041-闇を切り裂く力……!
「宇宙はバランスのみだ―――。そこに深さとしてのリズムがある―――。空間が速度を持つのであって―――。光が速度を持つのではない―――。物質は光を目指し―――。光は物質を生み続ける―――。生命も宇宙も、全体として持続している―――。存在とは直感の代名詞である―――。言語は波動の定着である―――!」
「……こわぁ……」
「破ァーッ! 開眼!」
「……こわぁあ……」
……この野蛮Hi-Λ'sナノカと違い、卒園の経験を持つ一流Hi-Λ'sのみが扱うことの出来る詠唱を用い、自らに潜在するラムダ・パワーを俺は解放し、周囲の闇を睨み付ける。
瞬間……! 俺の視界は明るく開け―――闇に包まれていたこの地の真の姿を目にする……!
どこまでも続く、薄く張られた水とその下に群生する青白い花々によって作り上げられた花園……よくあるウユニ塩湖空間と精神お花畑謎空間を足して二で割ることを忘れたかのような幻想的光景が……!
…………。
……。
えっ……通じてる……俺のラムダ・パワー……なにそれこわ……。
「……………………」
「……どう? ……見えた? ……お電波受信できた?」
「マジで見えてて引いている」
「……は? ……マジ? ……エスパーWL最強かよ。……今度なんか番組組んでもらおうかな。……ダメか。……オタクくん発狂しちゃうか」
ダメで元々、やけくそでやってみたことだったが……な、なんということだ……『ラムダ・ガーデン』は本当にHi-Λ'sを育成することが出来るゲームだったというのか……!?
……というか、今ナノカは『番組』だとか言ったか……? それに、エスパーWLと接触が取れるようなことも……。
まさかこの少女、『血の女神』であり『Hi-Λ's』の上で芸能界にも携わってるのか……? どれだけ属性を盛るつもりなんだ……。
「……まあいいや。……街まで連れていって。……それじゃあ。……ここ離れたい。……とりあえず」
もはやニンニクマシマシチーズぶっ掛けハンバーグカツ丼パフェのような状態になってきたナノカに戦々恐々としていると、そのナノカから『街』まで案内するように頼まれた。
……ここが神星骸なのかどうかは祭壇を通ってないことを踏まえると微妙なところだが、とはいえ辺りを見回せばきちんと作り込まれており、決してプレイヤーが辿り着くことを想定していない場所とは考えられないため、まあ、リスポーンポイントぐらいはあるだろう。
「俺も初見だからな。探索しながら探す形にはなるが、やってみよう」
「……お願いね。……戦闘も。……マジでなんも見えない」
「戦闘か。普通にしていたらあれだけ暗いんだ。こんなエリアに敵を配置するとは思えないが……」
とはいえ用心するに越したことはないため、周囲に気を配りつつ……、水面下に咲き誇る花々が少なく、道のようになっている箇所を辿って進む。
……一応、他の神星骸のようにマップを開けば重要な拠点が載っているかと思って確かめたが、わざわざ視界を奪うようなエリアにしているのだから、そんなわけは当然なかった。
故に、こうして眼前に広がる道らしきものを辿るしかないのだが―――これすらも、俺がHi-Λ'sとしての力を持っていなければ歩めなかった道筋なのかと思うと、製作陣がこのエリアを攻略させる気があるのか甚だ疑問だな。
…………。
……。
いや……本当に俺はHi-Λ'sなのか……? もう事実として効果が出ているから納得してしまっていたが……冷静に考えれば、あんなク……マニアクス一本トロコンしたところで妙な力など発現するものだろうか?
……でも、よくよく考えたら俺が10Fで反応出来るのは……特殊能力といえば特殊能力なのでは……?
なんということだ……俺はそもそも『ラムダ・ガーデン』をトロコンする前よりもHi-Λ'sだったのか……!?
そしてその俺のHi-Λ'sとしての能力が『ラムダ・ガーデン』で拡張されていたと……!?
つ、つまり……エスパーWLは本物だった……!?
「よし。到着したぞ」
「……そうなの? ……全然わかんないけど」
エスパーWLの力が本物だったという衝撃的な事実に改めて気付き、もしかして『ラムダ・ガーデン』はマニアクスでもなんでもなく神ゲーなのではないだろうか、と俺が考え始める頃……プレイヤーは当然ながらNPCすらひとりもいない街に俺達は辿り着いた。
しかし、どうやら街に辿り着いたとしてもこのエリアを包む闇は晴れないようであり、相変わらずナノカは眩しそうに顔を隠し続けている。
……なんなんだ、このエリアは……真っ当なプレイヤーの視界は闇に包まれ、そもそも入り方が分からず、そうではないナノカのようなプレイヤーですら視界を奪われ……いったい誰が攻略できると……。
…………。
……。
俺か……。
……つまり、エスパーWLの教えを知った者のみが攻略できるエリアだと……?




