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元カレだった少女


「ただいま~! ノアさん、買ってきましたよー!」


 大きな紙袋を持ってノアさんが住んでいるアパートの部屋へと舞い戻った。


 玄関には鍵がかかっておらず、そのまま中に入る。いつもは暇なときにはゲームをしている彼だったけど今日は妙に静かだった。


 買ってきたモノはスカートやTシャツ。女物のワンピースやホットパンツとたくさんの種類の服が入っている。調子に乗って買いすぎてしまったかな。


 でも、頭の中でいろいろ彼のことを着せ替えてみたけど――ふふっ、全部似合いそうだし可愛くなりそう。それにいつ男に戻れるか分からないしたくさんあってもいいだろう。


 これだけ買わないと換えもないので仕方がない。必要な出費だから仕方がない。うんうん仕方がない……ああ、どんな服を着せてあげようかな? うふふ……


 本当は荷物持ちに本当は連れていきたかったけど、ぶかぶかジャージの金髪少女を連れまわすわけにもいかないしなぁ。仕事もないのなら今日からは家事とかも手伝ってもらわないと。


 ――あっ、あのことも伝えないといけなかった。家事はそのあとでいいかな。


 そう思いながら扉をあけて中へと入る。相変わらず散らかった部屋……しばらくは日本に居ることになったのだからここも住めるように掃除しないと。


 適当な場所に衣服の入った袋を置いて彼が寝ているであろうベッドに向かう。すると、そこにはうつ伏せにスマホ片手に倒れている金髪の女の子の姿があった。


「お~い! ノアさん! 聴いてますか~?」

「…………」


「どうしたんですか?」

「――……ちょっと、カラオケパーティーをな」


「……は?」


 可愛らしいがどこか砂漠で遭難した人みたいな枯れた声で良く分からないことを言い出す。


 ――何かあったのかな? 特に部屋からは出たりはしてないみたいだけど……


 少し、心配になりながらも横たわっているノアさんを見つめる。彼は重そうな体をゆっくりと動かしてそのままベッドにちょこんと座る。俗に言う、女の子座りってやつ。


 青目の金髪の女の子がやるのだからその様子は非常に絵になった。へぇ~、ノアさんがそんな座り方をするなんて……私だってあんまりやらなかったのに。


「ん……どうしたんだ?」


 目を丸くしてボーっと見ているときょとんとした表情でそう尋ねてきた。


 あ、たぶん、自分がそんな座り方をしているなんて自覚していないんじゃあ……? 今までそんな座り方してなかったし。無意識ってヤツなのかな? 私は淡々と彼の質問に答える。


「あ、いえ、女の子座りしてるからどうしたのかなって思って」

「え? うわっ! マジだ……ッ!?」


 本当に無意識だったらしくて自分の体勢を見て驚いている。すぐに胡坐をかいて平然を装う彼だが慌てている姿がこれまた可愛らしい。改めてこれがノアさんだなんて信じられない。


 今は同性となってしまったけど上目遣いでこちらを見てくるその様子を目にするだけでドキッと鼓動が少し早くなる。


 男の時はイケメンで素材が良かったのか女になっても人を引き付ける容姿は健在だということだろう。ある意味、男の頃よりも強化されたかもしれない。


 私ではなくて数多の男を――ううん、男女問わずにその目をくぎ付けにしてしまいそうな見た目だ。


 ノアさんは抜けてるとこもあるからちゃんと女の子としての生活を教えてあげないと誘拐とかされそうで若干怖くも思えた。


「……? なんだお前、ボーっとして」

「――あ、あぁ、ごめん!! あの、買ってきたよ服!」


「ん、ありがとな。で、どんなの買ってきたんだ?」


 首をカクっと傾げてそう尋ねてくるノアさん。私は待っていましたと言わんばかりに何着か袋からワンピースなどを取り出す。とっておきの選んで厳選した私の一押し――!!


「じゃーん! どう? この服! 可愛いでしょ!!」

「……ん、まあ、そうだけど……俺、男だぞ?」


 彼に見せつけるように両手で広げた白色で大きなリボンが付いた可愛らしいワンピース。だが、イマイチ反応が悪い。頑張って選んだのに……ノアさんのバカ。口をぷくっと膨らます。


「……今は女の子だからよくなーい?」

「で、でも、心は男だから――」


「そんなの関係ない! とにかく似合うから着てみてよ!!」

「――っつ、もう、分かったよ……」


 そう言うと彼はベッドから出るとワンピースを受け取った。彼はしかめっ面を浮かべながら受け取った服をまじまじと見つめる。


「んー、まあ、とりあえず服、脱ぐよ」


 そう言うとぶかぶかのジャージを脱ぎ捨てていく。下着は身につけていないのかあっという間に素っ裸になる。


 あの体に合ってない大きめの服を着ていて気づかなかったけど、女性としてはかなり魅力的な体つきをしている。


 さっきは女になった驚きとかでじっくり見る暇はなかったけど、胸はちゃんと膨らんでるしお尻もふっくらとしていて健康的。


 肌も半分は白人だから雪のように綺麗だし、ノアさんのトレンドマークの金髪も輝いていてうっとりしてしまう。


 このまま成長していけばかなり魅力的な女の子になれると思う。てか、勝手に成長とか言ってるけどノアさんって若返ってるよね……たぶんだけど。


「おい、そんなにじろじろ見ないでくれよ……恥ずかしいだろ?」

「あっ、ごめん。つい、見とれてて……」


「そんなに魅力的かぁ? こんな体が……ねぇ」

「私は良いと思うよ? ……って、ん? ノアさん、ちょっと動かないでそこにずっと立っててくれませんか?」


「へ? う、うん、いいけど……」


 裸のまま気を付けの姿勢で立たせると、彼女の右の胸の膨らみの近くにある黒い点ーーほくろに目がいく。


 見覚えのあるほくろだ。昔から見たことあるからよく覚えている。彼の体の特徴ひとつだったはずだ。


「これ、前からあったほくろですよね?」

「ん、あー、あったあった。確かにそうだけど何かあったか?」


「ん、ほら、女の子の体になっちゃいましたけど、やっぱりノアさんの体なんだなって思って」

「……あっ! あー、そういうことね」


 何が言いたいのか理解したみたい。自分のほくろを見て難しかった問題がやっと解けたかのような納得した表情をしていた。


「完全に前の肉体がなくなったということではないみたいだな」

「不思議よねぇー、特徴は残しつつ体はちゃんと女の子になってるんだからなんだか魔法みたい」


「魔法って……まさかぁ」


 胡散臭いテレビ番組を見るかのような表情をする彼。私はノアさんの背後に回り込むと華奢な彼の背中に目を向ける。すっかりと小さくなった彼の背中だけどその見た目には見覚えがあった。


「体つきとかは見た感じはあんまり変わったところはないみたいだよ」

「いやいや、こんなに小さくなってるだろ?」


「ううん、そうじゃなくてさっきのほくろみたいな体の特徴ですよ――ほら、ノアさんの背中って骨付きが良くて綺麗な形してたからそれは変わってないのかなって」


 そういうと何も身に着けていないノアさんの背中を窓を拭くかのようにして撫でる。肌質とかは流石に変わってるね。女の子らしい柔らかくてすべすべとした触り心地だ。


「――んっ! ちょ、ちょっと! くすぐったいからやめてくれ!」


 顔を赤くして涙目になってこちらにそんな言葉を掛けてくる彼女。私はそんなノアさんを見てニヤリと口角を釣り上げた――……

 ご愛読ありがとうございます。前章から読んでくださった方は今回からもよろしくおねがいします。

 今回は別視点のお話になります。TSした男を別の視点から見るのって良くないと思いませんか? もちろん、戸惑う内情を描くのもいいですが、第三者から見るのも良いかなと私は思います。

 ここまで面白いと思った方はぜひ次も読んでいってください! それでは、今回もありがとうございました。

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