を抜く。


「流石は伯爵家お抱え〜、気配を悟るの早すぎ〜」


 うっ、と息を吐くその首元に、後ろから黄金の魔光を纏った短剣があてがわれる。皮膚に感じる魔力の質は以前にも味わったものだった。それは全てを悟られてしまう〝吸知〟と呼ばれるある男固有の能力……


「ベイルか、お主が何故ここに?」


 何か策を講じれば即座に刃を引かれるという状況でも声音一つ変えない男が、単純に疑問を口にした。


「あれ〜? 質問できるのはどっちかな〜?」


 ケラケラと笑うベイルの後ろで、多数の人間が動く気配がした。だが囲まれようとしているテオドール達は、気づく様子もない。


 命を賭してこの状況を知らせようか? と頭の片隅に思い浮かべた男に、


「やめときなよ〜、紫間者ともあろう者が〜、命を賭す案件かなぁ〜。伯爵に知らせてよ〜、アホな息子がやられちゃったって。まあ救う価値もないだろうから、公表までに離縁する時間はあげるよ〜」


 こいつ、頭の中を全て覗いたんじゃなかろうか? 複雑なお家事情と、今回のテオドールの一件に関して、絶妙な提案をしてくる。紫間者の中で判断がつかぬまま、


「それは……」


 と続けようとすると、間髪入れずに、


「そう、お前が決められることじゃあないね〜、だけど今死ぬか、報告して処罰をうけるか〜? どちらにしてもテオドールを救う道は無いんだよ〜。もうそんな時間が無いからね〜、分かるでしょ?」


 真顔のベイルが断ずると、それを聞いた男の体から力が抜けた、降参の合図だ。


 ふらりと離脱する男の背中を見て、ベイルに近寄った部下が、


「よろしいので?」


 と声をかけると、


「いいよいいよ〜、ほっといて〜。それより向こうはどうだい〜?」


 と紫間者を見送った。


「強襲準備完了です、いつでもご命令を。それにしても奴は命拾いをしましたね」


 と既に姿を消した紫間者の方を見る。しかし額の汗を拭ったベイルは、


「それはこっちの方だよ〜、あいつとやり合って生きてる奴居ないからね〜、ふぅ〜っ」


 と大げさに安堵の吐息をついた。チラリと横目でみると、部下の男が信じられないといった目を向けている。それに肩をすくめてみせると、


「さて〜、お守りも居なくなったし〜、チャッチャとあれ片付けちゃうよ〜」


 と魔光の靄をまとう短剣を向けた。その先には、下男の用意する馬の到着を待つテオドールの姿があった。





 *****





「遅い! 馬はまだか?」


 と声を荒げるテオドールに、答える者は居なかった。今から出立という出鼻を挫かれるのは、全体の士気にも関わる。

 何事もそつなくこなす優秀な下男にしては珍しい手落ちに、苛立つテオドール。周囲の者が慌てて馬を連れてこようとした時、それはふいに現れた。


 艶めく栗毛も優美なテオドールの愛馬が、誰に連れられる訳でも無く皆の前に歩み出る。


 それを見て一瞬呆気にとられたテオドールは、


「何故馬が放たれているのだ! 早く捕まえろ」


 と怒鳴り散らし、部下をけしかけた。一斉に押し寄せる男達に怯んだ馬は、興奮して棹立ちになる。その瞬間、鞍から煙が上がると、いっそう興奮した馬が暴走した。


 暴れる馬から逃げる者、煙にまかれてむせる者などで場が乱れる中、テオドールの苛立ちは頂点に達し、


「何をしておるかっ! この煙は何だ? 早く馬を鎮めろ、殺しても構わん!」


 と命令を下すと、自らも長剣を抜き魔力を纏わせる。金に糸目をつけずに手に入れた魔剣は青く光り、煙に支配された場に浮き立った。


「テオドール様、この煙は……」


 近くの部下が言いかけて地面に倒れ伏す。


「おい、どうした、おい!」


 と足蹴に起こそうとするが、強めに蹴っても踏んでも反応を見せない。これは……


「毒煙か!?」


 と呟く耳元に、


「ご名答〜」


 と気軽な声が返った。振り向きざまに長剣を振るうと、口元を布で覆った小男が、二本の短剣を閃かせてテオドールを伺っている。その笑いを含んだ目に苛立ちをおぼえたテオドールは、


「毒など、防御膜を作る我が鎧には通じぬわ! くらえっ!」


 と長剣を振るうが、簡単に躱されると、鋭い突きを返されそうになった。


「待ってください」


 と後方から声がかかる。援軍か? と耳目を向けたテオドールが見たのは、ゲマインの所属するパーティー〝賢剣顎楽トゥーマルタス〟の副リーダー、ゼバスだった。


 魔力紋の浮き出た半月刀シミターが、布のマスクで口元を覆いつつも険しい表情の中年女を赤く照らす。それはテオドールの青光の剣と対照的で、彼女の怒りを代弁するかのように強く輝いていた。


「こいつは元々は我が軍団の一員、軍団の不始末は軍団の手にお任せ下さい」


 テオドールを見据えながらベイルに願い出る。獲物を譲る気の無いゼバスに、面倒くさがりのベイルは嫌も応もなく、


「いいよ〜、じゃあ頼んだね〜」


 と返事を残して煙の向こうに去って行った。その間ザバスの冷眼を浴び続けたテオドールは、


「何のつもりだ!」


 と長剣を突きつけて怒りの声をぶつける。それを受けて微動だにしないゼバスは、


「自分の胸に聞け、聖騎士団を狙ったな。あれはすでに我らの身内、そして抜けたお前達は赤の他人。身内を狙うものには容赦しないよ」


 と言い放つと、まるで処刑人のように半月刀を振り下ろす。溜め込んだ魔力は空気を切り裂き、轟音をあげた。その一振りで発生した高温に顔の皮膚を焼かれたテオドールは、大きく避けると背中の円形盾を取り出し、熱を遮断しようとする。


 鎧同様豪奢な彫り物の施された盾は、魔法防御力を高める効果があり、耐えられないほど上がっていた場の空気を変えた。


 ゼバスの手の内を知り尽くしているテオドールは、左手指輪に溜め込んだ炎の魔力を警戒する。だが彼女にとってもそれは好都合ーー左手に意識を分散させているならば、半月刀で攻め易い。


 振るえば振るうほど炎気をあげる半月刀をいなすテオドールは、長剣を打ち合わせた瞬間に弾き飛ばされた。


「おのれ、うっとおしい女め」


 と苛だたし気な声と共に、青い光を宿した剣を振るう。その斬撃は空気を凍らせ、見えない水面に薄氷が張るように、魔力の手を伸ばした。


 ゼバスとてテオドールの氷断剣の威力は先刻承知である。左手の指輪に溜め込んでいた炎魔法を解放すると、螺旋状の炎が空気を飲み込みながら膨大な熱量を放ち、氷魔法と反発しあって小さからぬ爆発を起こした。


 さらに二条の氷断斬撃が襲う、嫌らしい事に微妙に速度を変えており、錯覚を誘うその技量は見事としか言えなかった。


 だがそれだけに、なおいっそうゼバスの胸を怒りがこみ上げる。恵まれた環境に恵まれた能力、これだけの逸材も精神が鍛えられていなければ意味がない。

 こいつのためにどれだけゲマインが心を砕いてきたか! と燃え立つ気持ちが火力を強める。


 その場に魔力核を形成すると、火炎放射をそれに任せて、半月刀の魔力紋を爆ぜさせて推進力を得る。

 そのまま地を這うように駆け抜けたゼバスは、刀に引かれるように突きを放った。


 その踏み足の地面では、先ほど放った第三の氷断がトラップとして仕込まれており、テオドールは酷薄な笑みを見せながら、とどめの剣を振りかぶる。だがそのトラップは発動せずに、反対に半月刀が突き込まれた。


 灼熱の刀身が騎士甲冑ナイト・メイルの魔法防御を焼き切って、赤熱化した装甲の臭いが鼻をつく。

 踏み足に魔力核を宿したゼバスは、氷断魔法のトラップを打ち砕いた反発で跳び上がりながら、突き込んだ刃を返して、さらに斬りつけた。


 辛うじて魔法の甲冑由来の増力をもって、迫る半月刀をいなしたテオドールに、ゼバスが、


「お前のやり口を知らない筈がないだろう!」


 と怒鳴りつけるながら連続した斬撃をみまう。盾の奥から憎悪の瞳をギラつかせたテオドールは、


「ならばこれも受けてみよ!」


 と耳が痛くなるほどに魔力を溜めきった魔剣を振るうと、多重氷断を内包した斬撃を繰り出した。

 凍りつく空気を引き裂くように、四重氷断の花が咲く。捨て身のテオドールがありったけの魔力を込めただけあって、膨大な魔力の爆発は巨大な氷の刃を瞬時に伸ばし、ゼバスの火炎を切り裂いて血と魔光を散らした。


 視覚を奪う輝きに、手応えを感じたテオドールは、トドメとばかりに追撃を振るう。その足元に熱を感じた瞬間、炎核のトラップが火柱を上げた。


 超高温に右足を焼失したテオドールは、絶叫をあげて地面に転がり、髪を振り乱し土まみれの顔には、脂汗が噴き出る。

 

 その頭部が何かに固定されると、見上げる視界はゼバスの靴裏に支配されーー


「まてっ!」


 と言う間も無く、喉元に当てられた灼熱の刃が引かれる。皮膚を焼き、溢れる血を沸騰させた半月刀は、血煙を発生させながら、テオドールの命を掻き切った。

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