悔しさに塗れて
盛り上がる会場――私の視線の先にはステージ上で高らかにこちらに向かって手を振っている金髪の女の子が瞳に映っていた。
つい今朝までバカにして小さく見えていた彼女が今は巨大で非常に恐ろしく見えた。観客席に座っていた私は拍手もせずにグッと歯を食いしばり、膝に置いていた手で拳を二つ作った。
――何よ!? こんなの私がバカみたいじゃない……!!
謎の言葉に言い表せない悔しさ。ずっと私がアイツにやって来たことがなんと滑稽でバカげたことだったのかと思わずにはいられなかった。バカなのは私の方だった。
「ふふっ! 私の目に狂いはなかったわ!! 不要な心配だったわね!」
隣にいた青木も彼女の演奏を絶賛して感嘆の声を上げていた。「あんなの普通よ、そこまで褒めることじゃないわ」と言いそうになったが言えなかった。
事実、本当に音楽が上手い。私の歌唱力の何倍の上手さもあるし、ピアノなんて何をやっていたのか分からないほどに上手だった。
無様な姿を見に来たのに逆に私が滑稽なことを今までしてきていた。無様な方はどっちなのだろうか? 答えは火を見るよりも明らかで私の方だ。
「――ねぇ、エリザ?」
「…………ッ!? な、なに!?」
「これは確定でオーディション通るわよ。きっと、貴女と良いライバルになるわね!」
「え、えぇ! でも、私の方が上よ? 入ってきても実力の違いを見せてあげるわ……」
強気な言葉を放つがいつもの覇気は存在しなかった。当たり前だ。この子と実力勝負をしたら確実に負ける――彼女が経験者かどうかは分からないが、きっと何かしらの経験があるとは分かる。
あの歌はいったいどんな人生を歩んでくれば身に付くのだろうか? 私よりも年下なのになんで……っ!? このままじゃあ……私。
最悪な結果を頭の中で想像する。彼女がユニットに入って私のリーダーとしての立ち位置を揺るがす姿を――あの子に実力で負けてリーダー格を奪われてしまう私の姿を。
「……い、嫌よ。年下の子に負けるなんて……嫌よ」
気づけばそう口にしていた。私は俯いていた顔を上げてステージから優雅に去っていく彼女の姿を目に捉える。炎が宿った熱い視線でアイツを睨みつける。
――ここまで来たら意地でも負けられない……負けるもんですか。入って来ても私が負けるはずがない……どんな手を使っても勝ってやる。今だけよそんな表情ができるのは。
ギュッと拳に力をこめる。爪が手のひらに食い込んで痛かったが今の私にはそんなモノは感じられなかった。それほどこの時の私は怒りと悔しさで燃えていたのであった……
今回も読んでくださりありがとうございました。ブクマや評価などの応援も本当にありがとうございます。
お知らせですが、裏でまた違うファンタジーモノの作品をボチボチと執筆しています。まだ、内容は詳しく話せませんがTSFモノだけとは報告しておきます。そこそこの完成度に到達した時に発表と投稿を始めますので待っていてください。
次回もどうかよろしくお願いします!




