第13話 アイドルになってみようと思うんだ
「ノアさんがアイドルやりたいって言うなんてびっくりだよ」
「同じ舞台でもまったく違った景色がある――それが見たくてね……」
亜里沙のそんな声にそう返す。
グッと背伸びをしたあとにすっかりと暗くなった夜の街を見上げる。ドイツとはまた違った夜景が瞳に映る。日本に住んでいた自分にとってはこっちの方が馴染み深い。ドイツ人ってもやっぱり俺は心は日本人なのかもしれない。
俺たち二人の足音がコツコツと地面を叩く。
「でも、オーディションがあるよ?」
「まあ、厳しいだろうな。でも、俺はやるといったらやる」
「あら、随分な自信ね? 落ちて情けない姿見せないでよ?」
からかうようにそう言うと、彼女は口元に手を当てて「ふふっ」と笑みを浮かべる。どのぐらいの能力が求められるかなんて想像もつかないけど、頑張るしかないな……しばらくは練習の日々だな。
改めるように気を引き締め直す。ふわっと風が吹いて俺の金色の髪の毛が空を舞って揺れ動いた。
「まあ、お互いに忙しくなりそうだね……練習手伝ってあげようか?」
「助かるよ。亜里沙は俺にできないところができるから」
「お世辞はいいよー、音楽なんてノアさんの方が――」
「いいや、お前も俺に持ってないところがある。そんなこと言うなよ」
その言葉を聞いて表情を暗くする彼女。俺には亜里沙がなんでこんなに暗い顔をしたのか分からなかったが――
「ありがと、気持ちだけで十分だよ」
と、いつもの調子に戻った。さっきもあの着替えの時にも似た顔をしていたが、もしかしたら何かあるのか? よく分からない。聞いてもはぐらかされるしどうしようもない。
それにさっきのはお世辞とかそんなんじゃなくて本気で俺はそう言ったのだ。亜里沙は中学の吹奏楽部時からずっと一緒で先輩と後輩の関係だった。珍しく後輩の中でも先輩勢に食らいつくほどに上手で音楽の才能があった。
よく、部長の俺に教えてもらいに聞きに来てて俺もよく亜里沙と話した。放課後もあるいは何もない休みの土日も。気づけば周りから付き合ってる疑惑を立てられてた。よく、恥ずかしながら「違う!」って否定してたなぁ。
だが、その言葉が本当になる時が来た。それは高校二年の春の頃だった。音楽科の高校に入学できた俺は先生に実力不足だと叱られて第二音楽室で途方に暮れていた。そんなとき、中学の制服ではない高校の制服に身を包んだ亜里沙が目の前に現れた。
『泣いてるなんて先輩らしくないですね。ふふっ……元気出してください!』
そんな彼女の笑顔とは実に一年ぶりの再会だった。最初は幻かと思った。いくら亜里沙が音楽が上手いと言っても一般的な世界での話。俺のような何万も払いレッスン漬けにされていた人間ではなかった。実際に卒業時の彼女の音楽力ではこの高校に来るのは無理だった。
だが、亜里沙はほぼ独学で難関な音楽科の試験を突破して俺のことを追っかけてきたのだ。実際に聴いたら凄く上手になっていた。あの時の俺よりも。しかも俺とは違って独学なのに……
その事実を知った時、俺は亜里沙に――
「おーい! ノアさん聴いてる?」
「――ッ! ごめん! ボーっとしてた……」
「大丈夫? 目的の場所に着いたからさっそく行くよー?」
「も、目的……?」
俺がそう言うと前を見る。すると、そこには――女物の服屋の前だった……
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報告ですが、次は少し特殊な話を挟みたいと思います。短い文字数になるとは思いますがぜひ目を通してくれれば幸いです。
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