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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第3章 お目見え
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奴隷の少女は公爵に拾われる 64

「じゃあ私は公爵邸に戻りますからね。何かご飯取ってきます」

 マーサはパンを一つ食べ終えると席を立つ。椅子の脚が薄暗い床から埃を舞い上げるのを見てマーサが顔をしかめる。

「あぁ、お願いするよ」

 公爵は周囲の汚さをほとんど気に留めずもそもそと小さめのパンを半分ほど食べながら手を振る。

「では私も。公爵さまの仕事を少しだけでも片づけてまいります。こちらに代金を置いておきますよ。くれぐれも値切ったりなさらないように。もし足りないようでしたら私が用立てますので」

 ラトも脚についた埃を軽く払ってからマーサに合わせて立ち上がった。

「どうしても私とツィルは残らないとだめかい?デックたちが考えた奴を無条件に着るつもりだし」

「万が一サイズが合わなかったらどうするんですか。大惨事ですよ。どちらが大事だとお思いですか」

「そりゃ仕事のほうが」

 マーサとラトは公爵のほうにズイっと近寄る。

「公爵さま不在の不都合をしばらく何とかできるからこそ私を雇っておいでなのでしょ?」

「そりゃそうだけど」

「でしたら安心してください」

「それにお嬢様の晴れの舞台なんですよ?父親としてはきれいな娘を見たいでしょ」

「いつもきれいじゃない?」

「否定しませんが晴れ着を着た女性と普段着を着た女性とでは美しさの方向性が違うものなんです。奥方様をとられていない公爵さまがこの問題に関して私たちに口答えするなんて100年早いですよ」

 それだけ言われるともう公爵から言えることは何もなくなった。お手上げといった表情で肩をすくめる。

「耳が痛い。まぁ大人しく従うよ」

「お嬢様も、諦めて数日ここで大人しく着せ替え人形になってください」

 ツツィーリエは一瞬だけ公爵と目を合わせて、おとなしくうなづいた。

「よろしい」

「私はどうしたらいいんだ?」

 モヌワは自分は蚊帳の外とリラックスした表情で1つのパンをゆっくり食べているが、ふと気づいたようにマーサに話しかけた。

「モヌワはお嬢様の護衛官だから、制服でいいでしょ。特注してサイズもあるでしょ」

「あぁ、持ってる。良かった、何か着ていくんだったら本気で甲冑をどこかから調達してこようと思ってたんだ」

「モヌワのサイズに合わせた甲冑は私たちの服よりも調達するのが難しいよ」

「鎖帷子とか、何か戦えそうな恰好ならいいんだ。そういう服なら大抵似合うから」

「鎖帷子なんてひどい匂いのする格好でパーティーに出るつもり?」

 マーサが目を尖らせてモヌワを睨む。

「い、いや、冗談だ冗談。それに護衛官の支給された制服で良いんだろ?じゃあ大丈夫だ」

「………まぁいいわ。パーティーに関してはモヌワには護衛以上の役割は期待してないし」

「ひどい言い草だな」

「あなたの私服のセンスを見てればたいていの人がそういう風に言うのよ」

「私の国ではああいうのが流行ってるんだ」

「皮の脛当てに人をなぐり殺せそうな金属の腕輪が?流行ってる?何も知らないと思って適当なこと言うんじゃないの」

「すいません」

 マーサが眉を上げてモヌワの額に指を寄せる。モヌワはマーサに眉間を指でぐりぐりされながらくすぐったそうに笑った。

「じゃあ、帰りますからねすぐに戻ってきますから」

 マーサとラトはいまだに白熱した議論を続けているデックとムクラのほうを見てから、念押しするように公爵とツツィーリエを見てデックの家を足早に後にした。

 しばらく、ツツィーリエは袋の中にあるパンを全部食べ終えて、公爵の食べきれなかったパンの残りをもらってすぐに食べてしまうまで3人の間に特に会話はなかった。

 公爵はツツィーリエがパンを食べ終えるのを見計らって口を開いた。

「ツィル。確かに衣装も大事だ。それについてはほかの人に任せるとして」

 公爵がツィルの唇の端についたパンのかすを指で取る。

「パーティーの時にツィル自身に自己紹介をしてほしいんだ」

 公爵がとったパンくずをツツィーリエが口で直接食べる。

「筆談でか?それとも誰か別の人が原稿を読むのか?」

「それでもいいんだけど、少し考えてることがある」 

 公爵が隣に座るツツィーリエを手招きして顔を寄せさせると、その耳に耳打ちした。ツツィーリエは耳打ちされながら数回うなづいて、最後に公爵の方を向いてうなづいた。

「できそうかい?」

『練習しないと。あと何喋るか決めないとだめね』

「時間ならあるさ」

 公爵がそこら辺に落ちていたくすんだ下書き用の紙と、転がっているインク瓶に指を向け机の上に招きよせる。

「とりあえず演説とかそういうのは私でもできるから。とりあえずどんなことを書くか考えて御覧」

 ツツィーリエは頷いて、近くに落ちていたペンを拾い上げて紙にペン先を当て、しばらく考え始めた。

「なにさせるつもりなんだ?」

「内緒。本番を見て、しっかりラトとマーサに伝えてあげて」

「ラトさんもマーサさんもパーティー行かないのか?」

「まぁね。連れて行ってもいいけど、マーサは結婚する時にもうそういうパーティーとかには参加しないってはっきり言ってたし、ラトは私の不在中に何か問題が起きた時に対処してもらわないといけないから。ラト自身もそれはよくわかってるさ」

「残念だな」

「ここでちゃんと目に焼き付けてもらうよ。どうせこの数日で一生分服を脱いだり着たりするだろうし」

 公爵はうんざりしたようにため息をついた。


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