035-許してくれと言われましても。
「も、もう……許してくれ……コール……」
流石に『行き方は不明』と大々的に攻略wikiに書かれていただけあって、プレイヤーの姿がひとつとて見えない街―――『渦虫の神星骸』における拠点……『渦虫の街』の入り口を示す門を超えて三歩程の地点で、うつ伏せに倒れながら俺はコールオディに救いを求めた。
なぜなら、そう―――この場所に辿り着くまでの道中……『渦虫の祭壇』を通って『渦虫の神星骸』に到達し、そこからこの『渦虫の街』に辿り着くまでの道中……コールオディはあろうことか、目についたモンスター全てに遠距離攻撃を仕掛けてアクティブにし、その上でそれらの対処を全て俺にやらせるという……状況が状況であれば迷惑プレイヤーとして普通に通報して問題無いレベルの行いをし続けたのだ。
そして当たり前なのだが『渦虫の祭壇』で相手取った『守護者』がそうであったように、道中俺達……いや、俺に襲い掛かってきたモンスター達はどれもこれも異常なまでにレベルが高くなっており、それら全てを対処しながら進む道すがらは……まさに地獄の道中でしかなく、今、俺は完全に疲労困憊だった。
「サントゥくん……」
「コール……」
だが、仕方はない……なにせ俺はコールオディの下着を情欲に負けて見まくってしまっており、あの地獄をコールオディが生み出したことを咎められるような立場にない……。
とはいえ、コールオディも俺のこのズタボロな姿を見て満足したのだろう。
俺の許しを乞う声に対し、コールオディは優し気な声で俺の名前を呼んでみせ―――。
「もう少し苦しんで欲しかったんですけれど。流石ですね」
「……………………」
―――思わずそちらを見たら、絶対に満足していなさそうな雰囲気のコールオディが明らかに俺を気遣うような笑顔を浮かべていた。
……大分苦しんだとは思うんだが、まだ足りないというのか。
いや、確かに一度もデスはしなかったんだが……なに? この子は俺に死んでほしいのか?
「……これで足りないなら、そうだな。少し見直したほうが……」
親しき友人だと思っていた少女に自らの死を願われているという現状に対する悲しみのあまり、捨てられた飼い犬のような顔して無言で見上げていたら(ちなみにフルフェイスの兜を装着しているので俺の表情は彼女からは伺えないことだろう)、コールオディは俺から視線を外してなにかをブツブツと言い始めた。
なんのことを言っているのかはまるで察することが出来ないが……だが、俺を殺すための何かしらを思案していることは容易に察せてしまい、俺は更なる悲しみに襲われる。
な、なんで……なんでそんなに俺を殺そうとするんだ……コールオディ……いや、金奈……俺にいったいなんの恨みが……。
…………。
……。
別にないかぁ、単純に仲良い友達が苦しんでるのが見たいという純粋な欲求の他にはなにも。
なんて厄介なんだ、この女。
「とりあえず、ですが。その様子では、今日はこれ以上行動を共にするのは厳しいでしょうし……、こちらもこちらで先程の視覚データの編集や、攻略記事の作成もしたいので。わたくしは、これで失礼しようかと思うのですが」
「……そうだな。俺も、特に深い理由はないが猛烈に自己鍛錬に励みたいし、丁度いい頃合いだろう」
「いいですよ。別にそのままでいてくれて」
「断る」
だが俺とてただで苦しめられる腑抜けではない……俺は『葬儀屋』、いくつものマニアクスを葬送ってきた実績と自負がある。
故に、ここまで露骨に殺意を向けられてしまえば、それには全力で抗いたくなってくるのだ。
いや、冷静に考えたら殺されそうになったら抗うのは普通だが……。
ともかく、地面に倒れたまま即答した俺に対し、むぅ、なんて言いながら少しばかり頬を膨らませた顔を見せた後にログアウトしていったコールオディを見送り、俺は立ち上がった。
……恐らく、俺に残された猶予はあまり無いだろう。
攻略wikiを参考にして、すぐにでも最低限手に入れるべきである汎用的な星痕や、入手可能な星遺物……優秀なクラフト装備等々を集める必要がある―――。
「……動かないで。……両手を上げて。……大人しくして」
「……………………」
―――そう意気込んで立ち上がった瞬間、俺は突如現れた謎の少女に広げた手の平を向けられ、さながら銃を突き付けられた現行犯の如く全ての動作を停止するよう強いられた。
……なんだ、急になんなんだ……! 人が今から本腰入れてゲームの攻略をしようと思った矢先に……!




