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第14話 朝のシャワーはやっぱりいい……!


「――……んっ、ふあぁ……」


 太陽の光が目蓋を貫いて目に光が入ってくる。もう……朝か。なんだか長い夢を見ていた気がする。


 身体に掛かっていた布団をどけて上半身を起こす。ふと、となりを見ると黒髪の女性が寝息をたて眠っていた。


 そっか、そういえば昨日亜里沙と眠ったんだっけ。恋人時代に添い寝なんかよくやったし別に何も思わない。ただ……


 視線をストンと落として俺の体を見る。ネグリジェに身を包んだ女の子の体がそこにはあった。小ぶりのほのかに膨らんだ胸。白くて細いスッとした脚。


 ふむ、もう一度、眠って目を覚ましたけど女のまま。やっぱり元には戻らないか……まあ、病院で聞いた説明によると男には当分戻れないだろう。


 昨日の病院のことを思い出す。俺はもう完全にノアという女の子になってしまった。戸籍も全て姫川望愛という女の子という内容に書き換えられる。当然、ドイツの方もこの話を聞いて俺の電撃引退を了承。後日、あっちの方でマスコミの下で報道されるらしい。


 プロから降りて楽になったという気もあれば、女になって凄く不安だという気もある。でもまあ、どうせ女の子になったのならそれを受け止めて生きていくしかないか……アイドルをやるってのもその一つか。


 深くネガティブなことも考えていても仕方ない。ふあぁ、と大きなあくびをするとベッドから出て洗面台へと向かう。スリッパも何も履いていないのでペタペタと床を歩く音を立てる。


 移動中に窓に目をやるとまばゆい朝日が眩しかった。今日はどうやら雨は降りそうにない。二日連続で空には青空が広がりそうだ。


 晴れ晴れとする空を確認したあと、鏡の前まで移動して歯磨きを済ませる。シャカシャカと音を立てて歯を磨いていく。あー、眠い……朝は苦手なんだよ。


 鏡には歯ブラシを咥えてボサボサの頭をしている少女の姿が写った。青い目は半開きの目蓋によって半分隠れており、とても眠たそうな顔をしていた。髪の毛も爆発していてせり上がっている。


 ――なんか髪の毛がベタつくなぁ。ボサボサに爆発しているし……ん、時間もあるからついでにシャワーも浴びていこうかな。なんだかんだ昨日は体洗ってないし。うん、そうしよう。


 鏡のみっともない自分の姿にそう感想を抱くと、口のなかをゆすいだあとに脱衣所へと向かう。ネグリジェに手をかけて脱ぐ。すると、下着姿になり亜里沙に無理やり買わされたブラや可愛らしい下着も露わになる。


 アイツ、こんな女っぽいモノ買わせやがって……まあ、女性用下着にそんなこと言っても無駄なのは分かるけどさ。


 可愛らしい装飾が施された下着に手を掛けてあっという間に素っ裸になる。あ、そういえば今の自分の裸を鏡で見るのは初めてかもしれない。


 脱衣所にある大きな鏡を見る。うん、別に特に感想は抱かない――どうなろうと俺の体。ちょっぴり恥ずかしい気持ちもあるけど俺の体。うん、俺の体。


 情けないほどのっぺりとした体を見てると、やっぱり十三歳という謎の設定はあながち間違えではないかもな。


 胸は小さいし、体も小柄で華奢。発育は良くない……というか、これはもしかしたらまだしていないのでは? これからどんどんと発育していくのかぁ。


 自身の発育後の体を想像するがブンブンと頭を振る。何考えてんだ俺は――と、ツッコミを入れるとそのまま風呂場へと入る。浴槽も小さくて最低限なスペースしかないがシャワーを浴びるだけなら十分な広さだ。


 裸は寒いので蛇口を捻ってお湯を出す。心地よい温かさのお湯の雨が俺の体を包む。水に打たれて半分くらい動かなかった頭がやっと動きはじめてきた気がした。


 ……ふぅ、すっきりするな。今日は本格的にオーディションに向けて特訓か。あと、一週間。人に見せるからには本気でやらないとな……


 ベルリンでの想像を絶する練習を思い出す。ミスなど絶対に許されないプレッシャー。作曲者からのノルマは絶対。世界からは大注目。


 もちろん、アイドルだって一緒だ。音大の勉強はできるだけし直した方がいいな。亜里沙にも容赦ないように俺のパフォーマンスを審査してもらおう。


 そう思いながらシャンプーを頭につける。いつもの調子で指を立ててごしごしと洗って行こうとしたが……


「……イタッ?!」


 風呂場に少女の小さな悲鳴が響く。いてて……普通に洗っただけなのになんで? ……あ、そういや亜里沙が髪を洗うときは綺麗に一本ずつのように丁寧に洗うって……もしかしたら、優しくやらないとダメなのか?


 昨日していた雑談の内容を思い出し俺は一本一本丁寧に洗うやり方を実践する。先ほどのような痛みはない。だが、撫でるような感覚であり、あの頭皮を擦っていく気持ちよさはない。


 ……くそっ、俺は汗を引っ掻いて掻くように洗うことが好きだったのに。なんか満足しない。


 改めて男女の差を理解した俺は体も先ほどのように丁寧に洗っていく。汚れを浮かして洗う……そんな感じだ。女の子の肌って敏感なんだな。ふぅ、これからもたくさん学ぶことになりそうだ。


 首、胸、背中、お腹、太もも、お尻、脚――と、ゴシゴシと自身の体を拭いてどんどんと泡に包まれていく。甘い花のようないい匂いに全身が包まれた。


 ふぅ、一通り終わったかな。まあ、体が小さくなって洗う面積は減ったから楽でいいかな。でも、丁寧にやるから時間が掛かるからプラマイゼロか。


 ――えっとーあとは体に纏っている泡を洗い流すだけか。


 では、さっそく――と蛇口を捻ってお湯を再び出すと自分の体に振りかけていく。汚れを落とすときも丁寧な手つきで撫でるように洗う。全身に付いていた泡が汚れとともに流れ落ちていく。


「――ふぅ、終わった」


 ……よし、これで終了! さっぱりしたー!


 綺麗になってある程度眠気も飛んで元気になる。長い髪に付いた水気をある程度浴室で振り払ったあと脱衣所に戻る。


 鏡に写るびしょ濡れになった少女を尻目に引き出しからバスタオルを取り出して体を拭く。付着した水分を拭きとったあと再び下着と衣類に着替えて脱衣所を出る。


 お湯に当たったせいか先ほどまでは何も感じなかった朝の空気が涼しくて心地よい。シャワーのあとやお風呂のあとのこの感じいいよね――と、そんなことを考えていた時だった。


「ふふ、ターゲット発見♪」

「――へ?」

 ご愛読ありがとうございます。たくさんのブクマと評価もありがとうございました。感謝です。


 今回から本編に戻りました。オーディション編となります。これからどんどん面白くなると断言できます。


 なので、良ければブクマや評価。ぜひ、よろしくお願いします。それでは次回もどうか見てくださいね!

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