第2話 女になった自分の体を撮ってみる。
カチッっとボタンを押してカメラを起動するとそこいたのは金髪の美少女だった。
少女はスマホカメラをボーっと見つめていており、可愛らしくパチパチと二回まばたきをする。青いサファイヤブルーの瞳が揺れ、輝き――とても綺麗だった。
画面の彼女は俺がやることなすことを鏡のように返してくる。手を上げれば彼女もまた手を上げて、口を動かせば彼女もみずみずしい唇を動かす。
――はは、マジでこれは夢なんじゃないかな? と、考えてしまう。でも、この子は確実に現実に存在しているし、こうして目の前にいる。
そして、確実にその子は呼吸をして生きている。意思を持って感情を持って。
ただ問題なのはこの子自身が俺だということ。なぜか? いや、分からんよ。そんなん、知らんうちになってた。
……不思議というかなんというか。つっか、俺という体はどこにいってしまったのだろう?
てか、俺という存在はある意味消えてしまったのではないのか? 確かに意識を持ってこうして少女の中には俺という者は存在している。
でも、肉体が変わりこうして女の子になってしまった俺。それは今までの俺と同一人物だとは言い切れるのか?
俺という人格を持ったまったくの別人。
……そう言い換えたら――なんだか怖くなる。現にアイツはこんな俺を信じてくれるのか? ……いや、ダメだ。後ろ向きになったらそれこそ終わりだ。
悲観するよりやるべきことやらないと。うん、前向きに前向きに……!
首を横にブンブンと振ってうっそうとした気持ちを切り替える。
スマホの画面の中の少女も同じように行動し、金髪がふわっと揺れてまるでイラストの一枚絵。とても美しかった。
……うーん、それにしてもナルシストとかじゃないけど、今の俺――めっちゃ可愛い。男の時なんかハーフだったけどイマイチだったから女の俺。すげぇよ。
なんだろう。ドイツ人と日本人とのいいとこ取りってやつか? 白い肌や青い目、そしてこの金髪はドイツ人由来のモノ。見るものを誘惑する宝石みたいな見た目。
そして、この子供っぽい可愛らしいフェイスは日本人特有のモノ。ベビーフェイスってやつ? あちら側の人って可愛いよりも美しい、そんな成長をするのでこの見た目はハーフならではの恩恵だろう。
んで、まあ、おかげで今の俺は金髪美少女と言っても過言ではないぐらいの愛くるしい外見を手にした。
アイドルとかやったら絶対に受けそう……ん? アイドルか。なんかいいな……今度はアイドルでも目指そうかな。
ドイツ人ハーフ系美少女アイドル爆誕!! ……なーんてな。ふざけてないでとにかく自撮りを済ませてアイツに送るか。
内カメラに目を向けてスマホを左手固定し、右手で適当にポーズを決める。自分の手よりも大きな画面を操作して……
――パシャ! と、カメラの音とともに俺の姿がスマホに焼き付けられる。画面にはピースをした金髪の少女がニコッとした表情で写っている。
あとは……よし、これで……送信!! 証拠画像も上げたしこれで分かってくれるといいが……まっ、大丈夫だろう!
迷いを振り払うように勝手にそう決めつけるとスマホを元の場所に置く。喉乾いたからなんか飲もう。と、体を動かすとスースーと脚に冷たい感覚が走った。
「あっ、そういや下丸出しだった。流石に何か着ないとヤバいな」
いくら自分の体だと言え女の子が半裸でいるのはマズかろう。でも、なんか着れるモノあったかな……?
顎に手を当てて「うむうむ」と唸る。大人の服は無理だし、大学、高校時代のモノも無理。こんな小さな体に合うわけがない。
うむ……そうだ! 確か押し入れに中坊の時に着てたジャージがまだあったな。あれならギリ着れそうか?
十年近く前の愛用服のことを思い出した俺は、着替えるために上のパジャマも脱ぎ捨てる。脱ぐ時に長い金髪の髪が揺れて一糸まとわぬ背中にさらっとした髪の感触が走る。
すっぽんぽん――これで文字通りに全裸になった俺は部屋の隅に移動する。押し入れの扉を開けて、綺麗に束ねられた衣服を引っ掻き回す。
これでもないな――これじゃない……あー、この服ここにあったんだ! ――いやいや、今はそうじゃない――と、出したモノを床に散らかしながら目当てのモノを探す。
だいたい探すこと五分ぐらいかな? 赤色の服が顔を出す……
「――……おっ! これは……っ!」
足元が衣服で埋まってきた頃に、目当てのジャージがクローゼットから姿を現した。久しぶりだな学生時代の戦友よー!
両手で懐かしき相棒と再会を果たしギュッとそれを小さな胸で抱きしめた。
ずっと着ていないからとくに変でも良くもない匂いだけど甘酸っぱい青春の香りがほのかに感じられた。
――よーし! これでやっと裸から解放される。とジャージに腕を通そうとした時だった。
ドカン! と、勢いよく何かを開けた音が部屋に鳴り響いた。あ、アイツもう来たのか? 思ったより早いな。
先ほど写真を送った相手の顔を思い浮かべた。俺の予想は当たっていたらしく一人の女性が部屋にずかずかと入ってきた。
「――ノアさん!! いったい何なんですかこれっ!! ちゃんと説明して――ええええッ!?」
俺の姿を見た彼女は悲鳴にも聞こえない声で絶叫したのであった――あはは、どうやって説明しようかなぁ……これ。信じてくれると良いけど。
ここまで読んでくださりありがとうございます! 前回からの引き続き読んでくださった方にはさらなる感謝をします。本当にありがとうございます。
これからもどうか本作品をよろしくお願いします!
※2021年9月21日に書き直ししました!




