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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第3章 お目見え
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奴隷の少女は公爵に拾われる 65

 しばらくツツィーリエと公爵は頭を寄せて自己紹介の文章を考えていた。モヌワはそれを見ながら退屈そうに外を見て、埃っぽい室内に空気を取り入れようとしまった窓を開ける。光を遮るレベルで曇っていた窓を開けると久々に入る光が室内を照らし、汚い室内の様子が余計に鮮明になった。モヌワはその足で玄関の扉を開けて風を通すと、少し熱っぽい風が室内の埃をかき回しデザインの下書きのなれの果てがかさかさと風の方向に動く。

(あぁ。腹減った)

 床に落ちていた何かよくわからない塊を扉の支えにして開け放しておくと、特に何をするでもなくデックの家の外に出る。遠目に頂に雪がわずかに残る山々の風景が見えた。舗装されていない土がむき出しになった道には朝よりも多くの人が行きかっている。牛に荷物をひかせた台車や、徒歩で歩く旅人、見ている間に一度だけ馬を駆って街の方に急ぐ使者もいた。見晴らしはよく、道の外には広大な畑が広がっているだけだ。

 とても、何かが隠れられるような場所ではない。

 モヌワは面倒そうに扉から見える範囲を詳細に確認する。が、壁の奇抜な色に目を見張り扉の前に仁王立ちになっている巨躯のモヌワを興味深そうな目で見る人が大半だ。

「朝から御苦労なこって」

 独り言をつぶやいてモヌワは扉を閉め、部屋の中の空気の埃っぽさがましになったことを鼻で確認すると曇ったガラス窓を閉めた。

「よぉし、とりあえず候補はこれでいいか」

「あぁ、後はぱっと縫って形を実際に合わせてから本縫いだな。とりあえず俺は公爵の衣装を作るからお前はおちびちゃんの方の奴作ってしまいな」

「一々指示だしてんじゃねぇ。んなことは言われなくてもわかってんだよ」

 部屋の奥で話し合っていたデックとムクラが罵倒しあいながら机の上で話し合っている公爵親子のほうに歩いてくる。

「お、いつの間に来てたんだ、おめぇ」「久々だね。礼服作った時以来か」

 横柄な口調でデックとムクラが公爵に話しかける。

「久しぶりかな、デック、ムクラ。ムクラはきれいになったね」

「だとしたらあんたは目が悪くなってんだ。こんなぼさぼさした大女におべんちゃら言ってないで自分の奥さん見つけてやることやって孕ませな。こんな小さい子に公爵なんてやらせてんじゃねぇよ」

「耳が痛い痛い」

 公爵はその言葉に苦笑する。

「おいムクラ。こいつは一応この国の一番偉い貴族の一人だぞ、そのきたねぇ口を慎みな」

「デック、それはそうと机の位置が昔と変わってないよ」

「動かさなけりゃそら変わってないだろ。馬鹿か」

 デックの粗野な言葉遣いに対してどうでもよさそうに肩をすくめる。

「で?私の分の服は何着くらい着ればいいのかな」

「おめぇの分はもう決まってる。俺自ら数年かけてデザインしてある程度流行に合わせて改変したパーティー用の衣装を組んでんだ。もう布と小物は用意してある程度出来てるから一日で終わるぜ」

「それ着ればいいのかな」

「あんたの体形が変わってなかったらな。まぁ、見たところ変わってない」

 デックが公爵を髭の奥から睨むように観察すると、数回頷く。

「多少あわせたりするけどな。着てから分かる問題点もある。それを修正するだけだ。あんたのは間に合う。問題はおちびちゃんの方だ」

 デックが僅かに視線を下げて椅子に座って赤い目でデックのほうを見ているツツィーリエを見た。

「お嬢ちゃんのはとりあえずある布で作るから布を取り寄せる必要はない。問題は候補の中から何するか決めて、それを調整するってところから始めるから時間が足りん。おれもあんたの終わったら手伝うが、やっぱり女物ってのは時間がかかる」

「あぁ?てめぇの手なんか借りなくても期日までに仕上げてやらぁ。こっちもプロだ。金さえもらえばちゃんと仕上げるさ」

「その分質が落ちたらいみねぇだろうが。おれが終わるのがいつになるかわからねぇが、明日の終わりからなら手伝える。パーティーまでに仕上げて、おちびちゃんが服に着られないように調整しねぇと」

「だったら口動かしてねぇでさっさと動けばいいじゃねぇか、小人野郎」

 ムクラがデックの手に持たれていた下書きのデザインをひったくると、机の上に広げる。

「うちにこんな机あったとはね。ごみ部屋もたまには役に立つ」

「普通はごみ部屋じゃなくてもこういう机の一つや二つはあるもんなんだよ」

「うるさい奴だね。公爵やるとうるさくなるもんなのかい?」

 ムクラがいらだたしげに公爵に噛みつく。

「さぁ?国富の公爵も私の父も、うるさいという評判は聞かないね」

「そうかい。まぁ、どうでもいい。うちの虫野郎に比べればみんな眠ってるナメクジみたいに静かだ」

「虫野郎ってのは俺のことか、トウヘンボク!」

「あんた以外の誰がいるってんだよ、この毛むくじゃらのごみ虫野郎!」

 と、言い争いが始まっている間にツツィーリエが机の上に広げられたデザインの候補を見つめていた。

「ん?お、そうだ。とりあえず時間ないから3つに絞った。この中から選びな」

 ツツィーリエはムクラのほうに手を動かそうとしてやめ、先程まで自己紹介の文章を考えていた紙に文字を書く。

『色は?』

「なんだ?喋らないのか。不便だね。まぁ、いいや。色はだね」

 ムクラが棚から取り出したインクを一瞬で混ぜ合わせると、3つのデザインにさらさらと書き込んでいく。

「こんな感じにする予定だ。あんたの目と肌と髪の色に合わせてるから、たいてい同じ色の構成になるけど、黒は多用しないことに決めてる」

 ツツィーリエが首をかしげる。ツツィーリエの黒い髪が肩から流れて机の上にかかった。

「いったん黒着ちまうと他の色が着にくくなっちまうんだ。あんたはまだ若いし、黒い服なんか後でいくらでも着れる。年を追うごとに黒が似合う女になりそうだしね、あんたは。黒い髪に赤い目なんて黒い服を着てくれって言ってるような感じでもったいない。」

 ムクラがさらさらと艶のあるツツィーリエの髪を少し羨ましそうに撫でる。

「あんたみたいな髪なら私もなんかほかの仕事してた気がするよ」

「てめぇがほかの仕事なんかしてるわけねぇだろ。その母ちゃんからもらった茶色い髪になんか文句あるのか!」

「黙って自分の作業してろ、ぼけ!」




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