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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第四章 聖騎士団の受難
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指名依頼受理

 久しぶりにアレフアベドの冒険者ギルドに着くと、馴染みの受付嬢エルルエルが喜色満面で迎えてくれた。


 約二年ぶりか……最初遠慮がちだった彼女が、時間とともにジュエルに絡んでいく様子を見て、ようやく大陸に帰ってきた事を実感する。


 バッシ達聖騎士団は、ヤマタ王国での真白の地宮探索に一通りの筋道をつけて、交代要員と入れ替えに戻って来たのだ。

 ギルドマスターによって正式にA級ライセンスの認定を受けるためにーー


 実績という面においては、かなり不足している。それも致し方なし、ここまでの昇級も異例とも言えるスピードだった。たとえ真白の地宮という未到の迷宮を攻略し、資源迷宮としての筋道を作ったとしても、たった一件のみの実績で昇級できるほど、A級ライセンスは甘くない。


 但しギルド内の政治的配慮、そして一足先に幹部役員となった〝ワイズマン〟ゲマインの強力な後押しによって、ライセンス取得も現実味を帯び始めている。


 このあと聖騎士団に出来ることは、寸暇を惜しんで実績を積み重ねる事だ。なにせA級への昇級ですら困難なのに、S級となれば、運が左右するとはいえ、これまでの行程とは隔絶した困難が待っているだろう。


 国を救うほどの活躍を何度も繰り返し、さらに時の政治にも影響を受けて、昇進できる者……それは正に神のみぞ知る領域だった。


「ジュエル様にはこの依頼をと思い、厳選させていただきました」


 ヤマタ土産を後生大事に抱きかかえたエルルエルが、束となった書類の中から、数件の依頼を提示する。お土産に選んだ、傘と呼ばれる雨具の骨が胸に刺さっているが、大丈夫か? 乳肉もそれほど無いから、自身の骨とぶつかって痛かろうに。


「そうか、いつもすまん」


 と受け取るジュエルの手を名残惜しそうに握るエルルエルは、そっと溜息をついて手を離した。


 そこには指名依頼の証しである、赤茶色の封書が三つのっている。


「これは?」


 と問うジュエルに、


「いまや有名になったジュエル様率いる聖騎士団には、日々指名依頼が殺到しています。その中でも今後の昇級に繋がるような依頼を厳選させていただきました」

 

 とまくしたてるエルルエル、熱に浮かされたような充血した目が怖い。その内容は、モンスターの討伐が二件と、とある貴族の護衛依頼だった。


「〝巨獣〟と呼ばれる魔獣変異種の討伐と、〝極深〟と呼ばれる難関迷宮攻略への参加依頼、そして隣国にはなりますが、有力貴族子女の我が国への護送依頼です」


 と説明するエルルエルは、それぞれのアピールポイントを力説し始めた。それによると、巨獣討伐は最も近場の依頼で、かつ討伐難度の高いモンスターとあって、昇級に向けたギルドの内申加点となる。そして力押し系のモンスターは、聖騎士団におあつらえ向きと思われた。


 極深迷宮は〝ワイズマン〟ゲマインとも親交のある冒険者パーティー〝風見鶏タイム・サーバー〟の指名依頼で、迷宮深部挑戦に向けた戦力補強を図ってのものらしい。この攻略が達成されれば、真白の地宮に並ぶ二件目の迷宮攻略を達成する事になり、ギルド内での評価もかなり高まるという。それだけ冒険者にとって迷宮攻略とは、大きな存在感と意味をもっていた。


 そして三件目の貴族の子女護送の依頼は、一件だけ毛色が違い、直接ギルド内での評価を上げる事には繋がらないものだった。だが、その貴族というのがギルド副マスターにも繋がる有力者で、今後S級を目指す際の、貴重な人脈となる可能性があるらしい。


 それら三件の指名依頼を吟味した結果、


「巨獣討伐を受けようと思う」


 と言うジュエルに、異を唱えるものはいなかった。理由は単純明快で、長時間拘束される依頼に、どっしり腰を据えてとりかかる時間が無いからである。


 散発的に発生する討伐依頼をこなしつつ、ギルド長から直接与えられる依頼を受けて、より効率良く内申加点を得る。それがS級への一番の近道だと力説するジュエルに、エルルエルも、


「さすがはジュエルお姉様! ご慧眼にエルも深く感銘を受けました。では早速巨獣討伐の依頼受託を承認いたします」


 とそそくさと手続きを済ませ、より詳しい巨獣の情報を提示した。その手際の良さに、よっぽどジュエルの帰還を心待ちにしていたであろう事が伝わってきて、側から見守るバッシの心も温まる。


 そうして充実した会議を済ませたバッシ達は、二日後の出立に備えて、アレフアベドの定宿である〝憩いの我が家亭〟へと向かった。久しぶりの再会に、大将達の笑顔を予測しながら……





 *****





 聖騎士団がメジャー級以下立ち入り禁止のビップ・ルームから出ていくのを、暗い目で見つめる者達がいた。彼らは万年D級から昇級できない冒険者達で、あっという間にB級まで駆け上った聖騎士団に対して、心中穏やかざるものを抱えている。


「いい気なもんだぜ、騎士様の迷宮遊びに、マスターも調子が良いもんだ。二、三年でB級まで行ったにしちゃあ、実績が少なすぎる。俺たちなんざメジャー昇級試験の声すらかからないってのによぉ」


 と言ったのは、長年傭兵団崩れのパーティーを率いて来たリーダーだった。それに答えた片目の女が、


「全く不公平だよ、こっちはショボイ依頼から、こいつらの食い扶持も稼がなくちゃならないってのに」


 と側に跪く奴隷戦士を足蹴にする。貧相な装備の隙間から覗く手足は、ギリギリの食事と過酷な労働に硬く萎れていた。


「あの巨人戦士は、確か俺達の所にいた奴だったよな、確か……バッシだったか?」


 と小太りな男が話に加わる。側で飲んでいた男は少し考えた後、


「そうだ、あいつはドワーフの鉱山に置いてきたバッシってショボい戦士さ。確かもぐりのギルドライセンスだったよな? 聖騎士団なんて偉そうに名乗っちゃいるが、メジャー試験も身内が受け持って、八百長仕込んだらしいじゃないか。それがB級パーティーなんざ上の奴らも腐ってやがる」


 と声をあげた。彼らはバッシをアインスタルトの鉱山に置き去りにした〝剛利衆ごうりしゅう〟のリーダーと、古くからのメンバーである。自分達が逃亡するために置き去りにしたという負い目は更々無いらしい。


 それよりも新進気鋭の聖騎士団に浮かんだ疑惑の芽に、金の匂いを嗅ぎつけて、目をギラつかせる反面、声を潜めた。


「面白いお話をしていますね、私も混ぜて下さい」


 と言われて振り向くと、真っ白な硬革鎧に身を包んだ、好青年然とした男が笑顔で立っていた。だがこのうらぶれた場には、不快な存在でしかない。


「怪我したくなかったら、あっちに行きな」


 片目の女が低い声とともに、腰元に手をかける。そこには数多の血を吸って、落としきれないしみを作った、荊状いばらじょうの鞭が巻き止められていた。


「そう言わずに、私の話を聞いて下さい」


 屈託のない明るい声に、不快感をつのらせ、側に控える奴隷戦士に合図を送ると、つまみださせようとした。だがふと〝話を聞いてやっても良い〟という気持ちが湧いて出る。


「私の話を聞け」


 突然の大声に、その場の皆がビクリとすくみあがった。普段なら気色ばんで喧嘩騒ぎになるところだが、男の声にはどこか逆らえない力が宿り、気持ちが誘導されていく。


「皆さん落ち着いて、座りなさい。彼ら……聖騎士団の話をされていましたね? 全くもって私達も同感です。彼女達はえこひいきされすぎている、そう思いませんか? ねえ、テオドール様」


 目線を送る先に皆が注目すると、もう一人育ちの良さそうな男が現れた。薄笑いを浮かべる男は、冒険者達を軽蔑の目で睥睨すると、ふんっ、と笑って、


「全くだ、たかだか準貴族の娘という立場にいながら、まるで物語の主人公のような扱いを受けて、それをさも当然のように甘受する。厚顔無恥とは正にあれの事だ。天に代わって罰を下す必要がある、そう思わぬか?」


 シアンの精神魔法の効果の中で、テオドールの声が冒険者達に浸透していく。


「そうだ、許せねぇ!」「何故俺たちは低ランクのままなんだ!」「おかしいじゃないか」


 心の中で燻っていた漠然とした不満が、今や確固たる怒りとなって、冒険者達に満ちた。


「ここではなんですから、時と場所を移しましょうか。あなたがたは同じように聖騎士団を〝憎む〟人間を集めて下さい。そうですね、二日ほどで聖騎士団も依頼のために移動するはずですから、その頃に集まれるようにお願いします」


 と言うと、足早にギルドを後にした。それを見守る冒険者達の胸に灯った怒りは、静かに、しかし確実に根を深める。


 こうして数多くの不満分子に声をかけ続け、手勢を増やし続けたテオドールは、街を出る聖騎士団の後ろ姿を、遠くウーシアの感覚に触れない位置から見送った。


 彼の後ろには、青血戦士団も控えている。その中には、父親である大貴族から借り受けた騎士やその従者などの、手練れの軍勢も付き従っていた。


「我を侮辱した罪を償わせてやるぞゲマイン、まずはお前の可愛がっている偽聖騎士からだ」


 誰に語るでもなく言葉が漏れる。その目は充血し、握りしめる拳は血の色を失っていた。





 *****





 真国の中枢部である螺旋の聖殿の地下深く、松明一つない闇の中に、子供が一人つぶらな瞳を光らせていた。


「ねえ、何を見せるっていうのさ?」


 高い声は攻める風でいて、どこか面白がっている気配を含んでいる。それに答える事なく、声をかけられた方は、闇の中に横たわる巨大な残骸に、何かを施し続けていた。


 少年も質問に対する答えなど求めていないかのように、しゃがみこんでその様子を観察する。そう、彼にとって視覚などの五感を超越した〝超感覚〟は、当たり前に備わったものであり、真っ暗闇のなかでも、目の前で何がなされているかは、おおよそ見当がついていた。


 作業を続ける〝闇〟が、闇龍の脱皮した抜け殻から新たなくびきを作りあげている。だがこの軛は少年も見たこともない形をしていた。


 まるで人型のようなそれを見て、


「これはまた凝った……人形遊び?」


 とからかう。だがそこに練り込まれた闇精は、一歩間違えば少年にとっても危機となりうる力を秘めていた。


 仕上げの段階に入り、自ら形を成していくそれは、闇の中で自立した。顔のないがらんどうの、自立型闇人形とも言えるそれは、闇の魔力を吸い取って、確固たる形に収縮していく。それに伴い緊密さを増していく表皮は、少年の目の光を受けて、艶を放った。


 超重量、超魔力の圧縮に、地割れが起きて少年の下腹に響く。目の前の人形の存在感だけで空間が圧迫されて苦しくなった。


「またえらいもの作ったね。少し大袈裟すぎない?」


 といいながら、手元に出現させた戦輪チャクラムを投げつけ、広げた輪に通すと、呆気なく異空間に消し去る。


「まあ相手が相手だし、僕としても心強いよ。ジュールス導師のご乱心は計算外だったけど、結果的にはあれのおかげで色々動かざるを得なくなったから、これも女神様の思惑通りなのかな?」


 という言葉を聞く間もなく、闇は周囲に同化して消えてしまった。


「全く、おしゃべり一つしないなんて、人生何が楽しいのかね?」


 と肩をすくめた少年は、自身も戦輪の作り出した空間に飛び込むと、いつか刻んだ誰かの心の傷を目印に、闇を移動していった。

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