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Cosplay × Lover  作者: 緑茶わいん


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17/19

6/29(MON)-6/30(TUE)

☆☆☆☆☆

6/29(MON) 21:07

☆☆☆☆☆


「あんた、なんで告白断ってんのよ」

「だって」


 札木萌花――Mayは落ち込んでいた。

 閉店したばかりの『ファニードリーム』の事務所にて、ソファに腰かけ、クッションを抱きしめて、地の底まで落ち込まんという有様だった。

 向かいには店長と女性店員の二人。当然といえば当然だが、どちらも呆れ顔をしている。


 二人の視線も辛いが、もっと辛いのは約一時間前の出来事。

 付き合えないと告げた後の由貴の表情。


『ありがとうございました、すっきりしました』


 必死に笑顔を取り繕っていたが、今にも泣きだしそうな表情だった。

 好きな人に振られたのだ、そうもなるだろう。


「Mayさん、後輩君のこと好きなんですよね?」

「好きだけど、私は私と付き合って欲しいんだもん」

「Mayは札木萌花あんたでしょうが」

「そうだけど、違うの……!」


 萌花にとっては重要な問題だ。

 ただ、そのせいで由貴を落ち込ませることになった。


「羽丘君、今頃家で泣いてるんじゃない?」

「うう」

「かわいそー。好きだった人と両想いなのに振られたとか、普通ありえないですよ」

「わ、私だってちゃんと考えてるもん……!」


 二人がかりでちくちくやられ、萌花は思わず声を荒げた。

 店長達はそれを怒ったりはしなかったが、ジト目をじっと向けてくる。


「そこまで言うんだから告白するのよね?」

「……うん。ちゃんと告白する。私が、私から」

「言質取りましたからね。やっぱり止めた、はナシですよ」


 Mayにとっては親しい後輩で、この前のイベントでは一緒に撮影までしたレイヤーの彼女も、さすがに視線が厳しい。


「もたもたしてるなら私が後輩君もらいますから」

「するもん、ちゃんと……! するから、絶対駄目っ」


 由貴が告白してくれた。

 萌花にとっては何よりも嬉しい出来事だった。

 あの嬉しさと今の申し訳なさがあれば、告白くらいきっとできる。


「わかった」


 店長がため息をついて頷く。


「なら、ちょっとだけサポートしてあげる」

「……サポート?」

「どうせ羽丘君、明日バイトに来ても役に立たないだろうからね」


 さっさと告白しなさい、と言う親友に、萌花は頭を下げた。


「ごめんね。ありがとう」




★★★★★

6/29(MON) 21:31

★★★★★


 Mayは意気揚々と帰っていった。

 あの様子なら何かしらの結果は出すだろう。たぶん、きっと。おそらくは。


(羽丘君が頑張ったんだからね)


 約一か月前に会ったばかりの新人バイト。

 蓋を開けてみれば、Mayや萌花との因縁もあって随分と入れ込んでしまった。仕事の覚えもいいし、仕事熱心だし、あれ以上の子はなかなか見つからないだろうから、ここで辞められるのはちょっと困る。

 ちゃんと告白して立ち直らせて欲しいものだ。


(それにしても)


 Mayが告白を断ったのも驚いたが、それ以上に驚いたのは、


「……私が後輩君もらいますから、ねえ?」

「なんですか」


 わざとらしく言って顔を覗き込めば、彼女はぷいっと顔を逸らした。

 ちらりと見えた頬は赤い。


「Mayさんを焚きつけるために言っただけです。嘘に決まってるじゃないですか」

「ふうん。ならいいけど、ね」

「そうです。後輩君はからかうと面白いし、結構使えるし、それだけなんですから」

「長期的に見て戦力になるように育成中だしね」


 調子を合わせながら、店長は思った。


(本当になんとも思ってないなら、言い訳が多すぎるのよね)


 恋心というのは難儀なものだ。

 絶対に振り向いてくれない相手だろうと好きになる時は好きになるし、自分自身の一側面に嫉妬するようなことにさえなってしまう。


「本当に。さっさとくっついちゃいなさい」


 呟いて、彼女は羽丘由貴に一件のメッセージを送信した。




=====

6/30(TUE) 16:32

=====


 身体が重くて仕方ない。

 なんだかんだで睡眠は多少取れたみたいなんだけど、気力が不足しているのか、ちょっと動くだけのことが億劫で仕方なかった。

 ひどい顔してる、と、クラスの女子からも心配された。


「……帰って寝よう」


 バイトは休みだ。

 店長から昨夜メッセージが来ていたのだ。


『明日、野暮用で店は臨時休業です。仕事はないから来なくていいわ』


 まさかの戦力外通知。

 なんて、へこんだりはさすがにしない。多分、Mayさん本人から聞いて気を遣ってくれたんだ。俺が落ち込んでるんじゃないかって。

 ありがたい。

 まさに大絶賛落ち込みまくってる。


 ふらりと立ちあがって鞄を掴む。


 失恋ごときで仕事や学校を休むとか現実にはありえないと思ってたけど、うん、今日は休めば良かったかもしれない。

 まあでも、なんとか学校も終わったし――。


「羽丘くん」


 顔を上げる。

 教室の入り口に、札木先生が立っていた。


「今から、ちょっとだけ時間もらえないかな?」

「……はい」


 本当は今すぐ帰りたかったけど、札木先生のお願いじゃ断れない。

 できれば会わずに済ませたかった。

 こういう時に限って、いつもと違うことっていうのは起きるものだ。


 先生が俺を連れて行ったのは部室だった。

 中に入ると、先生は内側から鍵をかけた。二つしかない鍵は今、俺と先生が持ってるから、外からは誰も開けられない。

 でも、なんだろう。

 ゲームの整理とかだったら、別に部活中にやればいいと思うんだけど。


「部活の日以外に来るの、なんだか変な感じだね」


 言って窓際まで歩いていき、カーテンを閉める先生。


「先生。職員会議はどうしたんですか?」

「さぼっちゃった」


 振り返った先生は悪戯っぽく微笑んでいた。


「さぼった、って」

「ちゃんと『欠席します』って言ってきたんだよ? 大事な用があるからって」

「いや、それだって……」


 仮病みたいなものだ。

 俺に何の用か知らないけど、生徒の一人くらい待たせておけばいい。職員会議を休むほどの理由にはならない。

 先生にそんなアグレッシブなところがあったなんて知らなかった。

 じゃなくて、そんなこと、今はどうでもいい。


「俺は、何をしたらいいですか?」

「ううん。何もしなくていいよ」


 何を言っているのかわからなかった。

 未だ笑顔のままの先生を見て、からかわれているような気分になる。たぶん、出会ってから初めて、百パーセントの苛立ちから彼女を睨んだ。

 それでも札木先生の笑顔は変わらなかった。


「何もしなくていいの。ただ、私の話を聞いてください」

「………」


 意味はわからない。

 でも、からかわれてるんじゃないのはわかった。

 俺はその場に立ったまま、話の続きを待つ。

 先生の唇が動いて「ありがとう」と言葉を紡いだ。


「羽丘くんと会ってから、もう一年以上経つんだよね」

「……そうですね」


 先生と会ったのは偶然だった。


「掲示板の前で困ってた私に、羽丘くんが声をかけてくれたの」


 ポスターを手に途方に暮れている札木先生が何故か気になって、気づいたら声をかけていた。


「嬉しかった。手伝ってくれただけでも嬉しかったのに、羽丘くんは『テーブルゲーム研究会』に入りたいって言ってくれた」


 本当は部活に入るつもりなんてなかった。

 入学案内に書かれていた部活一覧は眺めたけど、特に入りたい部活がなかったから。運動はそんなに得意じゃないし、吹奏楽部とかのガチな文化部に入ると時間が取られすぎる。

 テーブルゲーム研究会の存在はあの時初めて知って、楽しそうな部活だと思った。

 ゲームは好きだったし、ボードゲームの類にも興味があった。


「誰も部員が入ってくれなかったら、私、きっと他の先生方に怒られてた」


 先生の顔が泣きそうに見えたのはそういうわけだったのか。


「神様っているのかもしれない、って思った。ううん。羽丘くんが神様に見えた」

「言いすぎです」


 俺はただ、面白そうな部に入っただけだ。

 まあ、入ってみたらちょっと、想像してたのとは違ったけど。


「三年生の子も幽霊部員だったから、大変だったよね」

「……全部手探りでしたもんね」


 あれはひどかった。

 ゲームの整理もされてないし、マニュアルが入ってたり入ってなかったりしたし、日本語だったり英語だったり、誤訳があったりもした。


「一緒に頑張ったんだよね」

「大変でしたけど、あれはあれで楽しかったですよ」

「そうだね。楽しかった」


 そう、楽しかった。

 先輩方が色んなゲームを教えてくれて、みんなでわいわい――みたいな楽しさはなかったけど、別の楽しさがそこにあった。

 一歩一歩、初心者と初心者が協力して進んでいく楽しさ。


「でも、楽しかったのはきっと、部員が羽丘くんだからなんだよ」

「顧問が札木先生だったからですよ」


 優しくて真面目で大人しいこの人が相手だったから、俺はゆったりとした楽しい時間を過ごせた。

 同じマニュアルを読みながら意見交換ができたし、勝った負けたで喜び合えた。


「違うよ。羽丘くんが優しくて、真っすぐで、全然怖くない子だったから、私は部活を続けてこれたの」

「そんなこと」


 思ってたのか。

 いつの間にか、俺は失恋のショックも忘れて、先生の話に聞き入っていた。

 それじゃあ、俺達はお互いに……。


「俺は札木先生のことを尊敬してます。先生に会えて良かったと思ってます」

「私は、羽丘くんに感謝してる。羽丘くんに会えたことが、私の生きてきた意味なんだって思うくらい」

「幾らなんでも大袈裟です」


 思わず声が上ずった。

 それじゃあまるで愛の告白だ。俺がしたことなんて大したことない。先生の人生で一番になるなんておこがましい。

 でも、先生は笑顔で首を振る。


「そんなことないよ。羽丘くんに会うまでの私は憶病で、卑屈で、行き止まりで立ち止まったまま震えてたの。でも、羽丘くんに会って、部活っていう楽しい時間ができて『頑張ろう』って少しは思えるようになった。新しい道が見えた気がしたの」

「俺は、先生のこと全然助けられてません」

「助けられてるよ。十分に。……ううん、これ以上ないくらいに」

「クラスの奴らが先生のこと馬鹿にしてても、止められないのに?」

「そんなの、どうでもいいよ」


 大人しくて引っ込み思案な先生が、周囲の評価をばっさりと切り捨てた。


「羽丘くんがいてくれることが、私の救いなの。この部活が私の楽しみなの。あなたのお陰で趣味にも張り合いが出た。こうやって、生まれて初めて、誰かに告白しようって思えた」

「え。……先生?」


 他に誰もいない部室で。

 外からは喧噪の響く、静かな部室で、札木萌花先生は、真っすぐに俺を見つめて言った。


「羽丘由貴くん。あなたのことが好きです。どうか、私の恋人になってください」


 それは。

 生まれて初めて受けた愛の告白だった。


 ――冗談、のわけがない。


 先生の顔は真っ赤で、よく見ると身体は震えてる。

 一生懸命に勇気を振り絞ったんだ。

 恋人。

 言われた言葉が、甘く、とろけるように、俺の胸を満たす。

 荒んだ心に染みこんでいく。


「……知りませんでした」

「言わなかったもん」


 俺の呟きに、優しい声が返ってくる。


「いつから、ですか?」

「たぶん、掲示板で声をかけてくれた時から」

「ほとんど一年じゃないですか」

「あっという間の一年だったよ」


 ああ。

 こんな俺でも、誰かに想われていたんだ。

 誰かの救いになれていたんだ。


「……ありがとうございます、先生」


 救われた気がした。

 俺こそ、札木先生に救われていた。


「すごく嬉しいです。……でも、すみません。それはできないんです」


 俺は。

 それでも、先生の告白を拒絶する。

 先生は動かなかった。

 身体を硬直させ、頬の紅潮を消しながらも、微笑みを消さなかった。


「どうしてか、聞いてもいい?」

「昨日、失恋したんです。先生以外の人に」

「……うん、知ってる」

「……え」


 知ってる? どうして?

 思わぬ言葉に混乱する。

 でも、そこは重要じゃない。


「なら、わかるでしょう? そんな簡単に忘れられません。きっと、少なくとも半年くらいは引きずります」

「それでもいい、って言ったら?」

「言いわけないじゃないですか! そんなことしたら、俺はきっと、先生をあの人の代わりにします! 先生と話しながら、あの人のことを思いだして泣いたりします!」

「いいよ、泣いても」

「っ。何言って……!」


 わけがわからない。

 いっぱいいっぱいのところに優しい言葉をかけられて、涙が溢れてくる。


「大丈夫だから。羽丘くんは悪くないよ。私が、全部悪いの」

「な、何言ってるんですか!」


 一歩ずつ近づいてくる先生。

 俺は一歩ずつ逃げながら、感情のままに喚く。


「好きなんです、Mayさんのこと! 今でも! 振られたのが辛くて仕方ないんです! 先生のことなんか、考えてる暇ないんです!」

「わかるよ。そうだよね。ごめんね。……私も、由貴くんにごめんなさいって言われて、その気持ちがわかったよ」

「な……っ!?」


 今、先生、名前で。

 その声が、言葉が、Mayさんと被って、どうしようもない強い衝動が湧きあがって、俺の心を無軌道に揺らした。

 発散しないと心が壊れてしまいそうなくらいに。


「な、なんで、先生が……っ!」

「それは、私がMayだから」

「は……?」


 何、言って。

 硬直した俺は、見た。見せられた。

 先生が眼鏡を外し、髪を縛っているヘアゴムを取り去る。

 すると当然、素顔になって、長い髪はストレートに――。


「ぁ……?」


 あった。

 記憶の中に、一致するイメージがあった。

 何百回、何千回と見てきた顔。

 ベースの顔が一緒なのだ。気づいてしまえば、なんで気づかなかったのかと言いたくなるくらいに当たり前のこと。


「May、さん?」

「うん。Mayは私のハンドルネーム。昨日、由貴くんを振ったのは私。私が、あなたに告白したかったから」


 ごめんなさい。

 そう言われた俺は、まさしく完全に言葉を失ってしまった。

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