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034-安いもんだ、ケジメぐらい。

 ……そうだな、この話題は長く続けるだけ俺が窮地に陥る毒沼みたいな話題なのだし、さっさと視覚データの確認を終わらせてなにか別の話題に―――。


「しかし、まあ。わたくしのこんな脚、見ても面白くないでしょう……に…………」

「あっいや違くてなあのな」


 ―――というわけで、可能な限りコールオディに視覚データの再生を急がせよう……とか考え始めたと同時、俺はそもそも更に彼女に知られたらまずいシーンが後に控えていたことを思い出し―――そして丁度その瞬間にコールオディも……あの、『まずいシーン』を見てしまったようで、彼女は再び口を噤んで、静かに俺の顔を見上げてきた。

 …………。

 ……。

 ああ、そうだ。

 『まずいシーン』とは俺が空に宇宙を見た―――いや、もう言ってしまえば降りてくるコールオディに指示を出すために上見てたら普通にめっちゃパンツ見えてたシーンだ。

 だが……不可抗力だから……仕方が無かったから……命とパンツなら命を取るのが普通だから……。


「……えっちですね」

「すまなかった」


 とはいえ仕方がないのを言い訳に普通に見ていたのは事実だった為、俺は再びコールオディへと深く頭を下げた。

 不可抗力であっても、仕方が無かったとしても。

 セクハラはセクハラ、これは昔からの揺るぎない事実であり……ここで俺が取れる行動は、彼女が気が済むまで頭を下げ続けることだけなのだから。


「ですが、まあ。そうですね。変に誤解されても嫌なので、顔を上げてください」

「……ああ。…………ッ!? 待て、急にどうした、なんだ……!?」


 だが、頭を下げた程度で許される程度のことではない気もするし、これはケジメ案件だろうな……と俺は思っていたのだが、コールオディは驚くことに大した時間も置かずに下がっていた俺の頭を上げさせ―――更に驚くことに、続けて自らの装備……ミリタリー調な意匠が特徴的なその防具の、前面を止めているボタン達をひとつ、ひとつと外し……全てを外し終えると、続いてスカート部分を持ち上げ―――。


「星遺物【深き脈動】。使用者が用いる魔法攻撃に『深淵』の属性を付与し……というは、まあ、どうでもいいとして。これ、レオタード型のインナーなんです。スクール水着みたいなものですね。だから、その。申し訳ないんですけど、ぱんつではないんです」

「……………………」


 ―――あろうことか、俺が見てしまったと思ったものは下着でもなんでもなく、レオタード型インナータイプ星遺物の一部だから気にしないでくれ、だとか言い始めた。

 真顔で。

 なんなら少し申し訳なさそうにして。


「…………ハァーーーーーー…………」


 そんなコールオディを見て、俺は思わず頭を抱えながら窒息しかねないほど深い溜め息を吐き……思わず空を見上げた。

 こんな……こんなことがあっていいのか? 嘘だろう? この時代に……パンツじゃないから恥ずかしくないもん、だと?

 有り得るのか、そんなことが……。


「なにも、そこまで落ち込まなくても」

「……違う、違うんだ。コール……」


 だが、そんな俺の様子がパンツを見れなくて落ち込んだように見えたらしいコールオディは少しばかり驚いたような様子を見せ……俺はもう、意を決して未だにレオタード型インナーを見せてきているコールオディの両肩を掴んだ。


「違う、とは?」

「例えパンツじゃなかったとしても、パンツに見えたらもう、男はそれをパンツだと認識するんだ。だから、パンツっぽいものをパンツじゃないから見せてもいい、という理論は成立しない。覚えておいてくれ。そして、以後気を付けてくれ」


 そして、今後の彼女の健やかな人生のために、お前が思っているよりも男という生物は馬鹿でどうしようもないんだと、強く言い聞かせた。

 もしかすれば幻滅されるかもしれないが……だとしても、このことを伝えないわけにはいかなかった……。


「……ええと、はい。わかりました……?」


 ……まあ、その表情を見る限りあまり伝わってはいないようだったのだが―――。


「ということは。サントゥくんは、結論から言えばわたくしのぱんつを見まくったわけですね」


 ―――いや伝わっていた。

 どうやら怪訝そうな表情を浮かべていたのは俺の言いたいことを理解した上で、結果として俺がなにを仕出かしたのを算出しなおそうとしていたからだったらしい。

 …………。

 ……。

 いや、あの。


「別に見まくるというほどでは」

「へえ」

「見まくっていたかもしれない」


 とはいえ見まくっていたと言われてしまうと、まるで上空を飛び交うコールオディを下から舐めるように見上げていたかのように聞こえてしまうので、訂正をしようと思ったのだが、残念なことに普通に俺は上空を飛び交うコールオディを下から舐めるように見上げてしまっていたので素直に自らの非を認めることにした。

 ……もう、犯した罪は決して消えることがないのだからな。


「でしたら、世間一般的な感覚で考えますと。サントゥくんは……わたくしに誠意を見せる必要がありますね?」

「はい……」

「……ふふふ」


 罪を背負い、贖う決心を俺が固め……とりあえず、コールオディが満足するまでは彼女の言うこと為すこと全てに首肯で返そうと決めたところで、そんな俺の考えを察したらしいコールオディが妖しげな笑みを浮かべる。

 それはそれはもう、なんとも楽しそうな笑みを浮かべたんだ……。

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