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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第四章 聖騎士団の受難
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三人VS冒険者

 付かず離れずの遠距離戦法は、ジュエルを苛立たせていた。神聖魔法や聖戦技には遠距離攻撃が無いため、距離を保って戦う敵はとらえにくく、苦し紛れに繰り出す守護力場デバイン・アーマーや力場を纏わせた盾撃シールド・バッシュも、柔らかい地盤のために空回り、上手く機能しなかった。


 逆に敵は地形を活かしてジュエルを翻弄し、クロスボウや投げ槍などで魔力消費を促進させて、ジュエルの魔力切れを狙ってくる。


 バッシやウーシアと離れすぎないように気を付けても、精神魔法に干渉された男達は、息を合わせてジュエルを攻め立てた。そうして場当たり的な対応をせざるを得ないジュエルは、徐々に男達の思惑にはまっていく……


 少し窪んだ地形に足を踏み入れた時、彼らの意識が一点に集まっている事に気がついた。だが時すでに遅し、後方から呪文の詠唱が響いたと思えば、足元の地面が突然緩み、落とし穴がジュエルを飲み込む。


「うわっ!」


 と間抜けな声をあげて落下した直後、穴の上方から通常ではあり得ない量の土が覆いかぶさると、内側から岩を擦り合わせるような轟音が響いた。


「な〜にが聖騎士かね? こんな簡単な罠に嵌るなんて、チョロいもんだ」


 土魔法の罠を仕掛けた張本人である剛利衆リーダー、モウマッカが部下達と笑い合う。精神魔法が過剰に心を浮き立たせ、偉そうにしていた聖騎士が、呆気なく術中に嵌まった事に笑いが止まらなかった。


 五体満足なジュエルを拘束出来なかったのは惜しかったが、格上相手に贅沢は言ってられないだろう。始末した証拠に後から鎧の一部でも回収すれば、万事解決だ。


 次はバッシか、それとも犬人族の女を嵌めて、バッシを悔しがらせてやるのも面白いか? と思考を巡らせながらその場を離れようとした時、モウマッカの足元が爆ぜた。


 巨大な岩が跳ねて、戦士達にぶつかり、勢いを止めずに後続を巻き込む。際どい所で直撃を避けたモウマッカが、へたりこんだまま恐る恐る穴を覗き込むと、穴から伸びる手に頭部を掴まれて、万力のように締め上げられた。


 悲鳴をあげるモウマッカを手掛かりに這い上がったジュエルは、異音を発する頭蓋骨をさらに握りしめると、周囲を睥睨へいげいする。遠巻きに警戒する戦士達が手をだしかねていると、その中心に向かって、手中の男を放り投げた。


 見事な放物線を描いて、手足をばたつかせるモウマッカが宙を舞う。それを受け止めてくれる者はおらず、地面に落下して、


「グエッ」


 と潰れた蛙のような声をあげると、痙攣して動かなくなった。


 静かに立つジュエルからは、聖なる青い光が靄のように立ち昇り、構えもとらない彼女の体を数倍大きく見せる。舞い上がる土ほこりが光を受けて、キラキラと宙を遊んだ。


 気押された男達が固唾を飲んだ時、彼らの腹を熱するような精神魔法の火種が再び延焼すると、隊列を組み直し、遠巻きにジュエルを伺う。


 突然弾かれたようにジュエルの体が宙を舞い、着地点でホーリーメイスを振るい、一人の兵士を地面に叩きつける。自身の背中にホーリー・バーストを仕掛けて、人間弾頭と化して跳んだジュエルは、打ち据えた反動に足蹴りを加えると、正面の男達に衝突していった。


 ホーリー・バーストの突撃は男達を潰し、後続の戦士達を押し込んでも止まらない。さらに立膝をついて遠射してくる者達に、抱えた男達の残骸を飛ばして目隠しをすると、横っ跳びの後、空間に守護力場デバイン・アーマーを発生させて足場とし、空中を駆け上がった。


 完全にジュエルを見失った集団を頭上から見下ろすと、その中心の男の頭上に落下する。板金補強された鎧が踏み抜かれ、海老を剥くような音をたてて男の頭が潰された。


 さらに盾撃シールド・バッシュで隣の男を吹き飛ばし、後続も巻き込んで地面に磨り潰してゆく。バウンドした男の頭を、容赦なくホーリー・メイスでかち割ると、噴き出る血が聖光に炙られて蒸発した。


 しかし一方的な殺戮にも、怖気おじけ付く事を許されない男達は、未だ尽きぬ構成員で機械的に布陣を敷き直す。その様子に怒りを通り越し、恐れすら抱きはじめたジュエルは、血脂に穢れ、滑るメイスを握り直しながら、一心不乱に戦った。


 バッシとウーシアが駆けつけた時、最後の一人を倒したジュエルは、荒ぶる一撃をバッシにも向けそうになる。


「ジュエル! 俺だ」


 と声を掛けられて初めて我に返ったジュエルは、灼けた血に穢された面頬を上げ、過呼吸気味の息と共に目を見開いていた。瞳孔は完全に開き、バッシを認めてようやく収縮する。


「まだまだ追っ手が居るワンウ、しかも前方にはもっと沢山の兵が潜んでいるワン」


 霊剣を構えるウーシアが、逃げ場を探って周囲を探知するが、どうやらすっかり囲まれてしまったらしい。

 ならば少数のこちらは一点突破を仕掛けるしかあるまいと、地形が味方する高低差のある場所を目指した。


 移動中にも拙攻らしき奴隷戦士の小集団に出くわし、足留めをくらう。相手に戦う意思はなく、遠距離攻撃を仕掛けてくるものの、押してはすぐに引き、バッシ達を、伏兵のもとへ誘導しようとする意図が見え見えだった。


 それらを見切って進むものの、後ろから射かけてくる太矢というものは案外厄介で、殿しんがりを務めるバッシが龍装を展開する肩や背中で受けるものの、


「気をつけるワン、毒が仕込んであるワン」


 というウーシアの言葉に油断できない状況が続く。その包囲網はどんどんと狭まり、切り立った小さな崖に着く頃には、周囲を二重、三重に取り囲まれてしまった。


 それらを見下ろしたジュエルが、


「お前達の望みは何だ? まさか私たちの持つ僅かな金品という訳ではあるまい?」


 と尋ねると、奥の方から頭部に応急処置を施した片目の鞭女が、


「お前らの日頃の行いに聞いてみな! あたいらはどんなに頑張ってもメジャーに昇級できない。お前らはひいきが酷すぎるんだよ!」


 と金切り声を上げた。詰め掛けた戦士達が口々に同意の雄叫びをあげる。それによって場の温度が上がったような錯覚を受けるほど、異様な興奮状態だった。その原因を作っているのは、明らかに精神魔法使いのシアンだろう。


「シアン! お前はどういうつもりだ!? まさか昇格試験の意趣返しか? リロをどこにやった。人攫いとは、どこまで落ちぶれるつもりだ」


 と、バッシが吠えると、遠くの木立から、


「人攫いだと? 我らは知らん、意趣返しなども関係無い。我らの深慮など貴様らに語る必要も無い!」


 と思わず声が上がる。若輩ゆえの浅慮か、一番隠匿すべき戦いの要(シアン)の身の置き所を知らせる行為に、仲間であるはずの傭兵団の団長が舌打ちをした。


 ジュエルは神聖魔法の一つにある邪悪視イービル・アイでシアンを見定めたが、言葉に嘘はなさそうだ。という事はリロ誘拐に彼らは関係無いか、知らされていないかのどちらかだろう。


 ウーシアは彼らの位置を正確にとらえると、その臭いを記憶して、片目の女とともにいつでも追跡できるようにした。ジュエルに頷くと、いつでも霊化によって身を隠せるように一歩下がる。


 そうとは知らない傭兵団の団長は、シアンの失策を誤魔化すように、


「今投降すれば、身柄の拘束だけで済ませてやる、だが抵抗するならば、酷い扱いを受ける事になるぞ。特に若いお嬢さん方はな」


 とがなりたてると、手下達が下卑た笑いで賛同した。


 その言葉を受けたウーシアは朧になって周囲に身を溶かし込み、バッシは無造作に駆け出す。立ち尽くすジュエルは、


「酷い扱いを受けるのは、お前達だ!」


 と聖守護力場ホーリー・メイルを急展開した。それは彼女の怒気を反映するかのように一気に青光を広げると、半径100メートルほどの円を作り、仲間以外のものを全ての撥ね飛ばす。


 突然衝撃を受けて面食らった敵の中に、荒れ狂う剣風が舞い、男達の血花を咲かせた。素早い中にも、重量級の足爪の踏み音が駆け抜ける。猛烈な突進で片っ端から斬りつけるバッシは、集団を追い込むように端へ端へと斬りつけて行った。


 冒険者達が陣形を立て直そうとする中、要となる片目の女や傭兵団の団長が、一人、また一人と消えていく。霊化したウーシアの暗殺術は乱戦状態を隠れ蓑に、静かに遂行された。

 いくら精神魔法で意識を高めても、所詮はD級冒険者の寄せ集めである。後方からジュエルも戦列に加わると、戦槌の餌食となった彼らは、為すすべもなく数を減らしていった。


「何故こうなった? テオドール様はまだ到着しないのか」


 焦るシアンが、合流するはずだったテオドールを心の中で罵倒する。状況は切迫し、もはや手駒は僅か……自身が無事に離脱できるかどうかも怪しくなっていた。

 こんな筈では無かった、テオドールは自分を見捨てたのか? 理由が分からない。この戦い自体もテオドールの我儘のような思いつきから始まったのに。


「だからあの時、訳の分からぬ者に助成を願うのは、愚かな行為だと言ったのに」


 シアンはヤマタ国で手を組んだカースの事を、得体の知れない不気味な男だと警戒していた。彼と組み出してからのテオドールは、奇行に拍車がかかっている。


 本格的に逃走を始めたシアンが、愚痴を吐きながら山道を駆け下る。その足元で、


 〝バチン!〟


 と何かが爆ぜると、バランスを崩した彼は、斜面を転げ落ちた。真っ白な硬革鎧が土にまみれ、その一部が口にも入る。


 何とか停止したシアンは唾とともに土を吐き出すと、罵りの声をあげながら、周囲を警戒して抜剣した。鞘鳴りが森に吸収されると、静けさのみが支配する。


 何も無い、気のせいか? と振り向いた時、目の前の空間が白く流動した。


 即座に剣を振るい、


「俺は強い、強い、お前は弱いっ!」


 と懇願するように精神魔法を唱えると、真っ赤に充血した目で長剣を空斬らせる。その耳元で、


「困ったらまたそれかワン、成長が無いワン」


 と呟く声がした。


「うわーっ!」


 と発狂したように剣を振るうシアンが、ピタリと動きを止める。その喉元には、一部だけ具現化した霊剣が押し当てられていた。


「リロの行き先に心当たりがないかワン?」


 さらに目の前に具現化した銅鏡に、シアンの血走った目が映る。しかし彼の知識に聖騎士団の魔導師についての情報はなかった。


「し、知らんぞ、お前らの仲間の事なぞ知るはずもない」


 と震える声で答えるシアンに、


「そうかワン、残念だがお前は生かしておくには危険すぎるワン」


 冷淡な声で死刑宣告を下したウーシアは、命乞いの言葉も聞かずに霊剣の刃を横にひいたーー瞬間、飛び散る鮮血の代わりに、シアンの喉元から赤黒い空間が広がってゆく。


 咄嗟に霊化に戻ったウーシアは、寿命が縮むような気配からとにかく距離をとった。目の前で広がる血肉のような空間は、シアンの全身を覆い尽くすと、裏返って風景に戻っていく。そこ彼の姿は無かった。


 実体化したウーシアは、不可解な現象に身震いすると、微細に震える足に喝を入れて、仲間の元へと戻って行った。

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