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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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ハンガウVS雪蜘蛛

 雪蜘蛛を中心に近接型の魔法戦士とライカンスロープの輪が形成され、その外周を弓や投げ槍を構えた獣人達と、遠距離攻撃型の魔法戦士が取り囲む。


 だが未知の妖怪の見せた力を前に、いま一歩踏み込めない面々は、間合いを測り、雪蜘蛛の攻撃で全滅しないように気を配るので精一杯だった。


 その一瞬の隙をついて、四方に巨大な巣を張り巡らせた雪蜘蛛が、素早く宙を駆け上る。


 魔法戦士が遠距離から火球を放つも、命中するかと思われた瞬間に、雪女の放射した冷気とぶつかり、火の粉を散らした。そのまま貫通した圧倒的な冷気が、魔法戦士の周辺で暴風となって吹き荒れる。


 冷気の隙間には蜘蛛の糸が紛れ込ませてあり、魔法戦士達の首筋や胴体などに絡まった糸が引き寄せられると、あっという間に蜘蛛の巣に絡め取られてしまう。

 遠距離攻撃でダメージを蓄積させるつもりだったハンガウは、内心の焦燥感を隠して、ライカンスロープ達に救出を命じると、自身は剣を両手持ちに替えて間合いを詰めた。


 愛用の盾は雪蜘蛛に奪われ、張り巡らせた巣の中にガチガチに取り込まれている。代わりに蟲魔獣製の手甲に仕込んだ魔力を発動させると、フワリと空気を押し出し、その魔力循環を微調整しながら飛び込むように黄金剣を振るった。


 遠い間合いから迸る金光が、巣を切り裂きながら雪蜘蛛に伸びる。それを巣の揺れで察知した雪蜘蛛は、素早く跳び退くと、拡散する蜘蛛の糸網を吐き出した。


 ハンガウの目の前に迫り、投網のように広がるそれを、とっさに方向転換して避けると、そこに更なる糸網が飛来する。避けきれないと判断したハンガウが、分厚く展開した金光の刃で真っ二つに切り裂くと、その後から重ねて吐き出された糸網が纏わりついてきた。


 足を踏ん張り剣を振るう、だが切り刻まれた飛沫すら相当の粘着力を有し、再結合する破片全てを避ける事は不可能だった。


 咄嗟に手甲に意識を向けると、周囲を巻き込む風で、何重にも飛来する糸網を撥ね退ける。さらにその圧を利用して、大きくサイドステップを踏みながら、雪蜘蛛の妖気に向かって突進した。


 手甲は放出した魔力の補給に、チリチリと爆ぜるような手応えを伝え、今しばらくは使えない事を認識する。


 雪蜘蛛は連続発射の反動に揺れる巨大な巣の真ん中から、複雑に光る目を向けていた。その間にも辛うじて動けるようになった魔法戦士達の遠距離魔法を浴びるが、そのことごとくが雪女が発する冷気によって迎撃されている。


 ハンガウは二重、三重に張り巡らされた巣を切り裂き進むが、一本の糸を斬った瞬間、その感触が明らかに異質な事に気づいた。

 他が乾ききった糸だとすれば、それはまるで多量の水分を含んだような手応えである。しかも実際には水分が溢れ出る様子もなく、それがかえって違和感を強めた。


ーー鼻腔から脳を直撃する刺激ーー


 生物的危機感から咄嗟に跳び退くと、同時に目の前の巣が解け、大量の飛沫しぶきを伴う糸がハンガウに襲いかかった。


 〝罠かっ!〟


 手甲の魔力充填が間に合うかどうか? ギリギリのタイミングで、周囲の空間を隙なく蹂躙じゅうりんする糸が暴れ狂う。

 それとは逆に、ピンと張った幾本もの蜘蛛の糸が、もつれる糸を四方に引っ張った。その真下、何とか手甲の発動が間に合い、罠をすり抜けたハンガウが、弾かれるように駆け出す。


「クカカカカッ」


 罠を回避し、粘る敵を喜ぶように蜘蛛の顎が打ち鳴らされる。それに不快感を示す雪女の首が、


「あいつを舐めるな!」


 と甲高い声をあげると、長い息を吐き出した。それはみるみる氷の壁を生み出してハンガウの行く手を遮るが、素早く反応したハンガウは死角へと移動していく。


 躍りかかる影ーー雪蜘蛛ににじり寄った虎のライカンスロープが、体重を乗せた爪を振り下ろすと、雪蜘蛛は虎の腕を凍らせた。だが止まらぬ爪が雪女をかする。


 自身に被害の無い蜘蛛は避ける様子もなく、顔の一部を気体化させて爪を避けた雪女が、


「ふざけるな!」


 と怒鳴る。雪女と蜘蛛男は結合して間もなく、お互いを尊重する気などない。相手がダメージを負おうが御構い無しの蜘蛛にキレた雪女は、隣り合う首に冷気を吐き出すと、避けようのない蜘蛛の顔を半分凍らせた。


 気体化したにも関わらず、元に戻った雪女の真っ白な頬には二本の傷がついている。それに気付いた雪女が、


「ギャアアアァッ!」


 とヒステリックな悲鳴をあげると、


「俺様を舐めるなよ!」


 と追い打ちとばかりに虎のライカンスロープが迫る。獣憑き(ライカンスロープ)の魔力は通常ではダメージを受けない霊体にも傷を負わせる事ができるのだ。


 双頭共にダメージを負いパニック状態の雪蜘蛛は、身体のコントロールを失って巣の上で揺れた。ライカンスロープはそのふっくらとした胴体に遠心力を乗せた爪を振るう。


 当たる! と思った瞬間、蜘蛛の尻から発射された糸が虎のライカンスロープの胴体を貫くと、その後放射状に広がって巣を形成する。そこに冷気の魔力が血花を咲かせた。


 地面に叩きつけられたライカンスロープの傷は深く、周囲が凍結して流れる血が体を縫い止める。巨大な氷の壁を回り込んで来たハンガウはそれを見ると、


「ライコ大丈夫か!?」


 とライカンスロープの名を呼びながら駆け寄った。


「ホーッホッホッ」「カカカカッ」


 嘲り踊る雪蜘蛛は揺れながら跳躍すると、遅れて糸に巻き上げられた虎のライカンスロープ、ライコが地面に傷口周りの肉片を置き去りにしたまま、空中に繋ぎ止められる。


 巣糸で緊縛していき、そこに飛び移った雪蜘蛛は、狂ったように牙を剥きお互いを牽制すると、狂笑をあげた。

 その足元では、顔を傷付けられた怒気が、冷気に変換されて、ライコを冷やし固める。


 そこには既に巣に巻き取られた魔法戦士達が一塊にされており、冷気のあおりをくらってくぐもった悲鳴をあげた。


「人質のつもりかっ!」


 荒々しく詰問するハンガウの金光一閃、長大なる剣筋が雪蜘蛛を薙ぎ払う。だが糸を伝う早業に、うぶ毛一本傷付ける事は叶わなかった。

 さらにハンガウの間近で切れた糸が、まとわりつくように襲いかかってくる。その切り口からは雪蜘蛛の体液が滴り、避けるハンガウの頬に雫が付着した。

 直後に襲う激痛に顔が捻れる。さらに、


「ガアアッ!」


 と咆哮を上げるライコが、毛皮の上からも分かるほど血管を隆起させると、目を剥き出し泡を吹いた。


 毒か! 嫌悪感に総毛立つハンガウの顔は、既に半ばまで麻痺しかけている。ライコなどは激しく痙攣した後力無くぶら下がり、呼びかけにも答えなかった。


「カカカカッ」


 愉快そうに蜘蛛の顎が打ち鳴らされる。残りの魔法戦士が遠距離魔法を放つが、ことごとく冷気の放射に封殺されて、空中に張り続けた巣はどんどん複雑に編みあがっていく。


 このままでは全滅もあり得る。ハンガウは再度魔具に干渉して真白の地宮から力を引き出すと、同期した力で雪蜘蛛を追いかけた。

 地宮の引力によって引き寄せられ、魂と肉体の乖離を恐れた雪蜘蛛は地面に降り立つと、強引な牽引に怒り、


「カーッ」


 と威嚇音をあげて尻をもたげる。その先端部に踊る棘が、今にも糸を放たんとヒクついていた。

 部下達の救出に向かう魔法戦士に、


「気をつけろ、罠だ! 救おうとすれば己が巣に絡め捕られるぞ」


 と警告を発する。


「じゃあどうすれば」


 と問われて、


「こうする!」


 と雪蜘蛛に打ちかかった。その連続攻撃は、雪蜘蛛の冷気をも封殺し、糸を吐く暇も与えない。

 だが鋭く振り抜かれた黄金の剣先が雪蜘蛛の体を切り裂いた、と思った時、切り裂かれたのは蜘蛛の糸が作り出したダミーだと気づく。さらにそこから飛び散った巣が、元から有る巣に絡みついて、巨大な巣をより複雑に形成した。


 ハンガウにもせり上がってきた巣網が絡みつく。とっさに手甲の魔力を解放して、その圧を利用して宙に跳ぶが、粘る糸が絡みついてそれを阻んだ。


 糸の毒が肌に触れると、黒い伝い手となって表皮に拡がり、ハンガウの全身に張り巡らせた薄い魔法防御膜を侵食する。


 だがハンガウは守りを増強させるよりもここは攻め時と、魔力飽和に打ち震える黄金剣を爆発させるように一閃した。


 大きく太く空間を薙ぎ払う金光の極刃は、全ての物を消し去る威力を見せたが、縦横無尽に高速移動する雪蜘蛛にはかすりもしない。

 さらに巣の切れ端が空中に踊ると、端から毒液を撒き散らしたそれが、ハンガウの元へと殺到した。


 魔法的な防御膜も剥がれ、手甲の機能も使いすぎてクールタイムを要する……要するに丸腰同然のハンガウが地面の一点を目指して走る。


 追い打ちをかける雪女の氷柱つららが百もの軌道で殺到すると、打ち付ける毒糸と氷柱の猛撃に逃げ場がなくなった。土埃を冷気の爆発が貫き、地面に突き立った矢の周囲では、水分と冷気が変質して氷の棘が結界を作る。

 弾かれた毒糸が吹き飛んでいく中を悠然と歩み寄る雪蜘蛛は、巣に伝わる振動でハンガウの死を確認しようとした。


 ハンガウの周囲に張り巡らされた多重の巣が、瞬時に閉じるとギチギチと締め上げていく。繭状に固めた中心部に乗り巨大な顎を突き立てると、雪蜘蛛は中の魔力を吸い出そうとした。


 その間にも油断なく他の魔法戦士やライカンスロープを警戒する。その足元に緩んだ繭からゴトリと落ちたのは、ハンガウ愛用の胴鎧だった。


 次の瞬間、土煙を切り裂く魔光が雪蜘蛛に襲いかかった。悲鳴をあげて仰け反る雪蜘蛛が乱雑に並んだ複眼で見たのは、上半身裸で〝光る翼に乗った〟ハンガウの双眸。


 滾る瞳を光らせて、足元の盾に刻まれた紋様から伸びる金翼を羽ばたかせると、さらなる追い打ちに雪蜘蛛の多足を斬り飛ばす。


 糸を手繰り寄せた雪蜘蛛が、辛うじて黄金剣の刃圏から逃れると、体液したたる傷口を凍結させる。その激痛に、最大に開かれた顎から甲高い悲鳴があがった。


 追いすがるハンガウ、だが雪女の含み笑いに警戒心を滲ませると、直感が命じるままに距離をとる。


 痛みに震える蜘蛛の妖人を、おかしくてたまらないといった風に声を上げて笑う雪女。その周囲に妖気が漂うと、いつ爆発してもおかしくない不安定な力が充満する。


 視線の端に、仲間を救出する部下達の姿を捉えたハンガウは、そちらに雪蜘蛛の意識が向かないように浮遊する盾から飛び降りると、金翼を封じて左手に構えた。


「さて、これでようやくサシの勝負ができるな」


 と口角を上げると、それを受けた雪女も鮮血色の唇を歪め、


「ホッホッホッ、安心なさい、すぐには殺さないから」


 と吐く息にすら力を滲ませながら、乾燥した空気に怒りを溶かし込んでいった。

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