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第12話 スカウトされてしまったぜ★


「――……では、改めて自己紹介します。スターズプロダクションのプロデューサーの青木です」


 俺と亜里沙の方に名刺を突き出して自分の名を伝える。現在、先ほど銀髪の子が周りに掛けた迷惑を一通り他のお客さんに謝ったあと、俺たち二人は店を移動して彼女らに案内された喫茶へと赴き、青木さんからお茶をご馳走になっていた。


 こちら側は俺と亜里沙が座り、あっち側には青木さんを中心に両隣にあのヤンキーな銀髪少女と大人しそうな赤髪の女の子が座っている。亜里沙には先ほどのことを大雑把には伝えてある。


 ――まさか、本当にアイドルになりたいなぁ――と、思ってたらまさか本当にそうなってしまうとは。女になってすぐさまこんなことが起きるなんて本当になんて日だ。偶然という言葉では済まされないほどの運だぞ……


 ギュッと膝に置いてある両手に力を入れて、こみ上げてくる気持ちを押し殺す。ハーブティーを飲んでいた亜里沙がいつもとは違う俺の秘書としての業務的な態度で対応した。


「はい、お話はノアさんから伺っています。これはスカウト――と、いうことですか?」

「その通りです。我らの新たなプロジェクトに相応しいと思いましたので」


「プロジェクト? お詳しい話を聞かせてください」

「……私の身ではそこまで詳細なことは語れませんが、新アイドルチームを我らスターズから結成する企画が発足されました」


 青木さんは両隣に座っている二人をチラリと見た。そのまま彼女は話を続ける。


「この子らのような日本人と色んな国の人たちとのハーフ――そういう少女を集めてユニットを組んでデビューする。そんなプロジェクトです」

「そうですか。それでノアさんが適切な人材だと思って声かけた? そういうことですね」


「はい――それで、この二人はそのプロジェクトが発足する前からうちの事務所に所属してた子です……今は形式的だけですがこの二人だけで新チームを名乗っています……が、最終的にはスカウトした子と合流させて本格デビューする予定でございます」


 丁寧に説明を終えると真っすぐな眼差しで俺のことをガン見してくる青木さん。亜里沙はそんな獲物を狙うかのように見つめている彼女に対して厳しい目つきを向ける。


「では、こちらから質問ですが、あそこに偶然出会わせたのでしょうか?」

「はい、私たちは今日、駅近くのライブを手伝いに――見に来ていました。その帰りにとここに……」


「そうですか。それは凄い偶然ですね。本当は街の中ですでにノアさんのことに目星をつけていて、追ってきたと思ってましたよ?」

「――ッ」


 亜里沙の物申しに表情を歪める相手三人。最初はあまりにも失礼な態度で話していたので、止めようと思っていたが、彼女らの表情を見て俺は考えを止めた。


「――そこの銀髪の子。おそらくはロシア人や北欧あたりの人とのハーフの子だとは思いますが、先ほどノアさんになぜあそこまできつく当たっていたのでしょうか? 私は初対面との人間にあそこまで憎悪は抱かないと思うのですが?」


「そ、それは理由が……」


「おそらく何か憎むだけの理由が彼女にはあった。つまり、この子はノアさんのことをどこかしらで知っていた――そうなりませんか?」

「…………」


「やはりそうですか。私は貴女たちがノアさんのことを知っていて近づいて来たのにしか見えないのですよ。やっぱり何か悪い――」

「あ、亜里沙……! もう、その辺にしておけよ!」


 相手はとてつもなく困っているのに手を止めないで容赦をしない亜里沙に対して止めるように注意する。確かに、初対面のこの子があそこまで攻撃的なのは変なのは事実だ。


 店の中で偶然ばったり合うのも必然とも言い変えれる。でも、その考え方だと俺は女になったのは今朝だったのになんでこの子にそこまで恨まれるのかが説明できない。


 街の中で見かけただけなのに何かしらの理由で俺に憎悪を抱いた――? でも、それはそれでこの子がおかしいのは変わらないな。でも、どうやらつけていたということは事実みたいだ。彼らの表情が証明している。


 暗く落ち込んでうつ向いている三人。もう、ダメだ完全にスカウトに失敗した――そんな表情だ。なんだかさっきはあんなことされたけど同情しちゃうな。


 最悪な雰囲気になった中、俺は亜里沙に耳打ちする。


「……ほら、お前がいじめたせいで落ち込んでるじゃないか?」

「当たり前よ。ノアさんを悪いことに利用するためとかの考えだって――」


「そんなことあるわけないだろ? お前は警戒し過ぎだって」

「でも、ゼロとは言えないじゃん!」


「はいはい、分かった分かった。でも、あっちにもなんか事情があるみたいだし、つけてたことは許してやれよ? 銀髪の子にされたヤツは俺が個人的に許したからこれでチャラだろ?」

「う、う~ん、分かったわよ……でも、あんまり変な要求は飲まないからね? 分かった?」


 「うん」と小さな声で頷くと亜里沙は固めていた表情を緩めた。コイツはドイツ(あっち)でもアシスタントしていろいろ俺と相手の間に挟まって仲介役をばっかりしてきたからこんな話には敏感なんだろう。


 実際に相手側からの変な要求は少なくなかったみたいだしな。警戒し過ぎる気持ちも分からなくもない。「不当なものからノアさんを守るのが私の仕事です」って言ってたしなよく。


 となりに座っている亜里沙のことを見ながらそんなことを思い出す。体が小さくなったおかげかなんだか彼女が頼もしくも見えた。


 膠着していた話はやっとのことで動き出した。


「はい、では……分かりました。そちらの要件は分かりました。スカウトの件ですが考えさせてもらいます」

「――! い、いいんですか?」


「ノアさんとよく話してからですが」

「ほ、本当にありがとうございます!! では、オーディションの場所などの日程を……」


「お、オーディション? それってどういうことですか?」


 不意打ちを喰らったかのように亜里沙が声を上げる。オーディションかぁ、俺も音楽家になるときにやったなぁ。歌ったり自己PRだったり――でも、アイドルのオーディションって何するんだ?


 そんな俺の疑問に答えるかのように銀髪の子がずっと守っていた静寂を破った。


「面接と特技披露だけよ。あ、歌も少しあったわね……まっ、あなた以外にもたくさん候補者が居るからほぼ受からないと思うけどね」

「え、エリザ! そんなこと言わないの!」


「でも、そうでしょ? 見たところルックスはかなりだけど、全国から集まる猛者にこの子が勝ち抜けるとは私はあんまり思えないけど。私やサラみたいに昔からレッスンとかしてステージ慣れしてる子はともかくこの子も含めてオーディションに来る一般の子は緊張して発表どころじゃないでしょ?

 経験者にやられるのがオチだよー? まあ、それでも来るなら度胸に免じて応援ぐらいはしてあげるけどね」


 と、相変わらずの高飛車の態度でそう言い切った。このあと俺たちは日時や指定場所などについて聞くことになった――

 今回もご愛読ありがとうございました。たくさんのブクマや評価も本当にうれしいです! 毎度ながら感謝させていただきます。

 次回も良ければまた見てください。短いですかここで切らせてもらいます。それではまたよろしくお願いします。

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