瞳の中にある想い出
「ふふっ、可愛いい反応ありがとうございます……こんなノアさん新鮮だなぁ」
「や、やあッ!? やめてって! ふ、ふーっ! ――くく、はははっ! や、くすぐるなって!」
顔を赤らめて羞恥色に染まっているノアさん。結構そそる反応を見せてくれるじゃない。ふふ、可愛い……私は動かしていた手を止めると彼女の体から離れる。
変なスイッチが入ってしまった私はジーっと彼女の体を眺め続ける。
顔を紅潮させて睨めつけてくるが逆にその光景は彼女の今の容姿に合っている気がする。青い瞳を鋭くしてこちらを刺し、汗がじんわりと浮かび上がっている裸体を手で覆い隠す金髪少女。
文字だけでも相当な威力――それがあの元々はイケメンだった先輩が……あの屈強な肉体を持ち頼れる大きな背中。カッコ良くていつも皆を仕切っていた男。
でも、今ではそんな面影は何もない。ただ、私に対して怯えるか弱い少女。体も私よりも小さくて裸でこんな格好をしていると想像したら……変な気持ちになってきた。えへへ……
舐めるような視線を送っていると先輩が急に綺麗な髪を揺らしながら大きな声を出す。どうやら、私が変態さんの顔をしていることに気づいたようだ。
「お、おい……っ! やめろよ! 気持ち悪い!」
「ふふ、もともとは恋人同士だったじゃん――ねぇ、ノア先輩♪」
「な、なんで急に昔の呼び名に戻すんだよ!?」
「こんなに初心な反応されたら高校生の時のこと思い出しちゃうじゃん――まあ、立場は逆だったけどね。今の状況とは……懐かしいなぁ……あの頃」
私がそう言うと欲望に染め上げた両手を突き出しながら少女の裸に迫っていく。きっと、先輩にとっては変態ゾンビが襲い掛かってくるように見えただろう。彼女は急いで貰った洋服に袖を通しはじめる。
「――わっ、分かったよ! 素直に着ればいいんだろっ! このバカ!!」
「ふふふ……そんなので逃がすと思う? ねぇ、ちょっと遊ばない?」
「遊ぶかバカ変態! って、なんだよ急に!? 頭おかしくなったのかよ。お前!」
「先輩がエロ過ぎるのがいけないのよ。高校時代の第二音楽室の時みたいに――」
「あああああ! く、黒歴史やめろ! 話題に上げんなよ!」
「――ッ!?」
彼女には悪気はないのかもしれないが黒歴史という言葉が先輩から吐き出される。そっか、先輩にとっては黒歴史なのか。アレは……まあ、仕方ないよね。うん――
自嘲的な笑みを浮かべたあと、私はさっきまでの調子に戻る。
「ふふっ! いいじゃない、あの時はアツアツの両想いでお互いに――」
「い、嫌だから! もう、あんなのは嫌だからな!! 頭の中まで高校生に戻んな! 却下する!」
断固たる姿勢を見せて私の魔の手から部屋中をぐるぐると逃げながら洋服を着る。一度火が付いた先輩は物凄いスピードで着替え終えてしまう。なーんだ。つまんないの。
私は逃げているノアさんが落としていった女物下着を床から拾い上げる。シャツとかワンピは着たのにこれを落とすって……ダメじゃん。
「ノアさん、大事なもの落としてますよ」
「――ッ!? わ、分かった……ほ、ほら、早くくれよ……それ」
彼がそう言うと私はそれを手渡した。可愛い装飾が付いた白い下着。彼はそれを受け取ると足を通して膝、太ももと上げていき――ついにはワンピースのスカートの中へと吸い込まれていった。
「は、穿いたぞ……」
目を合わせないようにして恥ずかしさを押し殺した声でそういった。私の目の前には無事に白を基調としたワンピース金髪少女が出来上がっていた。
ひらひらの膝丈のスカートから伸びる真っ白な脚や綺麗なふにふにの腕に目が行く。青い瞳は落ち着かないのかゆらゆらと目が泳いでおり、まだ、若干だが頬は赤い色に染まっていた。
「似合ってますよ……先輩」
「う、うぅ……あのさ。さっきからなんで先輩呼びなんだ?」
ただ疑問に思ったからと言わんばかりの質問。私も最初は学生時代のネタを使っていじっただけだった。でも、今は違った意味で使っていた――
「気分的に――たまにも……そう言わせてくださいよ。先輩……」
太陽を背にして輝く少女に向かってそう言った。太陽が当たらない影のところで「先輩」と呟く私。自分の目にはさっきまでの楽しさや光はない。
瞳は恍惚とした色を宿しあの記憶を見ていた。頭の中……いや、心は完全にあの頃の――学生の時の想い出でいっぱいだった……
今回もありがとうございます。短いですが間奏はここまでです。基本的に視点が変わるものは短めで統一していきます。短めといってもこの章を全部読んでくださりありがとうございました。
次回からは元の視点に戻ります。そして、話はどんどんと動いていきます。
最後にですが、変わらずにたくさんのブクマや評価ありがとうございました。これからも励んで頑張っていきますのでどうかよろしくお願いします。




