課題曲に対する懸念
事務所は一週間後の準備に大忙しだった。我らスターズプロダクションの新たな希望の星を探すためのこのオーディションは今までとは気合の入り方が根本的に違っていた。
個人情報の整理、オーディションステージの設営、そのための資金などの大量なお金が動く。おかげで朝から大忙しだ。プロデューサーである私も朝から手伝いで物凄く大変な目に遭っている。
「ふぅ……やっと休憩できる……」
ベンチに座って缶コーヒーを片手にぐったりと背もたれに体重を掛ける。
――思い出してみれば、日本人とのハーフの美少女を探す。文字にすれば簡単だが本当に探すのが大変だった。街中を探し回ってもなかなか出会えずに肩を落として帰る。そんな日々が続いた……
そんな時だった。スカウト期間がもう終わりそうなギリギリのころ。他のアイドルチームのライブを見に来ていたその帰りにとあるドイツ人のハーフ金髪の少女と奇跡的に出会った。
とても可愛らしくて今でもその姿が脳に焼き付いている。クリクリな大きな青い目。輝くような眩しい金髪。オーディションに受かったらおそらくそのルックスから大人気アイドルになれるだろう。
だが、一つだけ懸念すべきことがあるそれは――
「ちょっと、だらしないわね。シャキッとしなさいよ!」
「――ん、あー、エリザか……」
だらだらとしていることが彼女にとっては目障りだったのか攻撃的な表情で接してくる。厳しい彼女は「しっかりしなさい」と言いながら私のとなりに腰を下ろした。
「ダラダラと何を考えていたの?」
「ん、あのノアさんのこと……」
「あー、あのドイツの……なに? 青木さんもオーディション無理だと思ってるの?」
「――……そんなことない。って言ったら噓になる……」
「やっぱり……課題曲があれじゃあねぇ」
エリザがしかめっ面をしながらそう言った。
そう、それが私の唯一の懸念だった。他の事務員がたくさん可愛い子を捕まえてくる中で私がやっとのことで見つけたそのうちの一人。
だから、彼女には特別な深い思い入れがあったのだけど……課題曲の発表とともに絶望した。前のオーディションと同じぐらいの難易度だと思っていたのに内容はまったく逆だった。
パッと見は簡単――そこそこな難易度なものだが審査基準が本当に厳しいのだ。細かいところまで見ないと分からないことや作曲者がして欲しいことをよく考える必要がある。
経験者でも読み取れるかどうかの問題。果たして彼女は大丈夫なのだろうか……
「あぁ――ノアさんにはぜひ受かって欲しいんだけどなぁ」
「無理だよ。あんな難しいの、きっと今回は本当に上手な子を厳選する気みたいね」
「まさに容赦なしって内容だったからなぁ。世界を目指せるアイドルを探すって社長が本気になっていたし仕方ないか……」
私は残っていた缶コーヒーを全て飲み干した。
ご愛読ありがとうございました。たくさんの応援もとても感謝しています。
前回に書いたとおりに修正が完了しました。改稿もボチボチと初めて行こうと思います。次回からは本番編になりますのでどうか楽しみにしててください。




