第6話 盛り上がる生配信
今回は地の文が多めです
ポチっと電源ボタンを押してお目当てのゲームを起動する。すぐに女の子たちが描かれたホーム画面が映り、スティックを動かして“マルチプレイ”を選択して決定ボタンを押した。
「こんにちはー、不束者ですがお手柔らかにお願いします……!」
ラグがあるのか俺が入ったところでチャット欄には特に反応はない。
新たなリスナーが入ると誰かしら反応を示すのだが、まあ、一般リスナーが入ったところでは反応はもともとから少ないから気にすることもないだろう。
「あ、自分は西側に行くんでよろしくでーす」
俺はそう言ってボイスチャットに参加しているメンバーに軽い挨拶をすると、配信画面に映っている識別部屋番号を入力して彼が待っている部屋へと入場した。
ここからは戦いの途中の彼らの手助けに入る――まずは西門を落とすか。と、簡単な予定を立てると自キャラを操作して武器を構えて突撃する。
――よしっ! 助太刀いたすぞ! 練習の成果を見せてやる……ッ!
完全にゲームに感情移入してしまっている俺は気を高ぶらせる。音楽と同じで俺は何かをやるときは完全に集中してしまい周りのことがそっちのけになる。本当に何も感じなくなる聞こえなくなる。
これは音楽という声や体で表現するものならこののめり込む特性は良いモノだ。だが、今回ばかりは最悪の方向へと向かっていってしまった……
ボタンを押して巧みにキャラを操作する。このゲームは強大な敵NPC対プレイヤーたちという協力型のアクションゲームであり、武器を持った女の子たちが爽快に敵を倒して敵陣地に攻め入るといった感じだ。
敵陣地の基地を完全制圧したらこちらの勝利、逆に自陣の基地が占領されたらこちらの敗北。
キャラがやられると自陣から復活してまた武器を持ち戦いに行くが、復活までそこそこの時間が掛かり人数が減ったところを敵に侵攻されて負けるということが多々あり注意。
最近、このゲームが人気でアニメ化されアニメ勢にも人気なホットな話題のゲーム。アニメ話題に敏感なほほろさんがやるのも何の疑問も抱かないモノだ。
まさか、自分の好きな実況者と好きなゲームができるなんてついてるな~……!
気を高ぶらせて敵をどんどんと倒していく。一匹……二匹……と敵モンスターを撃破していく。
魔法を唱えて雑魚を殲滅し、中ボスをやり込んで作った武器で叩きのめして進んでいく。うん! 爽快! 俺が入ったことで劣勢だった味方チームが完全に優勢となっていた。
よし! もっともっと来い!! ――……と、この時の俺は完全に自分が女になっているということを忘れてしまっていた。
ボス級モンスターを倒せば「よっしゃー!」と高くて可愛らしい声を上げて仲間がピンチなのを見かけると「今助けます!」と言って声を張る。
この時は気づかなかったがほほろさんや他メンバーは突如現れた謎の女に動揺しつつも返事を返してくれていた。
本当なら彼らも突然現れた俺に対してツッコみたくてもツッコめなかったのだろう。だって、彼らはかなりの集中力を要されるゲームをやっているのだ。曖昧な反応しか返せないだろう。
これはあとでチャットログを見返して判明したことだが――
[ノアさんって女の人だったの!?]
[えっ!? マジ!! しかも、声すっごく可愛い!!]
[女の子なのにこんなゲームやってたんだ……]
[待って、今、チャンネル登録した]
と、かなりの大盛況となっていた。
無論、激しいゲームをしているからスマホの画面に流れているチャット欄になんか目が行くわけがない――なので気づいていなかった……
自分がプライベート用のアカウントではなくて音楽活動として使っていたアカウントで「参加します」と書き込んでいたことを。
ちなみに、ノアという名前なら日本なら実名と思われないしいけるか? と思ったからだ。
とにかく、まあ、俺はこの動画サイトで頻度は少ないがアニソンなどをMIDIでアレンジして投稿するなどのそれなりの活動をしていたのだ。
規模は少ないもののアニメファンが中心にリスナーが居てそれなりの人気のチャンネルだった。
では、現在、俺が出ている生放送はどこの人がやっているのか? アニメ系実況者のほほろさんだ。
じゃあ、視聴者は自然とアニメ好きが多い。じゃあ、どうなるか……俺が抱えているリスナーとここのリスナーが被るのは不自然なことじゃない。
つまり、俺が女と判明したチャット欄はどうなるか……? それに気づいたのはゲームが一度休憩時間と呼ばれる期間に入った時だった。
ゲーム機のスピーカーからほほろさんから声が掛かる。
『……えっと、ノアさんって女の人だったんですね……』
「――……ほえ?」
急にそんなことを言われて間の抜けた声を出してしまう。この時はじめて自分が女であることを思い出し、チャット欄がカオスになっていることに気づいた。
――あ、ヤバッ……と、背中の毛穴からら汗が噴き出すかのような感覚におちた。俺はその場にゲーム機を持ったまま固まる。俺の心境は完全に氷河期だがほほろさんは明るい声調を変えない。
『声、すっごく可愛いですね……僕、ノアさんのアレンジ曲実はすっごく好きなんです』
「あ、ああ! そ、そうだったんですか……! は、あはは! 有名実況者さんにそう言われて嬉しいなー!」
『登録者は同じぐらいじゃないですか! 僕もノアさんがリスナーだって――……えっと、みなさん、まさかのできごとですよ……まさかの、有名アニソンアレンジ――』
もはやゲームなんてそっちのけで盛り上がり始まる生放送。コメント欄は『可愛い』やら『声聞かせて』などで埋められて、他の参加者もざわざわと話し合い興奮していた。
ほほろさんも声の調子が急に明るくて元気なモノになったので興奮している様子。それは俺が女の子だったからなのか、本当に俺のファンで交流ができて嬉しいのかは分からない。
ただ、俺はとんでもないことをやってしまったと――ものすごい勢いで流れていくコメント欄を憂いた眼で見守るだけだった……
ここまで読んでくださった方には本当に感謝です。
そして、日間ヒューマンドラマ20位ありがとうございます! 改めてたくさんのブクマと評価、本当にありがとうございます。入れたのは皆様のおかげです! とても嬉しい限りです。
最後に報告ですが、今日はおそらくこれが最後の投稿になると思います。時間があれば夜に投稿できるかもです。




