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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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ハンガウ達の戦い

 ハンガウが真白の地宮に投げ出され、トーガの物らしき直剣に触れた時、不意に、


「トーガは居ないワンコ」


 と背後から声を掛けられた。振り向くと、そこにはバッシ達に同行していたはずのマロンが、愛嬌のあるクリクリまなこを潤ませて立っている。


「マロン、お前何故ここに……」


 と現状の掴めないハンガウが戸惑っていると、


「外にある魔具の力だワンコ。ぼくの能力は知ってるワンコ? 魔具を通して地宮と結びつけたぼくの魂魄が、クロエの操作に反応して、この時空に飛ばされたんだワンコ」


 と説明した。マロンは謎の多い、霊能者オウ・スイシ専属の工作員だが、上位職であるハンガウには、その能力について多少伝えられている。

 それによると、魔力の流れに同期する術に優れ、長じて肉体までも魔力と化し、さらに再構築できるという半エネルギー体のような存在らしい。

 それにも関わらず、平常時には生身の犬人族にしか見えないから、術の凄さが分かろうというものである。


 代々カニディエ氏族に仕える家系だが、犬人族の社会が崩壊してから野に降り、オウの蜂起に合わせていつの間にか姿を現したという。


「で、クロエ達は?」


「奴らはぼくより少し前に居なくなっていたワンコ、でも残り香からすればそれ程の差は無いはずだワンコ」


「オウ殿は?」


「それが……ぼくは剛鬼という妖怪が襲って来た時にここに飛ばされて、気付いた時には反応が分からなくなっていたんだワンコ。今は真白の地宮自体が彼の存在を隠しているワンコ」


 それを聞いたハンガウは、不安が的中した事にいっそう焦燥感が募った。転移した先に居るはずのクロエやオウが居ないのと、トーガの剣が床に突きたっている事から閃く直感が、自分達の状況が悪いだろうという推測をもたらす。


「一つ分かるのは、魔具装置の元に残して来たベル達は無事らしい事だワンコ。英霊の力も健在だワンコ」


 と言うマロンを見ると、確信に満ちた目をしていた。


「霊能者殿はそこまで読んでお前をここに?」


 と問うと、首を振りながら、


「オウ様の能力はそこまで都合の良いものではないワンコ、ただ霊感がそうさせたのは確かだワンコ。僕にできる事は、ベル達の所に貴女を送り届ける事だワンコ」


 と自信満々に腕を曲げた。そのぷくりとも膨らまぬ二の腕を見て、少し脱力したハンガウは、


「じゃあ早速案内してくれ」


 とマロンを急かした。その前にトーガの剣を手に取るが、引き抜くほどの力を込めずとも手の中に倒れこんでくる。


 ああ、彼女は無事ではいまい……


 その剣先を見ながら、死線を共に潜り抜けてきた部下の事を思う。いまだに柄にこもった熱が、彼女の遺志のように伝わった時、柄頭にはめ込まれた魔石から、トーガの魔力が熱い血流のように伝わってきた。


 ハンガウは固い決意をさらに締め直すと、先行するマロンを追う。手になる剣によって魔力感度をカミソリのように鋭くしながらーー





 *****





 ベル・オニャンゴは、先ほどから相次ぐ妖怪達の襲撃に息を弾ませ、対となった曲刀を朱に染めていた。いや、正確には赤い血の者など数少なく、青や黒の混じったものであったが。


 魔具装置のある部屋は、何故か迷宮の変動こそ免れたものの、周囲から湧いて出る妖怪が、英霊パダールの雷撃による撃退でも追いつかないほど殺到し続けている。


 そんな中で、ドワーフ忍者だけが装置の運用に忙殺され、戦列に加われないでいる。後方からは、


「ちょっとまってろよーーもうすぐ、くっ、なぜここが動かん?」


 と明らかに装置相手に苦戦していることが漏れ伝わってくる。


 もう少し場所を変えられたら良いのだが、魔具装置は死守せねばならないし、パダールはその側を離れられない。そしてドワーフ忍者は機械に張り付きっぱなしーーそこへ襲い掛かる敵は、パダールの雷撃か、ベルが近接戦闘で相手をするしか無かった。


 ベルは人面犬に率いられた四つ足の妖怪の群れを、激しく舞うような刀術で討伐したが、すぐ後ろには巨大な壁状の妖怪が詰めて来ていた。


 鈍重な足音を立てるそれは、鉱物のような異物で出来た体を持ち、一瞬ストーン・ゴーレムかと思われたが、間近に迫るとその異様な体表が認識を改めさせた。


 石板のような体には、無数の生物や妖怪達が練りこまれ、その血肉から漏れる異臭と、時々聞こえてくる取り込まれたものの骨が砕ける音や、まだ生存してい何者かのこもった悲鳴が響いてくる。


 その異様な光景に気圧されて後退ると、畳み掛けるように距離を詰めて来たそれに雷が直撃したーーパダールの雷撃だ。得体の知れない汁を垂らす体表面が爆ぜて、電撃が全身を巡る。だが鈍重な肉体は痺れる様子もなく、平然と体液に湿った足を運んだ。


 再度の雷撃が、今度は左足に命中して爆ぜた。その一撃で体重を支えきれなくなった関節部が折れ、傾いた体は地響きを立てて倒れる。

 しかしホッとしたのも束の間、板状の底面から無数の手足を生やすと、重そうな鋼板の体を持ち上げ、高速で操りながら突進してきた。


 パダールは警戒して最大級の雷撃を放つと、それによって新たに生えた手足を一掃するが、次々と生え変わる手足は途切れる事なく身体を運び、とうとう魔具装置まであと少し、という所まで近づいてしまった。


 ベルは双刀を握り直して、どう考えても通用しなさそうな鋼板の身体に、何とか隙はないかと探る。

 練り込まれた何者かの遺骨が、体表に凹凸を作る。その窪みに狙いを定めて、魔力を込めた突きを放つが、骨を貫いた一撃はその下の鋼板によって弾き返された。


 次の瞬間、近づいたベルに無数の手足が伸びる。もう一方の曲刀で切り裂くが、数本を切った段階で体を掴まれ、引きずり込まれそうになった。その手足の一部は白骨化し、明らかに最近の物ではない遺骸である事が分かる。


 何とか足を突っ張り、掴みかかる手を切り飛ばすが、鋭く尖った指骨が表皮を裂いて掴みかかると、釣り針が引っ掛かったように束縛される。


「ああああっ!」


 痛みと焦燥感に悲鳴を上げながら、全身を使って抵抗していると、閃光がほとばしり、視界が金色に染まった。いまだ下に引っぱられる体が、さらに一閃する金光によって解放される。この光はーー


「ベル! 大丈夫かい?」


 頼もしき同族一の魔法剣士にして、死の尖兵の頭領ーー


「ハンガウ様! どうしてここに!?」


 嬉しい誤算に声を弾ませると、


「ちょっとどいてろ!」


 と肩で弾かれ、離れた隙に長大な黄金剣を一閃、二閃、なます切りにされた板状の妖怪は、泡立つような怨嗟の声を上げると、黒ずんだ塊になって動きを止めた。


「細かい説明は後、マロンこっちだ!」


 ハンガウは再会にも無感動にマロンを呼びつけると、魔具装置の方を指差した。そこにはドワーフ忍者が相変わらず苦戦しており、マロンの登場に露骨に嫌な顔をする。


「むっ、お主か。また邪魔そうなちっこいのが来よったな、ワシがこれをいじっとる間、余計なことをするでないぞ……」


 というドワーフ忍者の前に立ったマロンは、溢れそうな笑みを浮かべると、


「ちょっとだけ借りるワンコ」


 と言って発光した。唖然とするドワーフの前で、体の末端から解れ、光の粒子と化したマロンは、英霊パダールに挨拶するようにグルリと空中に円を描くと、魔具装置の中に入っていく。


 それを見守るパダールも腕を組み、軽く会釈をすると、マロンが浸入しやすいように、雷精の威力を落とした。


 それからしばらく、魔具が時折動いたり、また止まったりと忙しげに稼働すると、空中に光が伸びて、マロンが現れた。


「迷宮を操作している場所が分かったワンコ、今から力を追ってそいつの所に繋げるから、何かに掴まるワンコ、パダール様、今日一番の雷魔法を頼むワンコ!」


 言葉を受けたパダールは巫女たるベルに向き合うと首を縦にふる。ベルも血塗れの双曲刀で剣舞を披露しながら、召喚魔法の力でパダールを支援すると、それに絡み付いて勢いを増したパダールの体から青い光が漏れ出た。


 周囲の者が頭痛を覚えるほどに圧力が高まり、雷光が場を青く支配すると、腹の底に響くような轟音が魔具装置に放たれる。それは最高級の剛性を持つ装置をして、煙を上げさせるほどの魔力だった。


 だがそのおかげで迷宮の支配権を一時的にこちらに取り返すことに成功する。マロンはその事をもって、相手の支配は上層のごく一部に限られていると推測した。


 暴走気味の魔具装置が発動を止めると、目の前には新たな扉が開かれ、その先には薄暗い空間がポッカリと広がっていた。


 最初に反応したのは翼の盾に乗ったハンガウ、彼女は黄金剣で周期を照らしながら、


「ついて来い!」


 と飛んで行った。相変わらずの即断即決、死地に真っ先に飛び込みつつも、必ず生還する上司の姿に惚れ直したベルは、パダールを絡み付かせながら扉へと向かう。


「今の雷撃で魔具装置の魔力はかなり持つはずだ、俺はここに残るから、そっちは任せたぞ!」


 ドワーフ忍者が大声で告げると、その頭上をいまだ光の粒子状のマロンが飛び過ぎながら、


「この装置とも繋がっておいたから、魔具を介して色々指示するワンコ〜」


 と言葉を落としていく。そして先行するハンガウに追いつくと、


「迷宮や敵の事について分かった事もあるワンコ、その盾の中に入って、同行しても良いワンコ?」


 と尋ねた。黙って頷いたハンガウは、盾の魔力を緩めると、エネルギー体となったマロンを受け入れる。すると盾の両側にはえた黄金の翼が力を増し、


 〝この次の間には、真白の地宮表層を操る妖人がいるワンコ〟


 と念話で伝えてきた。同時にその女妖の姿形が脳内に構築されていく。


 妖艶な笑みをたたえた和服の美女、しかしその面相は狐のそれである。大陸風に言うならば狐人族。その真っ白な手に絡み付く赤い紐は、開いた手のひらよりも二回りほど大きな金属鏡に結ばれていた。


 〝八咫やたの光だワンコ〟


 その鏡に注意を向けたマロンが呟く。


 〝この地宮表層を操っているのも、クロエのの力とそれを反射する八咫の光の力だワンコ。そしてそれを持つ女狐は……〟


 部屋に浸入した途端、真っ暗になった室内に、小さく揺れる火の玉が五つほど、空中に漂っていた。

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