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第21話 新たなる生活の予感


 あのオーディションから一週間が経った。


 いつもそうだけど俺はこういう試験のあとはなんだか無気力になる。いったい、なんでそんなことになるのかはよく分からないけど、きっと全てを出し切って体がふにゃふにゃになるのだろう。


 でも、なんだか今回はいつもよりか無気力期間が長いような気がする。


 関係あるか分からないけど、スーパーでちょっと荷物持っただけで疲れるしスタミナがごっそり無くなった。風呂に入るだけですぐに疲れてしまう。


 実際にこの体は体力はあんまり無いような気もしなくもない。すぐに疲れるし、あんまりいいモノじゃない。男の時は溢れてきた力の泉がこの体では枯れて何も湧いてこない。


 唯一、体力回復できるのが睡眠という名の回復行動で手に入るエネルギーはこれだけ。あとは食事ぐらいかな? 久しぶりにカレーライスを食べたいなぁ。亜里沙、作ってくれないかな……へへへ。


 エプロンをした亜里沙が『ノアさん、カレーですよ』とニコニコした笑みを向けているシーンを妄想する。あ、ビーフシチューでもいいな。でも、白いシチューも捨てがたい――あー、腹減ったぁ……


「――じゅる……おっ、涎が……」


 思わず溢れてくる食欲に塗れた涎を腕で拭う。シャツと下着姿でベッドで仰向けで涎を垂らしている姿は実に変態である。でも、暑いししょうがないじゃん……この部屋エアコンないし。


 もともとこのアパートはただの寝床でここで本格的に生活することは考えていなかったし、現在は絶賛家具や設備を整え中だ。夏に入る前にはエアコンは来るらしいけど、六月現在でも十分に暑いし仕方がない我慢我慢。


 額からダラダラと出てくる汗を拭う。ジメジメ状態のここでは半分サウナと言っても過言ではなくて背中もべとべとしてシャツが濡れて気持ち悪い。ときどき窓から入ってくる涼しい風と冷たいスポーツドリンクだけが癒しだった。


 こうも暑くなってくるとこの長い髪もちょっとは考え物だな。ばっさり切ってしまおうかな? でも、結構長い髪の毛好きなんだよなぁ。短い女の子よりも絶対長髪派。どうしようかなぁ……


 一抹の葛藤を感じながらベッドのすぐとなりにある窓の外へと目をやる。青い空ともくもくした白い雲が視界に入る。


 外からは子供たちの楽しそうなキャッキャッしてる遊び声。特に何もしていないのでシンと静まっているこの部屋ではさまざまな小さな音でも耳に入ってくる。


 ふわっとときどき入ってくるヒューヒューと音を立てる風。他の部屋の住人の生活音。そして、俺の胸が上下に動いて口から吐き出される少女の吐息の音。少し前までオーディションでドタバタとしていたのが嘘みたいにおだやかな日だった。


「ふわぁ……なんだか眠たくなってきた」


 少女の眠たそうなあくび声が自分の口から発せられる。女になってからもしばらく経ったがまだこの体には慣れそうにはない。


 亜里沙にはアイドルやるんならちゃんとしろーと言われるけど二十年も男をやって来た俺に対しては厳しいことなんではないだろうか? まあ、それなりには女の子できるようには頑張るけどさぁ。って、今はそんなこと言えた口じゃない格好してるんだった……


 汗を垂らして下着一枚の女の子。こんな格好は完全に今の姿でやってはいけないことは分かるけど暑いし、眠いし、もう着替えるという行動にすら移れなかった。


 ――亜里沙のヤツ。早く帰ってこないかな? 今日は()()()()()()なのに……


 肝心な日なのに帰りが遅い彼女のことを憂う。いつもなら夕方前のこの時間帯には帰って来るのに今日ばっかりはなぜか帰りが遅い。いったい何かあったのだろうか……?


 開いた窓から心地よい風が吹いて熱気に満ちたジメジメとした暑い空気を吹き飛ばしてくれる。俺は思わず眠気で半開きになった目を完全に閉じて呼吸をおだやかにしていく……


 ――ま、寝てればそのうち帰ってくるだろう。そう思って俺は静かに意識を手放した……



 空がオレンジ色に染まる黄昏時に私は急いでノアさんが居るアパートまで戻っていた。お昼は真夏日と言っていいほどに暑くて大変だったけど今はそれなりに涼しかった。


 ――が、今の私は額に汗を浮かべて重い荷物を運んでいた。せっかくの涼しさもこの大量の荷物のせいで完全に台無しだ。


 夕飯の食材や暑さ対策に買った新品の扇風機。そして、もう一つ()()()()が入った紙袋――


「……はぁ……はぁ……こうなるんだったらノア先輩連れてくれば良かった……」


 家でゴロゴロしている彼女の様子を浮かべてそう言った。今朝、一緒に買いものに行かない? って、誘った時はだるくて無理ってあっさりと断られた。


 それでも無理やり連れて行こうとしたらあんな可愛い姿で涙をうるうると浮かべて「嫌だ」なーんて言われたら私にはこれ以上何も言えなかった。


 実際、先輩は女の子になってからはかなり体力が落ちたみたいだし、今回は見逃してあげたけどやっぱりこんなことになるのなら強引に連れてくれば良かった。


 ――……もう、帰ったら今日の分は絶対に働いてもらうからねっ……!

 今回もご愛読ありがとうございました。ブクマや評価も毎度のこと感謝しています。


 気づいている方もいらっしゃると思いますが、小説家になろうにおいては音楽などの著作物には厳しいということでしたので実際に存在する曲については全て名前などを伏せさせていただきました。私自身も本当はのせたかったものですがご理解いただけると幸いです。


 それでは次回もどうかよろしくお願いします。

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