表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
106/196

冒険者達VS雪蜘蛛

 間髪入れずに雪蜘蛛を光る線が取り囲む。一番早く動いたトトが、拘束の魔法鞭を振るったのだ。だが雪蜘蛛が片手を振るうと吹雪が吹き荒れ、その妖気に弾かれた光は掻き消えた。


 吹雪が晴れた視界に現れたのは、長髪を振り乱す頭部に剥き出しの牙を持つ雪蜘蛛の変異体ーーその全身は赤黒く染まり、四対よんついの手足には鋭い爪が生え揃っていた。


 なまめかしい肢体から滲み出る妖気に硬直した冒険者達は、


「ウオオオォッ!」


 と怒号をあげる重貴隊の突進とともに再び機能し始める。

 重戦士が分厚い盾を前面に突撃し、ハートの唱えた土魔法により、地面からは槍のような切っ先を持つ土杭が乱立した。だが雪蜘蛛は滑るように回避すると、重戦士達に巣網を放ち、力の方向を操っていく。


 強い粘着にガチガチに固められた装甲が邪魔をして、動けなくなった重戦士達が転がる。その隙に青血戦士団がシアンの精神魔法援護を受けて殺到した。


 先頭に立つテオドールが、魔力を漲らせた剣を振るうが、事前に察知しているかのように取り合わない雪蜘蛛は回避もそこそこに撫でるような一撃を加える。


 掠めるだけで手甲は砕け散り、伝わる冷気に肩口を凍らされたテオドールは、うめき声をあげて転がった。


 シアンが救助しようと踏み込むが、その行く手には目に見えないほど細く鍛え上げられた糸が張られており、不用意に踏み込んだ足を切られる。骨にまで達した傷口を抱えてうずくまるシアンの元に迫った雪蜘蛛は、その大きな顎で襲いかかろうとするが、風の突進力を得たスワンクの一撃を避けると、彼の足元にも巣網を放った。


 続く重戦士に追突されて、無様に転がるスワンク。何とか踏み止まった目の前にも、切れそうなほど鍛え上げられた糸の刃があった。


「硬い糸に気をつけろ! それに込められた妖気は、何かの仕掛けを感じるぞ!」


 後方で弓を構えるゲマインが警告を発する。それを聞いた年配の女戦士が、右手に半月刀を携え重戦士達に駆け寄った。ゲマインの所属するパーティー〝賢剣顎楽トゥーマルタス〟の副リーダー、ゼバスだ。

 剣を振るう軌跡が魔力紋に赤く染まり、左手にはめた指輪が反応して光を放つ。


 その目の前で鋼のように張り詰めていた糸が破裂音とともに弾け飛んだ。

 暴れ狂う糸がスワンク達に襲いかかるが、ゼバスが空間ごと魔力紋の一薙ぎで吹き飛ばすと、糸に絡め取られた戦士達の間を駆け抜け、彼らを自由にしていく。


 その魔法剣が突破口となり、遅れじと重貴隊と青血戦士団が突進した。


 それらを無視するように佇む雪蜘蛛は、いまだに燃え滾る複眼を遠くに向け続ける。そこには必殺の矢をつがえるゲマインの姿があった。

 彼女の構える特別な矢は、ハーフエルフたる彼女の、エルフ側の故郷に伝わる〝伏魔の黒矢〟と呼ばれる品だが、この距離、この敵に必中の自信が無いため機を伺っていた。


 ゼバスの剣が届きそうになって、初めて視線を切った雪蜘蛛は、魔光を帯びた剣筋を妖気溢れる糸刃で受けると、全身から冷気を発して周囲を凍てつかせた。


 咄嗟にザバスの左手が開かれると、指輪から妖気を吞み込む火炎を噴射する。

 それをしゃがみ込んで避けたところに、地面から先端を硬化させた多数の土杭が伸びた。


 表皮を焼かれながらも巣網を絡めて跳び、土杭を避けた雪蜘蛛に、重戦士達を踏み台にした魔法戦士や獣人兵が跳びかかる。


 巣網を広げて迎撃するが、伸ばされる槍や剣が数本雪蜘蛛の体を捉えた。だがそれすらも掴んで冷気を巡らせると、凍り付いた武器に戦士達の悲鳴があがる。


 空中で一捻りした雪蜘蛛が地面に足をつくと、支えを失ったように体を傾かせた。咄嗟に地に手をついて態勢を整えるが、それすらも地面にめり込んでいく。


 ぬかるんだ地面は、ヴェールの仕込んだ水魔法の罠だった。魔力によって変質した地面は、重量を増しながら黒く変色すると、雪蜘蛛の重みも合わせて地盤沈下をおこし、さらに周囲に仕込んでいた重水が絡みつくように押し寄せる。


 沈み込んだ雪蜘蛛はしかし泰然とした様子を崩さずに、口もとと尻に妖気を集中させると、周囲に巣を展開した。


 そこへハートの土魔法が発動、重水の混ざった地面から土の手が伸び、動けない雪蜘蛛を力任せに握り込む。さらにその上にも土の手が重なり、重水が蓋をするように押し寄せると、混ざり合う重圧で押し潰した。


 岩や地盤の振動音とともに、何かが砕けるくぐもった音が響くが、それを成したはずの両者ーーハートとヴェールの顔色は優れなかった。お互いの顔を見合わせると、


「皆退避しろ!」


 と警告を発する。終始それらを見ていたゲマインは、はっきりと情勢が掴めずに仕留め時を躊躇してしまう。


 次の瞬間、爆発とともに大量の土砂が舞い上がると、中から真っ黒な巣網が羽根のように広がった。一瞬遅れてその末端から、さらに捩れた糸が放たれる。

 地面に突き立った糸から一斉に放射される冷気で周囲一帯が凍りつき、広範囲を巣が覆われた。


 土魔法を操ろうとしたハートが、凍りついた土を操れない事に気付き、水魔法で攻めようとしたヴェールが、空中で霧散してしまう事に気付く。


 それが雹となって地面に降り注ぐころ、最前列の魔法戦士達が、苦痛の悲鳴をあげた。重戦士達も訓練の賜物か悲鳴をあげないだけであって、同程度のダメージは受けている。


 そこに這い寄って来たのは、耳元までパックリ割れた口を笑みに歪めた雪蜘蛛。地面から伸びた黒い巣の末端を引き上げると、絡みついた戦士達が引っ張られて苦悶の表情を見せる。


 そこには一本の太く寄り合わさった糸が、鋼の綱(はがねのつな)のように張り付いていた。金属同士が擦れる音が響き、その表面は毒液で黒く汚されている。


 その両端は複雑に展開した巣の塊が、捉えた戦士達とも繋がっていた。


 あれが解れ暴れ回ったら、戦士達はひとたまりも無いだろう……


 スワンク達の元にやって来たハートは、自由になる地面の土に魔方陣を描き、その中に立つと詠唱を始めた。その周囲をスワンクらが取り囲み、大盾でガードする。


 ゼバスは火炎放射で雪蜘蛛を追いながら、ヴェールと協力してなんとか水魔法の罠に追い込もうと画策していた。その横手からシアンの弱体化デバフ魔法が飛び、雪蜘蛛の手足を萎縮させようとする。


 しかし意に介さない雪蜘蛛は、火炎を冷気で退け、デバフを妖気ではじき返しながら、縦横無尽に動き回った。


 遠方のゲマインをも巻き込もうとするが、どうやらそれは叶わないと見ると、その他の戦士達を最大限巻き込めると踏んだタイミングを見計らって、張り詰めた綱を解放する。


 瞬時に解れる糸が、毒液を滴らせて戦場を蹂躙しようとするが、一足先に地面から巨大な手が生えると、解れる綱を束ね取り、さらに地面から隆起するように立ち現れた巨大なストーン・ゴーレムが両手で綱を掴むと、地面に根をはる巣ごと引き抜いた。


 濃い妖気に操られた糸がストーン・ゴーレムの体表を削るが、おかまい無しに抑え込むと、雪蜘蛛に向かって叩きつけるように振り下ろす。


 その頭部には、水晶のような透明な仕切りの向こうにハートの姿があり、全身に伸びた土の触媒を操る姿が見えた。

 その一撃を余裕で避ける雪蜘蛛に、ゼバスの火炎放射が追いすがる。左手の指輪から放たれる炎に、半月刀の魔力紋が上乗せされて、高温に輝く火炎。それを大きく避けざるを得ない地面に、またしてもヴェールの重水罠が仕込まれていた。


 自由を奪われた雪蜘蛛を逃すまいと抑えつける重戦士達、再び巣を張り巡らせようとする雪蜘蛛に、足を負傷して潜むように気配を殺していたシアンが、デバフ効果を集中させた剣先を突き込んだ。


 直接身の内に流れ込む弱体化デバフ魔法に、雪蜘蛛の体が震える。ゲマイン側にとっては千載一遇のチャンス……だが雪蜘蛛にはまだまだ余裕があった。身に蓄えた妖気は周囲を蹴散らすには充分量があるし、状況が悪くなれば撤退すれば良い。注意すべきは目付きの鋭いハーフエルフの弓矢くらいのものか。


 だがこの時、雪蜘蛛に不幸な事故が起こった。クロエと繋がった連絡の糸が強く引かれたのだ。直接繋がった魂が揺さぶられるほどにーー


 身体から精神が抜け出して虚無の塊と化す、その一瞬を見据えたゲマインは、部下達の隙間を縫ってできた刹那の標的に矢を放った。


 的の中心に穴が開き、轟く雷鳴と膨大な魔力の奔流が後を追う。その一撃で完全に肉体の滅んだ雪蜘蛛は、引っ張る感覚に飛ばされて意識すらも失った。


 後に残ったのは、地面に埋没する黒矢と、奇妙な手応えに些かな引っかかりを覚えるゲマイン。だがその違和感もすぐに、彼女を讃える部下や反王軍の歓声に掻き消されていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ