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第30話 現役女子学生と風呂に入る中身24歳の男性


 ――トロトロとした温かなお湯に体を付けて沈めていく疲労と汗が流れ落ちていく……


 三時間のダンス練習に一時間の簡単な歌唱練習――そのあとのお風呂タイム。


 普段の俺なら「ぷはあっ!」と爺臭い声を出してこの温かみを堪能しているはずなのだが……今はそういう気にはなれなかった。無防備な背中に女の子二人の声がぶつかる。


「はあぁ――やっぱりお風呂は良いですわねぇ……」

「同感だよぉ……フランスじゃあなかなか入れなかったからぁ……気持ちいい……」


 悟られないようにゆっくりとゆっくりと後ろを振り向くと半分ほどとろけた二人の顔を確認する。


 エレナはタオルを頭に乗せてレティーは眼を閉じて余韻に浸っている。三人とも髪型はずっとお団子スタイルのままだ。


 当たり前だけどエレナもレティーも裸でちょっと目を擦れば男としては良い思いはできただろう。


 でも、この体になって正当な理由があろうと未成年の彼女らの裸を見るのは成人男性としてはどうなのか? ――と、羞恥などといった理由ではなくそういう理性的な理由で物凄く気まずかった。


「うぅ――せっかくの温泉が……」


 二人に悟られないようにして愚痴を漏らす。高い天井に大きな大浴場という練習後の疲れを癒す場面のはずなのだが全然休まる気がしない。


 最初は汗を流しておいでって言われてここに来たがなんだか騙された気分だ。こじんまりとしたシャワー室みたいのを想像していたけどこれは……もはや保養施設とか銭湯とかそんなレベルでは?


 まあ、逆にこじんまりとした風呂だった場合はそれはそれで困るけど。おかげでこうして二人から結構距離を取れるわけ――


「ねぇー! どうしてそんなに離れてるの? 三人でゆっくりしようよ!」


 撤回。そういう訳にもいかなさそうだ。確かに友達三人で温泉に来て一人だけボッチになってたら俺も同じことを言うはずさ……でもなぁ、その親切心は今の俺にとっては毒なんだよー!


「ご、ごめん、ちょっと今、一人になりたい気分だから……」

「ん? 急にどうしたの? 何か嫌なことでもあった?」


「い、いやぁ~、なんか一人だけにして欲しい時ってあるじゃん? そういう――」

「何か悩み事でも? 友人としていつでも相談に乗りますわよ?」


 バシャっと体にお湯を飛ばしながら立ち上がり自信満々な笑みを見せるエレナ。俺はとっさに目を放してゆらめく水面に視線を移した。彼女は歩み寄ってくると隣にゆっくりと腰を下ろした。


「どうしたのですか? 顔を背けたりなんかして……」

「べ、別に……ちょっと、その……」


「良くないことがあるなら吐き出しちゃった方が楽になるよ?」

「い、いやぁ~、よ、良くないっていうか……その……」


 両隣を二人に挟まれてどうしようもなくなってしまった俺は「うぅ……」とか弱いうめき声を漏らすとそのまま体育座りをして縮こまってしまう。


 本当は男であれこれとかも言えないし……二人の体を見るのもが気まずいとも言えないし……どうしたものか……ぐぬぅ。


「どうしたんですか? 具合でも悪いのですか?」

「うわっ!?」


 気づかぬうちにエレナの顔が鼻先まで迫り驚いて仰け反ってしまう。彼女の体を見ないようにするために慌てて顔隠す。


「ど、どうしたのですか? 大袈裟な……」

「もしかして、ノアちゃん――」


 レティーが何か気づいたのか俺の様子を見てハッとした表情を浮かべる。彼女に対して俺とエレナの視線が集中する。


「どうしたのですか?」

「ん? あー、もしかしたらノアちゃん裸見られるの恥ずかしいのかなって……」


「裸体を見られるのが恥ずかしいって……私たちは女同士じゃないですの?」

「でも、恥ずかしいって子は居ると思うよ? だって着替える時もさっきの脱衣所の時もノアちゃんこそこそと逃げてるみたいな様子だったし」


「た、確かにそう言われたら――ノアさん、本当に恥ずかしいのですの?」


 首を傾げてそう尋ねてくる彼女。あれあれ? 勝手に話が進んで俺が恥ずかしがり屋さんみたいな感じになってるけど? どっちかというと貴女たちの裸が見れないって感じなんですけど……?


「沈黙は肯定の印……どうやら本当みたいですわね」

「え? ちょっ! 別にそんな訳じゃあ……」


「では、なんで私たちから逃げるようなことを?」

「そ、それは……」


 答えられない。ていうかいい返事が思いつかない……まあ、裸が見られるのが恥ずかしいですって言えば下手に近寄ってくることもないだろうし、ここはそういうことにしておいた方が都合がいいかな。


「ごめん、さっきのは嘘。エレナたちの言うと通り恥ずかしい……」

「でしたら最初からそう仰ってくださればいいのに」


「私は全然気にしないよ? ほら! 今だってノアちゃんの前で普通にしてるでしょ?」


 両腕を広げて自らの体を見せつけるかのようにしてくるレティー。なるべくその姿を目の中に入れないように彼女のニコニコとした顔だけを視界に収める。


「はは、やっぱり変だよね。でも、自分の体に自信がないから恥ずかしい、あっちに居るから二人で楽しく話でもしてて」

「大丈夫だよー!」


 立ち上がろうとした瞬間に腕を掴まれてしまい引き戻される。再びお湯の中へ逆戻りしてしまう。


「確かにノアさんの体は華奢な方だと思いますけれどそこまで心配する程ではないと思われますわよ?」

「そうだよー。私なんて結構筋肉質だし、それに――」


「わ、分かったからそれ以上言わないでくれ……」


 体を見せびらかすようにしている二人。これ以上は俺の精神衛生的によろしくないので無理やりにでも止めた。すると、突然、エレナが俺の手を引っ張った。


「きゃっ!?」


 俺の可愛らしい悲鳴が浴室全体に響き渡る。突然のことだったのでつい声を上げてしまった。


「きゅ、急に何を……?」

「うふふ、緊張が解けるようにリラックスですわよ」


「り、リラ――ッ!? ちょ、ちょっと! 体近いってぇ!」


 羽交い絞めのような体制にされて柔らかい二つの感触が背中に押し当てられる。それが何なのかすぐに理解してしまって顔がカーッと赤くなる。


 ま、不味いって! 女子中学生とこんなこと不味いって!! 身体を動かして抜け出そうとして抜け出せない。後ろに居たエレナが「ふふ」と不気味に笑う。


「ノアさん……あなた意外と胸が大きいですわね……」

「な、何を急に!?」


 耳元で囁かれるエレナの声。それと同時に彼女の指先が優しく俺の肩甲骨を撫でてきた。ゾクッとするような感覚に襲われて体が跳ね上がる。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ二人とも!」

「どうかしたのですか?」


「なぁに?」

「だから恥ずかしいって言ってるじゃないか!? くすぐったいから離してよ!?」


「あ~ら? 私はノアさんが自分の体に自信を持てるようにお手伝いをしてるまでですわ? こんなに綺麗な体をしてるのに見せないのはもったいないですわよ」

「そうそう! こうやって皆に見てもらうことが大事だと思うんだー?」


「いやいやいやいや! 意味わからないから!? っていうか離れろってばあああっ!!」


 どうしてこうなった……。二人にがっしりと掴まれてるから動けない。だ、誰か助けてくれーっ!!


「ふふ、ほらぁ……ノアさんのここもこんなに綺麗ですわよ?」

「こ、ここってどこだよ?」


「ここはここですわよ……私ほどじゃありませんけど胸も大きいしスタイルも良いですよ? アイドルたるもの体には自信を持たないと」

「ちょ、そんなことまでいいから! てか早く離れてくれないと色々とヤバいっ!」


「そう言われましてもまだ十分に見せていない場所がありますものねぇ?」

「十分見せたじゃん! もういいだろ!?」


「逃げたらだめだよ? ふふっ、ほらほら~」

「や、やめっ! くすぐらないでよっ! あ――ははっ! レティー! ほ、本当に……きゃはははっ!」


「あはは! 本当に可愛いなぁノアちゃんは。もっと笑ってもいいんだよ?」

「んひゃはははっ! む、無理ぃ~っ!!」


「ほらほら、我慢しないで笑いましょうよ? その方が楽しいですわよ?」

「楽しく……ないって――ひゃ、きゃははっ! エレナもそ、そんなとこ……くすぐらない――ふ、二人ともやめっ! わ、わ、笑い死んじゃう きゃははっ!」


 な、なんでこんなことになるの? 裸でくすぐられて大笑いして……これこそ本当に恥ずかしいじゃん。笑い死んじゃう……風呂場に俺の叫び声ともとれる笑い声が響く。


「くっ……! ふ、ふー、きゃはは! あ、あーっ! た、助けてっ! し、死ぬよぉ……」

「大丈夫大丈夫! これくらいじゃ死にませんよー!」


「ふふ、そうですわよノアさん。安心して笑い狂ってなさい♪」

「ふ、ははっ! ――い、嫌だあああっ! こんな姿だけは絶対に見られたくない! 恥ずかしいよっ!」


「えぇ~? 私たちしか居ないし良いじゃないですかー?」


 小悪魔のような笑みを浮かべる二人。さ、サディスティックなお二人ですね。くすぐったくて死んじゃいそうだ……マジで、この子たちヤバいって……マズい、このままじゃあいろいろとマズい。体的にも世間的にも……こんなところを誰かに見られたら――


「ふふっ、若いっていいわねぇ、お姉さんも混ざってもいいかしら?」

「……へ?」


 唐突に声をかけられた俺は思わず笑い声を忘れて間の抜けた声を出してしまう。まさかこの状況を誰かに見られるとは思わなかったのだ。


「こんにちは、貴女たちって新しい子でしょ?」


 そこに立っていたのは栗色の髪の色をした二十歳ぐらいの女性だった。彼女は哀れもない俺の姿を見て「あら、可愛い」と呟くと湯船に入って俺たち三人の側まで近づいて来た。

 おはようございます、今回も読んでくださりありがとうございました。

 こうして書き直しの合間に新作も出せていければいいなと思っています。近々、ハーメルン版との整合性も取りたいので両方の方でバランス調整をしていく予定です。

 次回もどうかよろしくお願いします。

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