037-ナノカチャン
突如、俺の前に現れた謎のプレイヤー―――ナノカ。
問答無用で人の足元に謎の光波を放って威嚇射撃をしてきたり、大丈夫? おっぱい揉む? とか言い出す程度には常識外れな思考回路をしている彼女が、『従わなければ殺す』と前置きしてまで要求してきたこと……。
それは―――。
「……『巻甲の神星骸』。……その奥地にもある。……『崖下の祭壇』的なところ。……道案内を頼みたい。……きみには」
―――『渦虫の祭壇』こと『崖下の祭壇』の同類である場所への道案内。
『渦虫の街』にてリスポーンポイントだけは更新させてもらえたものの―――一度リスポーンポイントを記録した場所はファストトラベルで訪れられるようになるため―――、即座に折角来た『渦虫の街』から『溶虫の街』まで飛ばした挙句、微塵も興味のない『巻甲の神星骸』なんぞに連れてきたパーティーメンバー……ことナノカは、相変わらず俺の背に手の平を向けて突き付けながら道中に自らの目的をそう語った。
そして、それは……なんとも奇妙な話だろう。
「……どういうことだ? お前も」
「……ナノカちゃんね。……『お前』じゃない」
なにせナノカは『渦虫の街』に居たのだから、既に『崖下の祭壇』へ向かう道のようなルートであっても進むことが出来る技能を持つプレイヤーであるはずであり……そうであれば、わざわざ俺に『巻甲の神星骸』の奥地にあるという祭壇への道案内をさせずとも、自分で道を切り開けるはずで―――まあ、可能性としては『崖下の祭壇』へ向かう道中よりもパルクールが難しい、というのもあるだろうが―――滅多に人が来ないであろうこんな場所で誰かを待ち伏せるのは不自然だ。
…………。
……。
という、何らかの謎を感じさせる話になってきたところだったのだが、なんだか物凄くしょうもないところで会話をぶった切られた。
「勘弁しろ。お前と友達になったつもりは」
「……ナノカちゃんね」
「……………………」
なんでこの女は銃で俺のことを脅してきながら名前で呼ぶよう迫ってきてるんだ、という至極真っ当な感想を抱きつつ、そんな親し気に呼ぶつもりはないと言ってやった……いや、言おうとしたところ、そんな俺の言葉を遮るようにナノカは再び俺の足元へ光波をぶっ放して脅して来た。
…………。
……。
……こ、この人怖い……。
「……分かった。ナノカ、そもそも」
「……ちゃん付けしろよデコ助野郎。……彼氏気取り? ……驕るなよ。……おっぱい揉める権利得た程度で」
「……………………」
まあもう殺されるぐらいなら名前で呼ぶか……と観念したところ、恐ろしいことにこのナノカというプレイヤー、『自分にはお前じゃなくて、ナノカっていう立派な名前があるからそれで呼べ』という割と理解できる範疇のことを言っていたのではなくて『テメェはナノカちゃんより格下のザコなんだからナノカちゃんって畏怖と敬意を込めて呼べや劣等が』と言っていたらしく、再び俺の足元はナノカの手の平から放たれた光波でぶっ飛ばされた。
…………。
……。
ふぇえ……。




