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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
123/196

ヤマタ王朝の最後

 一度情勢が変化すると、事態は急速に動き始めた。


 反王軍との武力衝突も無く、ヤマタ王都に引き返した狂信団は、停泊させている船舶に物資を補充すると、まるで何かに急き立てられるように、早々と大陸に引き返した。


 その間、約束が違うと責め立てる白衣の貴族達に対して、信仰の力を示したカースは、その場にいたヤマタ側の者全てを廃人にしてしまった。

 だがその荒事が発覚しても、去った狂信団に追っ手を掛ける者は居なかったのである。


 指導者と上級陰陽師を一瞬にして失ったヤマタ王軍は、無能な王のもとで多くの機能が麻痺した。そして生き延びた貴族は、我が身を脅かす存在ーー北の街からの増援を得て、王都を攻める反王軍への対処で手一杯となる。


 そこに内側から呼応して武装蜂起したのは、いまだに王城に閉じ込められて、迫害を受け続けていた獣人達であった。


 地下からは土竜もぐら人族の工作兵が侵攻し、高い塀も獣憑き(ライカンスロープ)化した猫系獣人の特殊部隊が難なく突破、王城に潜入すると、大規模な地下牢獄に閉じ込められていた獣人を解放して回る。


 ある者は政治的思想がゆえに、ある者は差別に耐えかねて主に反抗したがゆえに、ある者は単に生活している中で、難癖を付けられて官憲に捕まりーー呪針による死の縛りを受けた獣人達は、実験や訓練、そして呪術の生贄用として幽閉され、最低限の食料で命を繋いでいた。


 それら虐げられ続けた者達の、王軍との執念じみた戦闘は熾烈を極め、内外から攻め立てた反王軍は、守り手の優位と数の利を覆した。


 真白の地宮への派兵や、従来の尖兵である獣人部隊を丸々敵に変じられ、弱体化していた王軍は敗走、最後まで側近の白衣の導師達を伴い、近くの集落に逃げ込んだ王の一族は、下働きの獣人に居住をあばかれ、私刑リンチの末に素っ首を掻き切られ、家畜の糞尿にまみれた地に並べられたという。


 時にオウ達が真白の地宮を掌握してから二ヶ月後の事であった。





 *****





「ようやく迷宮らしくなって来たな」


 バッシは壁にもたれかかりながら、鎌鉈にこびりついた小鬼の血肉を拭き取っていた。

 小鬼とは剛鬼の小型版と言える、人間の女性ほどの背丈を持つ妖怪の一種であり、最近では真白の地宮浅層に多数湧き出している。


 真白の地宮に湧く妖怪とは、妖魔の負の力を、地宮の力をもって浄化した際に残る〝塵〟のような物の集合体である。それは迷宮内を徘徊し、常に一定数の者が存在していた。そして迷宮内で死滅すると、その肉体を迷宮自体が消化し、また新たな塵が小さく復活するのだ。


 妖魔が活動的になればなるほど多く出現し、それすなわち浄化が促進され、妖魔が弱っていく証となる。ゆえに滅多な事では爆発的増殖は起こらないし、起きたとしても魔具装置が正常に働いていれば問題なかった。


 だが真白の地宮は根本的な部分に問題を抱えている。それは妖魔を完全に封じ込める事が不可能だという点だ。それ故にクロエは妖魔の分身体にたぶらかされ、今回は封印解除まであと一歩のところまで追い詰められた。


 それは反王軍の王都攻略に参加せず、その間真白の地宮平定に尽力した、大門軍団のメンバー皆が肌で感じていた。

 リーダーであるゲマイン率いるパーティー〝トゥーマルタス〟のメンバー達は、もっと深い層の探索を受け持っており、妖魔の干渉を受ける事も多いと証言している。


「ここは攻略迷宮ではなく資源迷宮だ。あとはどうやって妖魔からの入宮者への接触を断ち切れるかだが、そこら辺はどうなってる?」


 バッシの隣に腰掛けるジュエルがウーシアに尋ねると、地面を検分していたウーシアが、


「もうすぐ四獣の封印が完成するワン。これからは妖魔が他者に思念を送ろうとしても、封印が働いて形となる事は無いワン」


「だが以前にも同じ封印をかけていたのだろう? 繰り返しにはならないか?」


「大丈夫だワン、二剣一璽にけんいちじの継承者達がしっかり管理すれば、今回のような事は起きなかったんだワン」


 自信たっぷりに答えるウーシアを見て、ふと疑問を抱いたバッシは、


「じゃあウーシアはここに留まるのか? 地宮が落ち着いて、ギルドからの交代要員が着いたら、一度大陸に戻ってマスターに報告する予定だが?」


 と尋ね、他のメンバーもウーシアを見た。それに手と尻尾を振ったウーシアは、


「大丈夫だワン、普段はマロンとメロンが管理しているワン。ウー達は要所要所の儀式で、封印を強化修正すれば良いけど、それも数年に一度の事だワン。それにジュエルには話したけど……」


 と言ってジュエルを見た。首を縦に振る彼女を見て、うなずき返したウーシアは、


「ウーはジュエルの使命に同道しながら、クロエに変わる璽の継承者を探す宿題を授けられたワン」


 と告げた。今はオウ・スイシが璽を所持しているが、過ぎたる力は害となるらしい。側についているフェンリルが生命力を補充しているが、それも長引けばオウ自身の身体に変調をきたす恐れがあるという。


「ウーの行く先にその者が現れるとのお告げだワン」


 と言うウーシアは、オウのもたらした予言を信じて、微塵も疑う様子が無い。


「そうと決まれば、効率良く地宮の現状を把握して、先を急がねばなりませんね」


 と告げたリロが導きの火矢を数本放つと、通路に潜んでいた妖怪が続けて断末魔の悲鳴をあげた。


「そういうことだな、速やかな書類作成を頼む」


 とバッシがジュエルの肩当てを叩くと、


「面倒な……リロ、頼む」


 と長く息を吐き出しながら、今度はジュエルがリロの細い肩を取った。ウーシアは我関せずと探索を続ける、それを見たリロは悪戯そうに笑うと、


「いいですよ、バッシとウーシアのお勉強を兼ねて、報告書は彼らに書いてもらいます。そのお手伝いなら喜んでいたしましょう」


 またもやフフと笑いを溢した。


「ああ、いいぞ、俺も書き物試したい」


 と言う勉強家のバッシに比べて、ビクリと背筋を伸ばすウーシア。読み書きの苦手な彼女は、固めた顔をぎこちなくリロに向けた。


 その顔を見てぷっと吹き出したリロにつられて、皆が笑うと、ウーシアも嬉しそうに笑った。


 和む一同、迷宮内でやる事では無いが、久しぶりの平和にバッシ達の肩から力が抜け、笑顔が飛び交った。





 *****





 自然石の天井では、雫になる寸前の水が、少ない光をゆがめながら震えてーー落涙した。


 それは地上二メートルほどの見えない層を通過すると、瞬間凍結して、鏡面のような石床にコチと張り付く。その表面には薄っすらと霜が降りていた。


 その床に座る者は、一糸まとわずに裸身を晒して、白い息一つ吐かずに瞑目している。何故ならその冷気はその者由来のものであったから。


 ーー将軍ジェネラルーー


 識別番号でしか呼ばれる事の無い人造巨人兵団ホムンクルス・ジャイアント・コープスの中にあって、ごく限られた者だけに許された名前。

 数名しか居なかった名前持ちの中でも、最大の敬意と畏怖を集めたのが〝将軍〟と呼ばれるこの男であった。


 特徴的な外見は〝白と銀〟真っ白な肌の半分以上を銀色の表皮が覆っている。それは片目を含む頭部にまで及び、骨格や歯、果ては骨や内臓にまで浸潤していた。


 生体フレッシュ真銀ミスリル魔像ゴーレム霜巨人フロスト・ジャイアントを合成した個体。その成功の影には、万単位の生命と莫大な研究費用が消費された、この世に二つと無い奇跡の混合種ハイブリッドである。


 その耳が硬質な足音を捉えた。それは洞窟状の部屋に反響しながら、彼に近づいてくる。


 それまで微動だにせずにいた将軍は、その足音が一定の距離まで近づくと、スッと立ち上がってそちらの方向に向き直った。

 その動きは滑らかかつ敏捷で、三メートルに近い筋肉質な体を持つ者とはとても思えない。


 そのままゆっくりと片膝をつくと、右手を胸に、左手を腰に回し、地面を見つめるほどにこうべを垂れた。


「顔を上げておくれ、愛しい人よ」


 「カツカツ」とヒールを鳴らして近づいた女は、白い息を吐き出しながら将軍の胸板に触れた。滑る手袋が真銀の冷気に引っかかるが、固着する前に温度を上げたために、再び滑らかに滑りだすと、満足気に歪めた真っ赤な唇を、髪の毛一本無い頭部に触れさせる。


 だが将軍は何も言わず、されるがままに身をゆだねて、目の前の女〝教授プロフェッサー〟の言葉を待っていた。


「ああ、良い、貴方は最高よ。滅茶苦茶に壊したくなるくらいに、良いわ」


 白い息を吐き出しながら、舌で将軍の眼球を味わうと、その冷味を楽しみながら真銀部を見る。そこには球面鏡に映った自身の唇と、そこから生える粘性生物のような舌が蠢いて見えた。


「今のうちに動いてもらうわね、貴方は万が一の保険、いざという時は、私の元に居なければならない存在だから」


 フフと笑う教授に答えもしない将軍、あるいは発語できないのかも知れない。それは二人にとって当たり前の事らしく、気にした様子も無い教授は、一枚の紙片を取り出すと、


「この者を殺しなさい、行き先は何時ものごとく紅竜に仕込んであるわ」


 と手渡した。そこには厳格そうな初老の男が描かれており、長剣を含む装備から、戦士の風格が滲み出ている。


「鋼の精霊を使う〝剣聖〟と呼ばれる人物よ。人間の戦士としてはこの上無い相手……貴方ならわかるでしょう?」


 そう言って、将軍を手離した教授は、今一度愛おし気に頬を撫でると、またもや足早に去っていった。しばらく片膝をついて見送った将軍は、立ち上がり、手元の紙片を見つめると、脳裏に刻みつける。


 視線の先では、紙片に含まれる水分が氷結し、極乾に至ったそれは、手の内に入れると粉々に砕け、歩き始めた手のひらからサラサラと舞い散った。


 その先には、並ぶように穿たれた飛竜の発着場があり、その中でも特に大きな個体、紅竜が将軍を認めると、畳み込んだ皮翼を広げながら近づいてきた。


 全幅三十メートル、血走る赤黒い翼を大きく羽ばたかせ、狭からぬ空間に身を浮かせると、後ろ脚に将軍の肩を掴んで洞窟から飛び出す。一度滑空を始めたその姿は、力強く羽ばたくと、曇天の雲間に吸い込まれていった。





 ーー第三部・完ーー


いつも読んでいただきありがとうございます。次章が最終章予定です。その前に時間をかけて全ての文章を改稿させていただきます。その後、準備が出来次第の投稿再開となりますので、ご了承下さい。

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