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032-サンキュー、PPB。

 『大盾』、という武器カテゴリ……これで防御すれば回避がいらんだろう、ということで俺が初期装備のひとつとして選択したそれだが。

 どうにも世間的には『弱カテゴリ』扱いらしい。

 というのも先程の俺がそうであったように、強力な敵の攻撃を真正面から受けた場合は平然と防御を貫通されてしまうのだ。

 勿論これは、『大盾』より小さい『中盾』、それより更に小さい『小盾』でも変わらない仕様ではある……だが、問題なのは防御を貫通される攻撃に関してもみっつそれぞれで〝変わらない〟というところだ。

 ようは『小盾』で受けられない攻撃は『中盾』でも『大盾』でも受けられないわけで。

 であれば一番軽い『小盾』……ないし、『小盾』よりは見た目通り防御判定が広い『中盾』で良くないか? となり、【減重】を付けたとしても気になる程度には重さがある『大盾』は選択肢から外れるのが当然だろう。

 じゃあ、俺は『大盾』を選んだことを後悔しているのか? と言われれば―――全くそんなことはない。

 この『盾』というカテゴリに対して俺はひとつの推測を立てており、それが正しいのだとすれば……きっと、この『大盾』という武器カテゴリは強力なもので違いないのだから。


「まあ、いい。もう一回行ってくる」

「そうですか。回復してあげますから、どうぞ頑張ってください」


 俺が『盾』に関して立てた推測……『レベル14』である『守護者』の攻撃を真っ当に受けられなかったことで確信に変わりつつあるそれを確かめるべく俺は、なんとも楽しそうな様子のコールオディの放った謎の青黒い光を浴びて回復しつつ、こちらへとゆっくりと迫ってくる『守護者』へと再び肉薄―――すれば当然、再度振り下ろされる大剣の一撃―――『溶虫の祭壇』で戦った際は、多少のノックバックは食らったが全く問題なく受けられたその一撃―――……俺は、それに対して。


「こういう、ことだろ」


 真正面から『大盾』をぶつけるのではなく、あくまでその攻撃の流れを阻害せず……とはいえ、俺には当たらないよう、受け流す形で構えた。

 すると、先程は俺を瀕死まで追い込んだその一撃は……今度はHPをまるで減らすことなく綺麗に地面まで振り抜かれ、『守護者』は僅かながら姿勢を崩した。


「やはりな」

「ほう。なるほど?」


 小さな隙を見せた『守護者』へ対し直剣で攻撃を挟み―――想像通り、まるでダメージは通っていないが、ダウン値等は加算されているかもしれないので一応……―――、同時に、俺の動きを興味深そうに見ていたコールオディも、錫杖と呼ぶには些か機械的なデザインに過ぎる武器より、先程俺を回復させたものと同じ青黒い閃光を放ち……こちらは、きちんと『守護者』のHPをそれなりに削る。

 ……本当にそれなりにしか削ってないので、確実にコールオディはわざわざ大した火力が出ない攻撃を行っている気がするが、まあ、それは決して俺が長く苦しむようにコールオディが手を抜いているわけではなくて、ヘイト管理の問題がどうだとか適当にそういうことにしておくとして……。

 ともかく、今の一連の流れで俺は自らが『盾』に対し立てた推測が正解だったことを悟る。


「コール。このゲームは、盾で受ける時に『DEF』ではなく『ATK』を参照するらしいな」

「へえ。そうなんですか。知りませんでした」


 もしもこの推測が一般的な考えだったら恥ずかしいので、もう一度『守護者』の攻撃を受け流しながら一応コールオディに確認を取ってみるが……まあ、知られてない、という判定で良さそうだ。

 単純にコールオディが一度も『盾』を握ったことがないから、興味が無い……という可能性は無くはないが、まあ、たぶん、誰も気付いていないんだろう、きっと。

 そう思っていた方が気分がいいから、そう思うことにして……ここで再度確認するが、このゲームではプレイヤーが目視することの出来るステータスが限りなく少ない―――0になれば死亡扱いとなる『HP』、【突撃】を始めとする起動型の星痕を使用すると減る『MP』、自らが攻撃で与えられるダメージを表す『ATK』、逆に攻撃を受けた際それがHPへ干渉する前に減少させる値を表す『DEF』、先程からコールオディが用いてる『ATK』を参照しない攻撃が参照するのであろう『INT』の5つだけだ。

 で、この中でどの数値こそが『盾』で相手の攻撃を受けられるかどうかを決められるかといえば……それは『ATK』でしか有り得ない。

 ぱっと見て防御に関係しそうな『DEF』だろうと思うかもしれないが、公式のヘルプを見ても『DEF』は被ダメージを軽減するようなことしか書いていないので確実に違う―――『盾』で受けた段階ではまだダメージは負っていないからな。

 となれば参照されるのは『ATK』で間違いない……これが、ホーンウルフやホーンウォリアー、連中の攻撃を盾で受けた時に確かな『手応え』を感じたことで立てた俺の推測だった。

 ようは『盾』で敵の攻撃を受けた時はお互いの『ATK』同士で優劣を判定し、それに勝利した方がメリットを得られる―――攻撃側が勝てば防御を貫通、防御側が勝てば攻撃側を大きく怯ませる―――ようにこのゲームは作られている。

 だから、そもそも『小盾』を使おうが『大盾』を使おうが……『ATK』が変わらないなら、『ATK』で元々負けている相手の攻撃は受けられない。

 そしてこのゲーム、今のところ武器を装備しようがなんだろうが『ATK』に影響していない。

 コールオディが使っているような特殊な装備……『星遺物』だったり、そもそももっと上の層で手に入る装備なら分からないが、いまのところ【突撃】の星痕を装着したら僅かに上昇した程度だ。

 では、このゲームにおいて『大盾』の優位性とはなにか―――?


「コール、スタンしたぞ」


 ―――繰り出される攻撃を受け流し続け、カウンターで直剣を当て続けていた『守護者』が大きく体制を崩し、膝をついたことから分かる通り、『スタン値』の蓄積が高いことで違いないだろう。

 ……そもそも疑問だったのは、ペロペロババボとの一戦において、彼が大盾による一撃でスタン状態へと入ったことだった。

 たった一撃入れただけでプレイヤーからスタンを取れる……そんな性質がもしもあったのだとしたら、間違いなく大盾は不遇カテゴリのような扱いを受けるはずがない。

 であれば、あのスタンは決してあの一瞬で蓄積したものではなくて……戦いの最中で徐々に溜まっていったもので違いなく、そうだとしたらそれは、あの戦いで俺が唯一やっていたこと……大盾で彼の攻撃を受け続けたことで溜まったとしか考えられないわけで。

 となると、この『大盾』という武器は―――とてつもない重さを持つ代わりに、『盾』全てが持つ『攻撃を受けた際、相手に反射ダメージとしてスタン値を与える』という特性がいっそう強く、また、全身を隠せるサイズのお陰で防御判定が広く身を守りやすい……素晴らしい『武器』だと言えるわけだ。

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