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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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剛鬼戦②

「妖術だ、お互いに仲間を庇いつつ戦うワフ!」


 オウの声を聞き我に返ったバッシに、鋼の大剣からチリチリと破邪の手応えが伝わってきた。


「黒痣の剛鬼は、妖術以外にも、仲間の死を力として取り込む能力を持っている」


 フェンリルの言葉通り、黒痣の剛鬼の輪郭が滲んだように見えると、一回り大きくなって腹の底に響くような咆哮をあげる。それは敵対する者を麻痺させるような、強烈な妖気をはらんでいた。剛鬼達にとっては仲間を鼓舞するような働きをするのか、黒痣の剛鬼が通路から身をズラすと、後ろから活性化した剛鬼達が、大挙して部屋に乱入してくる。


 そこへジュエルが聖守護力場ホーリー・アーマーを発動させながら突出すると、自身が爆心地であるかのように、聖なる力の壁を発現し、剛鬼達を吹き飛ばした。

 大きな質量差が有るにも関わらず、剛鬼達を通路や壁に押し込み、すり潰していく。魔法耐性を持つ毛皮も、聖なる結界には効果を発揮しないらしい。


 バッシやフェンリル、猫人女忍や、果てはオウ・スイシ、ウーシアまでが、その結界ギリギリまで前進すると、内側から結界の消滅を待つ。皆の準備が整ったのを確認したジュエルが、


「消すぞ」


 と一声かけると、聖守護力場ホーリー・アーマーが掻き消えた。待ち構えていた皆が、すかさず目の前の剛鬼を血祭りにあげていく。バッシも斬り裂いた剛鬼をフェンリルに押し付けると、


「倒すと黒痣の力になるなら、お前さんが吸収してくれ!」


 と後ろ手に剛鬼の足首を斬り飛ばしながら告げた。その間にも出血は毒となって漂い始める。他の剛鬼に組みついて生気を吸収していたフェンリルは、


「分かった、なるべくダメージを与えてから、こっちに回せ」


 と空いた方の手を、バッシの押し付けた剛鬼に伸ばすと、見る間に生気を吸収していく。カラカラに干からびた剛鬼は、骨つきの毛皮の敷物のようになって、地面に横たわった。


 その向こう側では、オウが霊刀を手に剛鬼と対峙している。横目に見るその立ち回りは、ウォードのそれとはまた違った美しさをもつ、圧倒的な刀技だった。

 巨大な剛鬼に隠れるように密着して、捉えどころのない体術を見せる、その動きは正に流れる水の如し。

 鋭く振るわれる剛鬼の爪に、当たると思った瞬間、ヌルリと体を入れ替えると、気付いた時には刃を通している。まるで体重をかけた様子もない斬撃は、しかし、信じられない程の深手を負わせて、魔法耐性の有る剛毛を、まるで紙のように易々と切り裂き、血飛沫を舞わせていった。


 バッシは知らずその動きを目に焼き付けるが、ウォードのそれとは違って、体得出来そうもないと本能的に察する。それは数体の剛鬼に同時に襲われた際、明らかとなった。

 バッシの助太刀も間に合わず、殺到する三体の剛鬼に、明らかに押し潰されたように見えたオウ。だが次の瞬間には、その三体を白い靄のようなものが包み込むと、その外縁部が人型に膨れ上がり、そこにオウが現れたのだ。目の前にある無防備な首を一刀両断で仕留めたオウに向かい、残りの剛鬼を斬りつけながら、


「今のは?」


 と問いかけると、少し口角を上げたオウは、


「霊刀の能力の一つ、霊化だワフ」


 と、本来秘密であろう、己の能力を曝け出した。この局面においては、ある程度の情報を共有する必要があると判断したのかも知れないがーー今見た霊化という能力が、自身を気化させて物理的な攻撃を無効化させるのだとしたら、敵に回せば脅威である。しかもそれを成すのが、絶対霊感を持つ剣豪で、身体能力に優れた獣人となれば、その武威は計り知れない。


 次元の違う技に、全く味方で良かったものだと胸を撫で下ろす。いずれウーシアにもその能力は発現するのだろうか? ーーその間にも後ろからは湧き出すように剛鬼が殺到してくる。横道にそれる思考を止めて、雪崩れ込んでくる剛鬼達の中心部に突進をかけると、肩に龍装を集中させて一匹の胸元に体当たりをかました。


 龍装の足爪を思い切り地面に突き立てて、暴れる剛鬼を押し込むと、フッと体を引き、前によろける剛鬼の側頭部を叩き切り、フェンリルの方に押しやる。オウの倒した剛鬼を吸収していたフェンリルは、


「こう数が多いと吸収も間に合わない」


 と苦情を申し立てるが、しかしこちらも倒さない事には、次々と現れる剛鬼に押し込まれてしまう。ウーシアと猫忍は、立ち込める毒霧に手持ちの薬を振りまく事で抑え込んでいるが、濃度を増す毒に間に合わなくなり始めていた。


 〝バッシ〟


 精霊の呼びかけに答えて、銀光の世界の中で剣を振るう。瞬時に急所を突き、切断し、絶命せしめるが、その命は吸い寄せられるように黒痣の剛鬼に集束し、益々大きくなると、ウーシアに躍りかかっていった。鋭い爪を縦一閃、避けられはしたものの、真白の迷宮の地面を削るほどの力を発揮する巨軀に、見ているバッシの神経が削られる。


 それと同時に、またもや痣から黒い雫が垂れると、波紋様に拡がる妖気に頭の芯が揺らされる感覚に陥る。バッシの頭の片隅に、


『もう……動くのを……止めよう』


 というこの状況からは信じられない言葉が浮かんだ。気合いで喝破かっぱするが、どことなく体が重くなったように感じる。これは……昇格試験で受けたシアンの精神魔法に似ている。厄介なのは、戦闘中に不意に襲って来る事か。黒痣の剛鬼の目の前で戦っていたウーシアなどは、一瞬呆然とするほどの影響を受けてしまっていた。


「危ない!」


 距離的に剣の届かないバッシは、鎌鉈を抜きざまに投擲すると、魔力の補正を受けたそれは黒痣の広い背中に吸い込まれていった。後方からの不意打ちに虚を突かれた黒痣剛鬼は、立ち尽くすウーシアに向けて振るった爪を外し、またも地面を削り取る。


 投擲した鎌鉈にはかなりの威力を込めたつもりだったが、剛毛と皮下脂肪の防御力はそれを上回り、音を立てて地面に落ちた。それを追うように振り向く黒痣の剛鬼、怒気を孕んだ苦面は、痣以外の部分が赤黒く染まっている。


 その懐で我に返ったウーシアがとっさに霊剣を立てると、脇から胸にかけて貫いた。

 絶叫を上げながらも、ウーシアを弾き飛ばした黒痣の剛鬼がその場にうずくまる。霊剣もまた真白の地宮の影響を受けて、威力を増しているらしい。


 吹き飛んばされたウーシアを受け止めたバッシは、傷が無いかを確認した。幸い吹き飛ばされただけで、体にも革鎧にも傷一つない。しかし霊感鋭い彼女がまともに攻撃を受ける事など久しく見ておらず、その事からも黒痣の妖術の危険度が察せられた。


 効果時間が過ぎたのか妖術も薄れたようで、ウーシアは頭を振りながら自立すると、胸の中から名残惜しそうに離れる。


 その間うずくまっていた黒痣の剛鬼は、霊剣によって受けた傷を、仲間の死と引き換えに回復させていった。ゆっくりと立ち上がるその姿は、錯覚を起こしたのかと疑うほどに巨大化している。周囲を睥睨へいげいする視線が下に向くと、バッシを見て目を細め、眉間に皺を寄せながら低く喉を鳴らした。


 身にまとう毛皮は艶を増し、気化熱とともに濃い妖気が立ち昇るとーー爆発するような咆哮をあげる。質量を伴うような振動がその場に居るもの全てを圧した。


 このままではまずいーー黒痣の剛鬼からは、さらなる力の滞留を感じる。咆哮に固まる四肢を無理にでも動かして前進したバッシは、駆け出し、大きく踏み込むと同時に、斜め下から胴を切り上げた。


 だが避ける素振りも見せない黒痣の剛鬼は、迎え討つように腕を振り下ろしながら、無数の黒い雫を放つと至近距離で弾かせる。


 〝バッシ〟


 鋼の精の声が聞こえる。だが破邪の光を纏わせているため、同時発動を躊躇ちゅうちょして、そのまま剣を振るうと、刃筋が討ち漏らした雫の波紋をまともに浴びてしまう。その精神波によって魂が弾き飛ばされるような衝撃を受けると同時に、後方から俯瞰的に己の体を視認する。そこでは抜け殻の体が、黒痣の剛鬼の一撃を受けて吹き飛んでいった。


 遅れて追従する魂。


「バッシ、しっかりするワン!」


 バッシの体にすがりつくウーシアの温もりによって、魂と呼べるようなものが、馴染むように肉体に戻っていく。それと同時に我が身に受けた苦痛が押し寄せた。幸いにも厚めに張っていた龍装が致命傷を避けたらしく、表面は無傷で、鈍い打撃によって体内にダメージが蓄積されている。


 ウーシアと共に立ち上がったバッシは、


「こいつの放つ黒い雫に気をつけろ!」


 と警告を発すると、大剣を構え直した。その間黒痣の剛鬼は、飛びかかって来た猫人女忍者を爪にかけようとして、空振りを繰り返させられている。

 背面を捉えようとにじり寄ると、バッシを警戒して神経質に位置取りを変えた。巨大な身体をしている割には繊細で厄介な敵だ。


 その膠着状態を崩したのは、ジュエルの守護結界デバイン・ウエポンによって弾き飛ばされた剛鬼だった。地面に叩きつけられたそれが黒痣剛鬼との間に滑り込むと、バッシは死角に体を沈ませる。そうしながらも、感覚鱗で黒痣の位置を観察し、倒れこむ剛鬼ごと大剣の突きを放った。


 剛鬼を貫通した切っ先が黒痣剛鬼をも捉える。その激痛に雄叫びを上げると、周囲の剛鬼達が一斉に飛びかかってきた。眼前を埋め尽くす毛皮の塊から、鋭い爪が幾本も唸りを上げて迫る。


 〝バッシ〟


 〝ああ、今度こそは言う通りに発動するよ〟


 鋼の精霊が求めるままに、銀光の世界に突入すると、無数に伸びた剛鬼の腕を斬り払う。まだ動けるーーその後方には、仲間ごと巨腕を振るわんと構える黒痣の剛鬼が見えた。密集した剛鬼の狭間に刃を通すと、唯一そこしかないという所へ突きを放つ。


 粘ついていた空間が徐々に抵抗を弱めていくと、フッと体が軽くなる。それと同時に、空間には剛鬼達の血の花が咲き乱れ、胸を突かれた黒痣の剛鬼が突然の痛みに驚愕し、絶叫する。


 その雄叫びは、ジュエルの聖なる槌撃によって弾き飛ばされて尾を引きーーさらに耳をつんざくような轟音が追い打ちをかけた。

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