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第22話 正体不明の症状


 ――誰かが俺の体を揺する感じがする。いったい誰だ……?


「お~い――さん、起きて――っ!」


 ん、この声は……亜里沙? 急になんだよ……?


「ちょっと、ノアさん! 起きてよー!」


 どんどんと眠りから覚めて声が近くなってくる。眠りという名の海に沈んでいた俺の意識がどんどんと海面へと引き上げられていくような……そんな感じだ。重かったまぶたがゆっくりと開けられていく。


「やっと起きた。ずっとあれから寝てたんですか?」


 一番最初に映ったのは亜里沙の顔だった。エプロン姿で困惑した表情をしていて彼女の両手は俺の身に寄せられていた。まだ頭の動きが鈍いままだが絞ったような声を出す。


「――んあ、亜里沙? カレーライスは……?」

「カレー? なーに寝ぼけてるの? 今日はハンバーグだよ」


「ハンバーグ……そっかぁ……ふあぁ」


 上半身を起こして虚ろな目を亜里沙に向けながら大きなあくびをする。あれだけ眠ったのにまだ眠いなんてな。少し早い夏バテかな?


 ベッドの上でちょこんと座ってまだ拭えぬ眠気に身をふらふらとさせていると亜里沙がハンカチを俺の口元に当てる。


「もう、涎が垂れてる……女の子なんだからちゃんとしてよ」

「心は男だよぉ」


「男でもそんな格好はないと思うけど? とにかくちゃんと服着てよ」

「……ん、分かった」


 下着姿でだらだらしながら曖昧な返事を返すとベッドから這い出る。ふあぁ……あくびが止まらない。寝起きは苦手な方だけど今日はいつもよりか酷い気がする。


 ――う~ん、頭が重くて怠い……ちょっと体も気だるいし何か変だな。


 まるで、体に重りを括り付けられているような。あるいは自分の周りだけ重力が強くなっているようなそんな感じだ。風邪でもひいたのか? こんな格好で寝てた俺のせいだけど……


 目を擦ってボサボサな金髪を整えながらなんとか立ち上がる。ふらふらとする体にも疑問を抱きながら部屋の中を進んでいく。んー、若干頭痛もある? マジで風邪かな……?


 脱力期間といってもこれほどの症状が出たことがないので本格的に病気を疑う。とりあえず、体を冷やしたらダメだと思ったのでタンスから服を取り出してすぐに着替えた。


 真っ赤なスカートにもこもこの服。今の身体にはぴったりな可愛らしい服装だ。


「――ノアさん、着替え終わったなら手伝ってよ。今日はずっと寝てたんだから」

「う、うん、分かったよ。今から行く」


 調理器具を片手にキッチンで頑張って料理を作っていた彼女の下へと向かう。流し場で石鹸で手を洗って両手の清潔さを確保するととりあえず何をやればいいのか尋ねる。


「そうね、ジャガイモの皮でも剝いてくれる? ポテトサラダ作るから」


 そんな亜里沙の言葉に頷くとピーラーを受け取って皮むきを始める。最近はこうして亜里沙が本命の料理を作って俺がその脇でサラダやスープなどを手伝うという構図がキッチンではよく見られる光景になっていた。


 洗濯や掃除などは完全に任せっきりになってるから少しでも手伝おうと始めたこと。意外に楽しくて最近では料理のことを自分で調べたり昼ご飯は自分で作ったり、お菓子を作ってみたりとハマっていた。


 だけど、今日はあんまり気乗りしない。体調のせいだろうか? 楽しいという感情があんまり湧いてこなかった。なんでだろ?


 まったく冴えない頭のままぼんやりとしたまま皮をむく。単調な作業なはずなのになんか難しいな? 頭がよく回らない。


 そんな時、となりに居た亜里沙から嬉しそうな声が掛かる。


「ふふっ、ノアさん。オーディション受かったらしいね?」

「――……うん、まあね」


「あら? あんまり嬉しそうじゃないわね?」

「そうか? 俺はこれでもかなり喜んでいるんだけど……」


「全然、そうには見えないわよ? 顔色もなんか悪いし、具合でも悪いの?」


 晴れやかでない曇った顔つきのまま首を傾げてくる亜里沙。初めて他人から指摘され、この症状が気のせいではなくて本当に身に起きていることだと実感する。


 先ほどまでは漠然とちょっと具合が悪いかな? って感じていたが、亜里沙に言われてからはそのことを意識するようになる。治まるどころかどんどんと酷くなっていく……


「――……うっ、くうぅ……」


 本格的に頭がガンガンと痛み出して持っていたピーラーを落としてしまう。下腹部が抉り取られたかのように痛くて未知の苦痛に表情を歪める。なんだよ、これ……?


「ちょ、ちょっと! 先輩!! 大丈夫……って、きゃあっ!?」


 亜里沙が何かが落下して地面に叩きつけられた音とともに悲鳴を上げる。彼女が驚くのも無理はないだろう……突然、俺が糸が切られた操り人形のように倒れたのだから。目の前で急に人が倒れたら驚くのも無理ない。


「先輩ぃ! しっかりして!! 本当に――な――」


 床に倒れていた俺を抱えてぐったりとしている自分に向かって必死に声を掛ける彼女。しかし、どんどんと声が遠のいていく――あー、完全にヤバいやつだ。熱中症の時に気絶した時に似てるかも……


 あの視界に黒い霧がかかっていくように目がかすんでいく感覚。やがて電源がぷつっと落ちたかのように意識が途絶える。正体も分からないこの現象に抵抗すらできずに俺は深い闇に落ちた――

 今回もご愛読ありがとうございました。ブクマや評価もとても助かっています。


 お知らせですが、遠くない未来にTSモノではない新作を投稿予定でございます。前の言ったファンタジーモノではなくて別件な作品です。ちなみに、書き溜めして投稿するのでこちらの作品の投稿ペースが遅くなったりはしませんのでご安心ください。


 TSモノじゃないのかよ、と思うかもしれませんが良ければそっちの方もよろしくお願いします。では、次回も見ていってください!


 

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