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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第四章 聖騎士団の受難
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巨獣討伐

 〝長鼻獣ゴンフォウム〟は、アレフアベド周辺の山岳部において最大級のモンスターである。水の精霊を操る長い鼻と、土の精霊を宿す硬い表皮を持ち、長い時をかけて体高4メートル、体長6メートルを超えるほどに成長する。雑食性ながら普段はおとなしく、山の賢者などと呼ばれ、周辺部族からはある種畏敬の念を集める存在だった。


 その中でも、もっとも長生きして巨大化し、溜め込んだ膨大な魔力によって水、土、さらには風の精霊までも使役するにいたった個体は〝巨獣〟と呼ばれ、神のように畏れ崇められているという。


 テリトリー内の巨木の森で、実る草木や植物系モンスターなどを捕食し、近隣の者にとってはネウロゲシアなどの有害なモンスターも捕食してくれる、益獣とみなされていた。


 だがここ最近になって、今まで足を伸ばさなかった人間の集落に出没するようになり、田畑を荒らして人間にも襲いかかるようになると、その道筋を追って、他のゴンフォウムも人里に現れる事態が頻発し始める。


 被害の拡大を恐れた領主は、ギルドに掛け合い災害認定を受けると、上級冒険者への特別依頼扱いで数組の冒険者パテーィーに直接依頼が回った。


 だが報奨金の少ないこの依頼を受けたのは、聖騎士団が初めてらしく、立派な騎士甲冑を身に纏ったジュエルを見た村人達は、心底ホッとしたような顔を見せ、救世主を迎えるように歓待した。


 村の様子は荒れ果て、人々は再建もままならずに、崩れていない建物にひっそりと潜んで暮らしている。

 理由を聞けば、再建作業の物音がゴンフォウムを呼び寄せるらしく、手の出しようがないらしい。かといって避難しようにも他に行くあてなどなく、村人達は蓄えを消費しながら、祈るように日々を送っていた。


 見せてもらった畑は、巨大な足跡に蹂躙され、牙角で掘り返された土は山となって、地面に凹凸を作っている。


「それで、今現在巨獣がどこにいるか、分かりますか?」


 とジュエルが尋ねると、案内した村長は首を振り、


「二日前にこの畑を掘り返してっから、森に戻っていったきりではぁ、わしらも気をつけちょったけんども、何せおっかない長鼻を二匹ほども引き連れちょったでなぁ、とてもじゃねぇけんども、追っかけることはできなんだす、へぇ」


 しきりに恐縮しながら機嫌を伺う村長をなだめたジュエルは、地面を嗅ぎまわっていたウーシアに、


「何かわかるか?」


 と聞くと、黙って霊剣を指し示した。その先には巨大な糞が山をなしている。


「あっちの方向から、同じ臭いがするワン。距離もそう遠くない、せいぜい徒歩で半日程度。巨獣と二匹の長鼻らしき臭いがするワン」


 と臭いを分析するために握っていた土を落とした。そのままコロコロと陥没した畑を転がって歪な形の底面に止まる。それは丸くなったバッシが収まるほど大きな足型だった。


「今回の討伐は腕試しも兼ねて真っ正面から挑む。だが長鼻獣は耳と目が良いから、隠密行動の腕が試されるな」


 と言ったジュエルが身に纏う聖騎士の鎧をポンポンと叩いた。問題は自分だと言わんばかりに。


 最近の聖騎士の鎧は、常に微量の光を放ち、形態も少しづつ変化してきている。以前は角ばったシルエットであったが、よりジュエルの体型を反映して、女性的な丸みを帯び、優雅で気品ある、しかし力強いデザインになっていた。


 そのなかでも彼女の気性を反映してか、高潔な輝きは日増しに強くなっている。意識的に抑えなければ、暗い森の中にあって目立ち過ぎるだろう。


「リロも大丈夫か?」


 とバッシが問えば、魔導師のローブの裾を織り込んで、腰回りに縛り上げたリロが小さな拳を上げる。その下には長ズボンを履いており、やる気十分の彼女は屈伸を始めた。その様子を見守るように、タンたんが空中に浮かんで明滅している。


「それでは行くぞ」


 ジュエルの一言で、案内してくれた村人と別れると、下草生い茂る巨木の森に分け入った。巨獣によって踏み分けられた森は歩きやすく、そこかしこに巨大な糞や足跡があって、見失う事無く進む事ができる。


 そのまま森の中心へと真っ直ぐ進むと、他のモンスターと遭遇することもなく、ウーシアの予測通り、半日で巨獣達の溜まり場に辿り着いた。


 湧き水が作った小さな泉の周りで、寝転んだ跡が倒木となって広場状の平地を作り出している。明らかに最近までここに居たであろう長鼻達は、今はどこかに移動したらしく、その姿は見えなかった。


「向こうの方角にいるワン」


 臭いで所在を確認したウーシアが指し示したのは、少し坂になった森の向こう側。そのまま広場を突っ切ると、端にある糞に近寄ったウーシアは、落ちていた木の枝で糞をならした。中からは不消化物が沢山出てきて、中には動物の骨が混じっている。


 それは一つや二つではなく、骨の山のように詰まっており、転がり出た中には明らかに人骨と分かるものもあった。


 いったん離れた場所に引くと、四人で顔を付き合わせる。


「明らかにおかしいですね、いかに雑食性のゴンフォウムでも、これほど大量に動物やモンスター、それに人間を襲って捕食する事例は聞いたことがありません。魔感知で見た所、森林の動植物はあらかた食い尽くされています……そんな事をすれば自分たちの首を絞めることになりますし、ゴンフォウムが益獣とされているのは、山の管理者とも言われるほど、森林のバランスを保つ習性からきているのですが……」


 モンスター研究家のリロが力説する。ほっておくと延々と語りそうな彼女をジュエルが制すると、


「凶暴化しているという事は間違いなさそうだな。だがその原因を探っている暇は無い。我らの依頼は巨獣の討伐、長鼻はその障害物として、各個討伐するしかあるまい」


 と断定した。だが、


「原因を調べずに討伐すれば、どんな危険が潜んでいるか分かりません。少し調べてからでも遅く無いでしょう」


 というリロの意見を汲んで、ひとまず周辺調査から始める事になった。以前を思えばジュエルの態度も随分と柔軟になっている。だが険しい表情からは、相変わらず余裕の無さがうかがえた。


 あらかた地形調査を終えて、長鼻達の居場所をおおかた把握した時、ウーシアが、


「巨獣がこっちに向かってくるワン!」


 と警告を発する。それと同時に森林を揺るがすほどの大咆哮が響きわたり、長鼻獣の共鳴が長く尾をひいた


「何故だ、バレたか?」


 ジュエルが赤角の盾に聖光を灯しつつ聞くが、誰も答えられなかった。今までの感覚でいうとバレるような行動はとっていないし、距離も十分にとっていたが、巨獣の特殊な感知能力にでも触れただろうか?


「迷う事なくこっちに来るワン! 凄いスピードだワフ」


 緊迫した声で投魔石のスリングを構えるウーシアの様子に、リロもタンたんと共に魔力を集中し始める。

 バッシは大型獣に鎌鉈は効かないだろうと、はなから大剣に手をかけて、表皮に分厚い龍装を纏っていった。


 肩を並べるジュエルに、


「この位置では地盤が緩い、巨獣の重さは分からないが、万が一に備えてあの辺りまで後退しよう」


 と後ろを振り向き、一際大きな木を指差す。そうしている間にも、巨獣のたてる地響きは地震のように地面を揺らし続けた。


 後退した大木の周囲は太い根が地面に踊り、龍装の爪に確かな踏み答えを返してくる。そうする内に草木を倒す騒音と野太い咆哮が近づき、自然と心拍数が上がってきた。


「これは長鼻の方かワン?」


 鼻を効かせたウーシアの声に、同意できる者は居ない。正確な位置を掴んで先制攻撃できなかったのは痛かった。


「全体像から見て、巨獣ではなさそうね」


 と温度の魔知覚を働かせたリロが断言する。手になるタンたんには魔力が収束し、目に射し込むほど赤く光っていた。


 ゴンフォウムが斜面を登り来るスピードは衰える様子もなく、長い鼻を通る荒々しい息が聞こえるようになると、


「リロ、一発で仕留めろ」


 というジュエルの命令の元、タンたんが前面に魔法陣を展開する。


ページ55 誘導火槍センサー・ジャベリン


 現れたのは誘導火矢センサー・アローを太く長くしたような火の短槍、それが三本同時に射出された。


 木を避けるように三本共別の軌跡を描いた火槍が、鈍い音を立てて標的を捉えると、野太い絶叫とともに肉や毛の焦げる臭いが漂う。


 だがその様子を確かめる間も無く、後続の足音が響いてきた。


「もう一発いけるか?」


 と問うジュエルに、


「いけるけど、連射には向かないから、次の次は火矢になるわ」


 と魔法陣を整え直すリロが答える。タンたんは火を噴いた魔法陣を強制的に黙らせると、即座に新たな術式を形成していった。


 再びの射出に空気が焼かれる。その頃にはターゲットのゴンフォウムはすぐそばまで迫っていた。


 長い鼻の下には鋭く伸びる牙、山のような長い毛皮の表面は、岩板状の土精が張り付き、騒音を撒き散らしながら重い体を揺らす。


 その眉間と正面の胸部、そして側面から腹部を火槍が貫くと、大量の血を放出しながら、煙を上げて崩折れた。


 最後の抵抗に鼻から放たれた水柱が、太い木の幹に当たって、樹皮を削り取る。意外なほど広がった水飛沫が霧となって視界を塞ぐと、その後ろから更にふた回りほども巨大なゴンフォウムが、怒りに目を光らせて迫ってきた。


 〝巨獣だ〟と思う間も無く、


ページ44 誘導火矢センサー・アロー


 火槍を放って間も無いタンたんから、連射式に火矢が放たれる。だが巨獣の鼻から噴射された水柱に弾かれると、爆ぜるように消滅してしまった。そこに大風が吹き荒れると、水飛沫が嵐のように皆を撃つ。


 すかさず展開された聖守護力場ホーリー・アーマーに巨獣の体当たりがぶつかった。


 火花散る魔光が頭上を彩る。バッシは紫光を纏わせた大剣を構えると、冷静に巨獣を観察した。

 四重歯牙に風刃が宿り、巨体の質量を乗せて結界を削る。牙の並ぶ巨大な口からは涎が垂れ、怒りに燃える眼は瞳孔が開ききっていた。


 森の賢者などと呼ばれる存在とは程遠い、錯乱状態にも見える巨獣に違和感を覚える。手負いでもない野生のモンスターが、狂ったような攻撃性を発揮するのは、自身の破滅を意味するはずだが……


 〝何かに操られているのか?〟


 という疑念を仲間に伝える間も無く、土精渦巻く足場が隆起して、柔らくなった地面を巨獣がすくい上げる。牙角にかかった巨木の根塊が掘り返されると、聖守護力場内に風刃が吹き荒れた。


 その爆心地に向かって突貫するバッシの周囲を、紫光の皮膜が覆い尽くしていく。魔力の衝突が睡蓮火の形を描き出す中で、接近したバッシの肝を潰すような巨獣の咆哮が爆ぜた。

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