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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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剛鬼戦③

 轟音の主はパダールだった。魔具装置が安定した事で力を自由に行使できるパダールは、ベルの願いを聞き入れて、黒痣の剛鬼に雷撃を放ったのだ。


 目の前が真っ青になるほどの閃光を宙に刻み込んだそれは、黒痣の剛鬼を捉えると網状に広がり、拘束の戒めとなる。


 唸り声をあげ、逃れようと暴れる黒痣の剛鬼。だが高魔力の電流が爆ぜるように閉じ込めると、室内には毒血と黒痣の剛鬼の焼ける臭いが充満した。


 近づいても大丈夫なのか? と恐る恐る遠巻きにするバッシ達に、


「とばっちりを食わないように、あまり近づかないで下さい。特にバッシ、あなたの破魔の力は戒めを解除する可能性があります。少し離れて」


 ベルに言われて半歩下がると、いまだ他の剛鬼達と交戦している方に加勢に向かう。ボスは拘束したが、まだまだ湧き出すように現れる剛鬼は後を絶たない。逆に戒めを解こうと、黒痣の剛鬼の元へと殺到し始める。


 一方向に意識の集中する剛鬼の動きは読み易く、自分の得意とする距離を保った仲間達は、面白いように血祭りにあげて、半死半生のそれをフェンリルに回していった。だがそんな犠牲をものともせず、一心に黒痣の剛鬼を目指す集団は、質量差も功を奏してその眼前までたどり着かんとしている。


 再び龍装を分厚く展開したバッシは、ど真ん中に躍り出ると、襲いくる剛鬼に身を低く体当たりする。後ろの個体をも巻き込み、よろめく剛鬼。しかしその体を飛び越えてさらに殺到する剛鬼がいた。バッシは伸びる腕を斬りとばし、返す刀で胴体を突くと、剛鬼は血しぶきと共に絶命する。


 噴出する毒の血霧に呼吸が苦しくなる。まともに浴びたわけではないが、避けたつもりの飛沫が空中に漂い、呼吸と共に吸い込んだらしい。

 むせこむ所にさらなる剛鬼が殺到するのを、なんとか龍装を駆使して躱すと、


「ジュエル、毒を吸い込んだ」


 と助けを求めた。すぐさま駆けつけたジュエルは、周囲に詰めかける剛鬼に、聖なる槌撃を食らわせると、


「キュアー・ポイズン」


 バッシの体に触れて解毒魔法を唱えた。聖なる癒しの力に、一瞬体が浮いたような開放感を覚える。ジュエルはそのまま聖守護力場ホーリー・アーマーを唱えると、剛鬼達を結界外へと弾き飛ばした。


 乱戦の中で剛鬼の毒血を浴びたり、吸い込んだ者が結界の中に招き入れられる。直接手で触れながら、一人一人にキュアー・ポイズンをかけて解毒していくジュエルには、とてもではないが余裕は無さそうだ。


 頼もしき聖騎士団リーダーの奮闘する向こうでは、黒痣の剛鬼を助け出そうと殺到する剛鬼達に、パダールの稲妻がさく裂して、空間を青く染め上げている。


 太い稲妻が真横に走るという光景は幻想的で、一体を貫くとさらに枝分かれして複数体の剛鬼を捉え、まるで生き物のように躍動し、避雷者を痙攣させ、肉を焦がした。


 その弱った個体には、とどめを刺すように太矢が突き立つ。見るとパダールの横でドワーフ忍者が特殊ないしゆみを構えていた。

 とどめを刺すと黒痣の剛鬼に力を与える事になるーーと思ったが、倒れた剛鬼の胸は上下している。どうやら矢に仕掛けがあるらしく、射たれた剛鬼は死に絶える事無く、麻痺状態にされているようだった。

 毒か? 豪快なドワーフにしては珍しく、姑息な手段を使うものだ。もっとも忍者とはそうしたものらしいから、道を逸れているというわけではないのかも知れない。ドワーフなのに敏捷性を求められる忍者になる時点で、相当狂った感覚の持ち主には違いないが。


 よく見ると、パダールの放つ稲妻を避けるように、猫人女忍も所狭しと躍動している。もちろん稲妻を避けるという芸当は無理だが、パダールの下で完全に統制された稲妻は、彼女の身を掠りそうになりながらも、軌道を変えて剛鬼を撃ち払い、帯電する標的を気にも留めずに着地点とした女忍が急所を攻撃し、無力化していく。


 そのコンビネーションは、見ている方が空恐ろしくなるほど的確で、電光石火とは正にこの事、瞬く間に無力化した剛鬼を量産していった。


 雷鳴轟く中でも、取り憑かれたように暴れ狂う剛鬼が少なからず居るが、女忍が手裏剣を乱れ打つと、仕込まれた投魔石が体内で爆ぜ、さらにその熱と閃光の中から護符が散らばり広がった。どのような仕組みかはわからないが、それによって無力化させられた剛鬼は膝折れ、真っ白な床に身を投げ出していく。


 毒の癒えたバッシも再び参戦しようしたが、結界の外に白い靄が滞留すると人型を作り、そこに現れたオウ・スイシが聖守護力場に入ってくると、


「この場で待つワフ」


 と諌められた。雷の戒めに囚われた黒痣の剛鬼を見据えるオウに、バッシもつられて見入る。その周囲は銀色の光に取り囲まれていた。


「もう一つ黒痣の厄介な点がある、それは他者への憑依だワフ。あれの本体は黒痣の部分にある。剛鬼はただの妖魔の眷属、その種を好むだけで、黒痣はどんな種族にも憑依できるんだワフ」


 と解説するオウ、眉間のシワが険しい表情を作った。


「では危険になったら」


「攻撃者に憑依しようとするワフ」


 なんて厄介な敵だ、ならばどうすれば良い? 消滅するまでリロの火魔法で焼き尽くすか、パダールの稲妻を浴びせ続けるか? だがそんな事で消滅するとは限らない。いっその事、破邪の力を持つ紫光の剣で切り裂いてやろうかと考えていると、


「フェルリルに考えがある、というかあれを吸収したくてたまらないんだワフ」


 少し困ったような色を滲ませつつ告げたオウの視線は、少し離れた所に立つ銀光の主へと移動していった。


 血煙に汚された迷宮は、すでに自浄作用を発揮して、恐ろしいほど真っ白な壁面を保っている。それをさらに輝かせる光に、直視するのもはばかられるほどの圧を感じた。

 剛鬼の力を大量に吸収したフェルリルは、有り余る魔力、妖力を放射させながら、うずくまる黒痣の剛鬼の元へと歩を進める。揺れる体毛から漏れ出る光が、まるで後光のように神々しい雰囲気を醸し出していた。

 いや、まるで神という表現は間違っているのかも知れない。彼女もマンプルと同じように神格化された存在なのだとしたら、神の一員であってもおかしくはないのだ。と言っても肉感的な肢体と獣欲丸出しの表情は、神性というよりも悪魔性を想起させるが……


 黒痣の剛鬼に伸びる後光の一つがその体を捉えると、まるで熱いものにでも触れたかのようにビクリと身を縮ませた。そこに愉悦の表情をいっそう濃くして、一際大きく輝いたフェルリルが手を伸ばすと、吹き荒れる銀風が黒痣の剛鬼を撫で、毛皮に覆われた表皮に食い込んだ。


 声にならない絶叫をあげた黒痣の剛鬼は、ポッカリ開けた口を固く食いしばると、全身全霊をかけて立ち上がろうとする。だがその度に打ち据える雷撃と、銀光のくさびが力を増して、膨れ上がった体を見る間に萎ませていった。


 なおも楽しそうに虐待を楽しもうとするフェルリルに、


「早く仕留めるワフ」


 とオウが注意すると、半ば獣欲に没頭していたフェンリルの目が知性を取り戻し、銀光を収束させていった。強烈な光のさらなる収束は、遠巻きに居ても頭が痛くなる程の魔力を放つ。

 ヒインと耳を圧迫するほど光り輝く爪を、何気なく上げたフェンリルは、ゆっくりとした足取りでひざまずく黒痣の剛鬼に側立つと、光の軌跡を描く爪で頭蓋を鷲掴みにした。


 爪が食い込み細い煙が上がると、痙攣する黒痣の表皮に血管が浮き上がる。毛皮をうねらせるほどに隆起した筋肉が抵抗の強さを物語るが、がっちりと固定されて微動だにしなかった。

 めり込む爪に粟立つ毛穴が剛毛を逆立てる。そのままゆっくりと入る指を経由して、ドクドクと脈打つように何かが移譲されていった。


 見る間にみなぎるフェンリルと、反比例して痩せ細っていく黒痣の剛鬼。このまま消滅するかと思われた時、


「転移するぞ!」


 とオウが鋭く警告した。剛鬼の顔に憑いた黒痣がもやのように空に漂おうと分解していく。ああして他の者に憑依していくのか、だが優位に立つフェンリルは、妖艶に舌舐めずりすると、潤んだ唇から銀色の吐息を吹き出した。


 震えるように侵食される黒痣の靄は、銀色の息吹と強制的に混じり合っていく。混然一体となったそれを愛おしむように眺めたフェンリルは、その端を発光する爪で〝つまむ〟と、大きく開けた口に吸い込んだ。


 全てを飲み込んだ後に残るのは、力を無くして藁のような毛を纏った肉人形のみ。地面に打ち捨てられたそれは、骨格を失ったかのように拡がると、煤けた塵となって音も無く崩れた。


 耳をつんざくような悲鳴をあげるのは生き残った剛鬼達である。雷撃の中をしぶとく生き抜いた剛の者達だが、リーダーを失い暴走し始めると、バッシ達に片っ端から血祭りにあげられた。


 毒血を浴びる間もなく全てを叩き斬ると、リロの放つ業火が全てを塵になるまで焼き尽くす。


「もったいない」


 と舌舐めずりするフェンリルを、


「もう生命力は十分吸収したワフ」


 とたしなめるオウ。二人の力を思うと味方のはずのバッシまで寒気がしてくる。当面は協力関係だが、今後の展開では敵対する事もあり得る。そう思うと、早対策を講じなければならないが、今の所有効な手段は思いつかなかった。


 一番不気味なのは、霊化なる力を備えたオウの方か? と思い視線を向けると、相手も俺を凝視していた。その深い青色の瞳に吸い込まれそうな感覚を得て、背筋がゾクッと冷える。

 ふっと笑顔を見せたオウが、


「そう警戒せずに、仲良くやるワフ」


 とつぶやいた。何だか心の中を覗かれたような気がして気味が悪いが、同時に魅了されるような求心力を感じる。その魔力的な視線を避けたバッシは、振り切るように神聖魔法をかけてくれたリーダーの元へと移動した。

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