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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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心を奪う輝き

 真白の地宮は完全に元の姿を取り戻し、二剣の使い手と番人に掌握された。そして最上層部は反王軍の仮の拠点となり、地宮解放時に間に合わなかった、多くの呪いに苦しむ獣人達を、受け入れていく事になる。

 一方でそれは、火急を要する事態への対応という、やむなき選択でもあった。


 真白の地宮攻略後、ゲマインはオウ・スイシと契約を取り交わし、復旧後の深部を除く迷宮探索の権利を得た。そして一先ずオウ・スイシ達の率いる反王軍の本拠地、北の港湾都市に向かおうとしたーーところで、ヤマタ王都に残して来た連絡要員が駆け込んで来たのである。


 それによると突然の襲撃を受けて敗走。襲撃者は不明ながら、生き残った者の証言によると、ヤマタ王軍のみならず大陸風の者も混じっていたらしい。


 命からがらゲマインの元に駆け付けた者の一人は、


「あれは冒険者の装備だった、しかも熱に浮かされたような目……あれは普通じゃない」


 と語った。


 その時、ゲマインにはある可能性が閃く。それはギルドが派遣するであろう第二陣、反ギルドマスター派による襲撃の可能性だった。さらに最後に到着した生き残りの証言を得て、それは確信に変わる。先頭の男が手にしていた十字の飾りを持つ円環鎖、その持ち主こそ、


 〝狂司教カース〟


 彼女が知り得る中で、最も陰湿でたちの悪い冒険者ギルドの古参幹部、その人だ。

 ギルドマスターに対抗する派閥に属し、その上には副ギルドマスター、さらには良からぬ噂を持つ大貴族らが絡んでいるらしい。


 その中には青血戦士団リーダー、テオドールの親も含まれていたはずだ。


 先の不審な冒険者達の死と共に、それらの構造が浮き彫りになると、ゲマインはテオドールを呼びつけた。だが目の前で詰問しても、のらりくらりとはぐらかす話は要領を得ない。


 無駄に高い性能の反魔の兜が、ゲマインの透視の魔眼を阻む。過去に起きた事を含め、ゲマインが語気荒く問い詰めると、激昂した彼女を嘲笑いつつ、


「どうするんですか? これほどの大所帯を。パパの支援無しに維持できるものですかねぇ?」


 と後ろ盾を恥じらいもせずにチラつかせた。だが目に見えて隊の士気を落とす行為に、いや、このまま放っておいて、図に乗った彼らが軍団存亡の危機に直結する行動にでる前に……以前から副団長と話し合っていた事を宣告した。


 大門軍団アーミー・オブ・ビッグ・ゲートからの破門である。


 それを受けたテオドールは、顔面を引きつらせながら、無言でゲマインの白い顔を見た。


 彼は長らくゲマインに組しながら、名を上げるチャンスをうかがっていた。

 彼とて初めから裏切るつもりで軍団入りした訳ではない。ただ名を上げ、大貴族たる父親に認められて、より多くの家禄を受け継いで、出世する事を目的としていただけである。それ故に対抗勢力である副ギルドマスターやカースとの繋がりも保有していたが……


 幼少期より訓練と準備を重ねた彼は、実力が有るにも関わらず冒険者としての評価は思うように上がらなかった。否、本来は若くしてB(ランク)冒険者という破格の高評価を得ていたのだが、彼の自尊心はそれでは満足できなかった。


 そこに後から参加して来た〝聖騎士団〟などというどこの馬の骨とも分からぬ連中が、あれよあれよと言う間に自分達と同じランクまで評価を上げ、あまつさえゲマインの信頼を、長年の付き合いである自分達よりも勝ち得ているように感じ始めると……焦る気持ちは、以前より声を掛けられていたカース達、ひいては父とも所縁のある後ろ盾の大貴族に向かっていった。


 軍団の他パーティーにも馴染めなかった。有象無象の冒険者達はいざ知らず、高貴な生まれの軍団副リーダーであるハートマークすら、高貴な出自のテオドール達より、新参者達を重用しているように見受けられる。

 それが何よりもテオドールには受け入れられなかった。


 元より子飼いにしていた連絡員を通して、大門軍団の動向を伝え、機を見て内外呼応してゲマインを捕らえ、迷宮を攻略して名を上げる。話はそこまで大きくなっていった。

 テオドールの中では、その頃には高貴な生まれのハートマークも目が覚め、テオドールに対する敬意が芽生えている算段だった。


 なんとなれば伴侶としてやっても良い……そんな浅はかな妄想に浮かされた彼の胸には、小さな護符のネックレスが下がっている。

 肌に直接下げられた銀製の、十字に切られた円環輝くそれは……カースと同じ狂気の神の信徒たる証であった。


 破門を言いつけられ、一瞬呆然としたテオドールは、しかし引きつった顔に不敵な笑みを浮かべると、


「ふんっ、なんの根拠も、なんの証拠も無くいきなりの破門ですか……貴族の顔に泥を塗るという事がどういう結果を生むか、首を洗って待っておれ!」


 と馬首を返しながら言い捨てる。その後を追う青血戦士団のメンバー、中でも魔法戦士のシアンは、困ったようにテオドールとゲマインを見たが、結局は家どうしの繋がりを捨てられずに、テオドールについて行く事になった。


 それを見送るゲマインは、これまでの顛末と今後を考えて溜め息を一つ吐くと、来る戦いに備えて皆を作業に追いやった。


「これで嫌な奴の顔を見なくて済むぜ」


 せいせいしたという顔のスワンクが、重装鎧の下から笑顔を見せるが、


「大丈夫ですか?」


 と心配そうな副リーダーのハートマークがゲマインを見る。以前からこうなる事は予測済みで、実家に支援依頼を取り付けてはいたが、あまりにも時期尚早だった。


「ああ、だが仕方あるまい、この状況で身内に不安要素を抱えている余裕は無い。直ぐに迎撃体制を整えねば。反王軍も一般人が増えて、戦闘要員は数を減らしている、こうなれば直接対決は避けられまい。くそっ、こちらが弱っているのを見越しての攻撃か」


 ゲマインが鋭くまだ見ぬ軍勢の来る方向を見る。それを黙って見守るハートマークに振り返ると、


「さあ、やる事は多い。できる事をしなければ」


 引き締まった表情には一種の清々(すがすが)しさが表れていた。それを受けた部下達は、一斉に作業に戻る。相手の人数は分からないが、自軍よりも多い事は間違いあるまい。それでも地宮を拠点とできる利は大きい。


 ゲマインは今後の相談をすべく、迷宮を操る反王軍のリーダー、オウ・スイシの元に向かった。





 *****





 オウ・スイシはウーシアと共に真白の地宮を安定化させる装置の強化、そして番人達との同期作業に没頭していた。


 軍勢の立て直しはハンガウに一任してある。随時知らされる報告によれば、生き残ったのは一般兵が二十五名、獣人戦士が三十七名、そのほとんどが大型獣のライカンスロープに変身していた者だった。一番先頭に立って犠牲となった鼠人族などは、族長を含めて、大多数が死亡している。とはいえ、北の街では多産体制で続々と後継者が生まれ続けているであろうがーー


 それに王軍の投降者や冒険者達を足しても百にも満たず、そのうち無傷の兵は半分にも満たない。これでは軍というよりも武装集団や野盗といった方が正しいと思われた。


 〝これで地宮は大丈夫だワンコ、妖魔の封印もしっかり抑え込んでいるワンコ〟


 意識に訴えかけるマロンの声に、一体化した内なる番人もウンウンと相槌を打つ。なお彼の名はメロンというらしい。


 作業を終えたオウがウーシアを伴ってやってくると、おどけたように一礼したマロンとメロンが、魔具装置を指差しながら、


「これでまた簡単操作が可能になったワンコ、予定通り妖魔から還元された力はしばらく使わない事にして、溜め込んでおくワンコ。でもあまり溜め込みすぎると危険だから、しばらくしたら迷宮としての機能を解放するワンコ」


 と説明した。それに頷きつつ、霊刀を抜いたオウと、隣で霊剣を具現化したウーシアは、それをもって魔具装置を向き合うと、仕上げの作業として、四方を守る祠と魔具装置を繋げ始める。


 これで結界の力も発動し、霊的な守護も図られた。後は人間同士の紛争から守護せねばならないが……


「都の方角から軍勢がやって来るワン」


 霊感が増強して異変を察知したウーシアが告げると、頷き返したオウは面会に来たゲマインを連れて、新たに作られたバルコニーへと向かった。


 真白の地宮上層部から見る景観は、厳しい冬を乗り越えて春の萌芽を待ちわびる森を一望する事ができる。だがクロエの放った黒螻蛄くろけらやアンデッドに蹂躙された森は、木もまばらに荒れた姿をさらし、汚染された土壌から湧き上がるガスが、視界を遮っていた。


 魔眼を発揮したゲマインの目は、靄の向こうに装備品をチラチラと反射させながら、地宮に向かって行軍してくる軍勢の姿を捉える。


「それほど多くは無いですが、ざっと見たところで百、いや二百は下りますまい」


 見づらい部分を含めての概算に、頷いたオウは、


「四獣の結界を張り直したとはいえ、人避けの効果もどこまで発揮できるかわからない。それよりも和合に持ち込む事はできないかワフ?」


 と尋ねるも、ゲマインは首を否と振る。相手が狂神の信徒たるカースならば、和合の使者を出すだけ無駄である。恐らくその者は惨たらしい死の洗礼を受けるであろう。


「恐らく相手は狂った神の信徒、話し合いは無駄でしょう」


 と告げるゲマインを見て一つ頷いたオウは、しばらく黙考を続けた後、


「考えがあるワフ」


 とゲマインも驚く提案をした。





 *****





 興奮する男達の汗、疲れ切った女達の吐息、そして高揚する精神に声を強める戦士達、中には涙を流しながら己の信望する神に祈りを捧げる者もいる。


 バッシは久しぶりに嗅ぐ戦前の空気に、胸が騒めくのを不思議に思った。戦場はいわば生活の場であり、かつては日常であった。

 この違和感は、そこから遠ざかっている事の証であり、それ故に平時が愛おしくなる。とはいえ冒険者の生活も安定しているとは言い難いが……


 左肩に彫られた母豚の満足気な顔を撫でていると、静かに近寄った人影に振り返る。そこにはまた一回り大きく成長したウーシアが、完全武装で立っていた。


 バッシの贈った魔獣の硬革鎧には、色とりどりの投魔石が収納されており、二振りのスリングが腰と肩周りに巻き付けられている。


「きまってるな、全身から気力が立ち昇るようだ」


 感心したような声をあげるバッシに微笑んだウーシアは、


「ちょっと行ってくるワン」


 と、まるで散歩にでも出かけるような口調で告げた。


「行くってどこに?」


 と問えば、進軍してくる軍勢に向かうという。驚くバッシに、


「大丈夫だワン、オウ様と一緒に話し合いに行くだけだワン」


「ならば俺も……」


 と言うバッシを指先で制したウーシアは、


「ここは私達に任せるワン。大丈夫だワン、ここは霊能者様と霊剣使いたるウーシア・クウ・カニディエの出番だワン」


 と具現化した霊剣を目の前にかざした。またも一回り大きくなった霊剣は、まるでウーシアの生命力がそこで燃えているかのように白く輝いている。


 反射に輝くウーシアの瞳に心を奪われたバッシは、感動に言葉が詰まった。


「何かあったら後は宜しく頼むワフ」


 霊剣をしまったウーシアは、一度分厚い胸板に飛びつくと、バッシのベルトを足場に伸び上がって軽いキスをする。呆然とするバッシは唇の感触に手を当てながら、駆け去るウーシアを見送り続けた。

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