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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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変異体

 碧銀製の赤角の盾が一際明るい閃光を放つと、結界の圧に押された殺生石の隆起が平面に退いていく。

 ジュエルの聖守護力場ホーリー・アーマーは妖魔の力にも充分な力を発揮し、聖騎士の鎧は力強くそれを後押しした。


 張られた結界の淵まで歩み寄ったリロは、タンたんを掲げて殺生石の壁に魔法陣を照射すると、


Pページ664 紅炎フィラメント


 ゼロ距離から獄炎を浴びせ、殺生石を溶かして大量の溶岩と煙に変えて行く。その隙間にも力場の聖光が差し込まれ、無理やり面積を拡げると、前進したリロが更なる獄炎を放射した。


 熱気吹き返す恐ろしい作業の隣まで駆け寄ったバッシに、


「バッシ! リロと私でもっと切り開くから、さっきみたいに突っ込め」


 と、ジュエルは聖守護力場ホーリー・アーマーを維持しながらグイグイと前進する。その言葉に頷くと、バッシは紫光に身を包みながら、一際強く放たれた獄炎を追って殺生石に飛び込んだ。


 一際強く放たれた獄炎の舌先が先導する中、殺生石の溶穴を進む。煙にむせるバッシを守護するように、聖守護力場の青い光が穴を拡げていった。


 取り込まれたウーシアを追跡するバッシの眼前には双頭虎が立ち塞がるが、獄炎に呑み込まれると、ど真ん中を突き破り、何の障害も無きが如く駆ける。





 *****






 その様子を伺うクロエは、まるで釣り師が疑似餌を閃かせるように、ウーシアを引っ張り、バッシを深部へと誘い込んだ。


 炎の魔力も尽きて、結界の範囲も過ぎれば、身に入り込んだ小虫など恐れるに足りぬ存在との考えか……否、何よりもこの場所に辿り着いた者たちを自由にさせておく事はできない。

 〝神聖なる〟妖魔解放の儀式を邪魔する者は、全て速やかに排除せねばならないのだ。


 向こうから飛び込んで来た戦士が、身の内深く進入したが、膨大な容積で取り込むのも時間の問題……と思っていた矢先に、ウーシアの間近まで獄炎が迫り、焦ってウーシアの身柄を引っ張る。


『この炎さえ無ければ!』


 苦々しく獄炎を認識する殺生石クロエの中で、オウの霊刀から伸びる光に反応した霊剣が光を放つ。それと同時に今まで自由に動かしてきたウーシアの体が、固定されたかのように動かなくなった。

 いや、ウーシアが動かないのではなく、クロエの体の一部と化した殺生石が自由を失ったのだ。まるでその部分が麻痺したか、命令を拒絶するかのようにーー


 封印迷宮《真白の地宮》の力を導く霊剣が本来の力を発揮し、妖魔の負の力を正に変換してしまう浄化装置が働けば、妖魔をもってしても歯が立たない。


『こんなはずではなかったのに』


 時間をかけて霊剣とウーシアの運命的繋がりを剥がし、それを所有するはずであった。だがオウ達のあまりにも素早い到達に予定の狂ったクロエは、殺生石を突き進むバッシ達になお焦りーーあらん限りの妖怪達を溢れ出させて対抗しながら、まるで乳飲み児のように深なる妖魔に救いを求めた。





 *****





 突き進むバッシを包囲する妖怪達が目に見えて増え、今やむき出しの牙や爪で眼前が溢れ返っている。


 獄炎の先導も消え、聖守護力場の保護も範囲を超えると、我が身を守るのは睡蓮火の力のみ。紫光を纏う大剣で前に前にと切り分け進むが、押し寄せる妖怪達に視界はゼロに等しいーーにも関わらずバッシには迷いが無かった。


 それはオウの持つ霊刀が、後ろから確とした霊光を一直線に飛ばしてくれているから。その光が強くなるにつれ、妖怪達の抵抗もでたらめに強まってくる。


 ぶ厚く展開させた龍装の表皮を、剛鬼の爪が、双頭虎の牙が掠め削ぐ。だが龍装の足爪ふんばり、一心に大剣を振るうバッシは、止まることなくウーシアへの直線を切り拓いた。


 本来ならば疲労に腕は鈍るはずだが、身の内から溢れ出るウーシアへの保護欲によって、むしろ近づいている実感に力湧き、剣身も冴える。激しい運動に上がる息も半ば心地よく、近づく妖怪が例え千や万を越えようとも、恐るるに足りないと思えた。


 事実、その姿を客観的に見る者があれば、バッシの周囲には、不思議と膜が張っているかのように一定の空間が開き、切り進む先にも刃圏を超えた空間が出来ているのを、見て取れたであろう。

 それは紫光の効果か? 剣圧とも呼べる鋼の結界か? それとも双方合わさった相乗効果であろうか?


 クロエの焦りと比例するかのように、バッシの剣は冴えに冴え、最早普通の妖怪による圧殺戦術などは寄せ付けぬ域に達していた。


 如意自在に剣威を振るうバッシに、半狂乱となったクロエがさらなる妖怪の群れを殺到させる。それはまるでヒステリーを起こした幼子がオモチャを投げつけるが如き行いーーその時、バッシをして歓喜させる光が目に飛び込んでくる。霊剣の光に守護されたウーシアの姿が、後少しの所に薄っすらと浮かび上がったのだ。


 大事そうに、繊細に剣を振るうバッシが、その周囲を掘り進む中、怒り狂ったクロエは保身も忘れてバッシを急襲した。


 それは周囲の殺生石とは格段の差異を持つ、超濃度の妖力を甲殻のように身に纏う本体。その圧に押された妖怪達が攪拌かくはんされて、バッシはそれを斬りとばす。そこへ超硬の爪先が襲いかかった。


 打ち合う両者は、圧倒的な質量差から、剣を持つバッシが弾き飛ばされた。だが周囲の殺生石に足をかけると、捉えた剛鬼を蹴り飛ばして、ウーシアに迫る。


 そこで既に甲殻の守りを固めていたクロエに斬りつけると、魔力と妖力が火花を散らして交錯した。


 頑として動かぬウーシアに痺れを切らしたクロエが、その地点を中心に殺生石の濃度を上げると、鋼すら寄せ付けぬ球体を形成して、それごとウーシアを運ぼうとする。


 だが地宮の力は頑として動ぜず、力系の妖怪を通してウーシアをさらおうとした所に、バッシの突貫が間に合った。


 左手にウーシアの入る球体を抱えると、寄る妖怪共に鋼を食らわせ、刺し貫き、その身ごと新たな敵をぶっ叩く。そうして切り開いた空間に、新たな甲殻を身に纏ったクロエが飛んでくると、無数の石柱を足場として打ち掛かって来た。


 連続しての殴打に殺生石の力が加わり、石柱が押し上げて弾かれそうになる。だが冷静にそれを見極めたバッシは、殺生石を切り開きながら跳躍、そして伸びる石柱の力を利用して、龍装の足爪を思い切り蹴りこんだ。


 紫光の弾丸が殺生石の中を跳ぶ。それは迎え入れるように間口を伸ばした聖守護力場ホーリー・メイルの中にバウンドすると、力の限り駆け抜けた。


 追うクロエを食い止める聖守護力場ホーリー・メイル、桁違いの質量にジュエルも吹き飛ばされる中で、何とか逃げ切ったバッシが倒れこむようにウーシアをジュエルの方に投げると、追ってきたクロエの甲殻は巨大な爪を強引に閉じた。


 片足で踏ん張り、振り向きざまに剣を振るったバッシは、無理な体勢にも関わらず、打ち合う一点を見極めて爪を弾く。


 薄皮一枚頭上で空を切る大爪。


 ウーシアを取り逃したクロエは、全てを切り裂くかのように、さらなる巨大な爪を形成すると、真一文字に横薙ぎの鋏を閉じる。


 火花散る聖守護力場ホーリー・メイルは、その重圧からギリギリと範囲を狭めていく。更に四方から爪が伸びると、力場を形成するための魔力が急速に消耗し、強度にムラが出始めた。


 力場を保持しようとしたジュエルは、あまりの負荷に声を上げる。慣れてきたとはいえ、元々聖守護力場は完全なる聖騎士の技、見習いの彼女にとっては、いまだ背伸びした力の発動なのだ。

 限界を通り越し、もはやどうにも踏ん張りが効かなくなったジュエルに、不思議と暖かい力の奔流が吹き抜けた。


 それは聖守護力場を取り囲むように現れると、自然と存在の強さ故に力場が溶解していく。だがそこには救われるような感覚が伴い、周囲に殺到する妖怪も、爪を伸ばすクロエの重圧も跡形もなく気配を消した。


 顕現したのは光り輝く四体の獣、それはヤマタの地において聖獣と呼ばれる、朱雀、青龍、白虎、玄武、すなわち方角の守りを司る四獣の姿であった。


 それらはクロエを光の内に取り込み、溢れ出る余波で周囲にいるもの全てを取り込んでいく。


 圧倒的な力の奔流に溺れそうな感覚の中で、傍のウーシアを見たバッシは、その手首から伸びる霊剣の光を確かめた。


 だがそれも一瞬、光の中に搔き消えると、全ては白の世界に埋没し、膨れ上がった閃光は赤、青、白、茶、四つの光球に分かれて周回し始める。


 それにより苦しそうに地面をのたうちまわる影があった。一体化していた殺生石から隔離され、半ば以上黒く変質したクロエである。


 そこに歩み寄って来たのは、地上に残した魔具を操り、真白の地宮の四方に点在する祠の力を引き出して、四獣を解放したオウ・スイシ。

 まな板の鯉が如く殺生石から引きずり出されたクロエに対峙すると、手になる霊刀を振り下ろした。


 簡単に切り裂かれるクロエの甲殻、怒声とも悲鳴ともとれるヒステリックな声が静寂を切り裂く中、しかし四獣によって遮られた殺生石との繋がりは戻らず、地面は硬く無反応であった。


 だがそこに落下してくる獣があった。フェンリルによって傷を負った偽銀狼が、素早い霊刀の迎撃にもひるまずクロエを弾き飛ばすと、オウを無視して真下の殺生石に狂ったように噛みつき、爪を折りながら穴を穿つ。


 四獣の拘束力はクロエに限って発動している。偽銀狼を止めようと飛び込んで斬りつけたバッシは、


「ミシリ」


 という嫌な音を聞いた気がした。次の瞬間、得体の知れぬ力に吹き飛ばされた地面から、真っ黒な何かが染み出すと、クロエを撃つ。

 その隙間もすぐに閉じると、撃たれたクロエは斬り伏せられた偽銀狼の上に倒れた。


 四獣がその身を抑え、ついばみ、噛みつき、締め付ける。手にある璽が落ちそうになった時、クロエに根ざした黒の塊が爆発した。


 それは無数の黒い槍の放射となり、周囲のものを貫き通す。地面である殺生石も含めて、力という力を吸い取って膨らむと、一つの形に収まっていった。


 それは人のようであり、狼のようでありーー出来上がった造形物はそのどちらでも無かった。


 左手に狼の顎を生やし、右手には璽と一体化した鈍器のような拳が形作られている。そして下半身は銀狼の強靭な四肢が生えるという、強引な造形の合成人間キメラが、震える足を踏ん張り身を起こした。


 痙攣する手足を駆ってデタラメに走りだしたそれは、周囲の妖怪をも取り込むと、デタラメな体は更に肥大化し、多手多足で地を駆る。


「何だあれは?」


 聖守護力場を展開するジュエルに、身を寄せたリロが首を傾げながら、


「黒い塊は黒アザの剛鬼に似ています」


 とその妖気の性質を言い当てると、


「妖魔の核が入り込んだ、黒アザとは比較にならない強大さだワフ」


 ウーシアを介抱していたオウが答えた。ウーシアはいまだに気を失ってグッタリと脱力し、バッシが持てるポーション類を片っ端から試しては、むせを繰り返している。


「この子は任せて、あなたは行きなさい」


 ベルに促され、渋々バッシがジュエルの元に戻った頃、沈静化した殺生石から生えるように浮き出てきた妖怪達は、ほぼ全てクロエの変異体に吸収されたか、駆け戻って来たフェンリルの銀風に力を吸収されたか、ドワーフ忍者の爆裂矢に破壊されていた。


「あれが問題だワフ」


 オウの霊刀が示す先には、四獣の封印を受けても動き回る変異体の姿があった。


「璽の力が勝っているようじゃな」


 ドワーフ忍者の指摘に、バッシ達の攻め所は決まった。


「マロンに秘策があるらしい、ベル、協力してやってくれ。私は前線で戦う」


 とハンガウが珍しく盾をベルに渡すと、マロンから譲渡された余剰魔力を確かめながら剣を抜く。


「来るぞ!」


 最前線に立つバッシが大剣を構える前で、変異体は多数の顎を広げると、生まれたての体を試すように幾重もの咆哮を響かせた。

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