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031-レベル14

「それで、レベルはいくつになるんだ?」


 コールオディと共に『渦虫の祭壇』を守護するボス―――『守護者』へと挑むにあたり、俺が気になったのはこの一点だった。

 この『天骸のエストレア』は、プレイヤーキャラクターにレベルは存在しないが、一方で戦うモンスター達にはレベルが存在する……そして、そのレベルは同じエリアに存在しているプレイヤーの中で最も高いものに合わせられるということを、俺はペロペロババボとの戦闘に入る直前に把握している。

 となれば、今から戦う『守護者』のレベルは間違いなくコールオディのものに合わせられるはずであり―――。


「教えてあげません。ひみつです」

「……お前なぁ」


 ―――それを知ることぐらいは許してくれるかと思ったのだが、俺の問いに対しコールオディはニコニコとした笑みを浮かべながら人差し指を自らの唇に当ててみせた。

 相変わらず、苦しむためなら努力を惜しまない彼女の姿勢に思わずため息交じりの呆れた声が出てしまうが……そんな俺の様子を見てコールオディは、よりいっそう楽しそうに笑みを深めるばかり。

 全く、つくづく地獄が好きらしい。


「だって、どんな苦しみが待っているか先に知ってしまっては、痛みも半減してしまうでしょう? 半端な苦痛が示す道では、本当の楽園には辿り着けませんよ」

「台詞回しが完全に悪役のそれだが」

「ふふふ。真実とは、時になによりも残酷ですからね。確かに、傍目に見れば凶刃を振り回す悪鬼に見えることもあるかもしれません―――」


 もしも、コールオディに世界を自由に書き換える権利でも与えようなものなら、誰もが日常の幸せを忘れ去り、遠い忘却の彼方へと消えたそれらを手に入れる為、人々が苦しみ喘ぎながら生きようともがく、地獄のような世界が作られるであろうことを簡単に察せさせることを言いながら、彼女は『渦虫の祭壇』の大扉へと触れた。

 瞬間、大扉へと続いた道すがらに存在していたいくつもの燭台に青色の炎が灯り、そして、同時に俺達を包み込んだ漆黒の帳……その天蓋を裂いて、ひとつの巨躯が落ちてくる。


「―――さあ。一緒に楽園の門(ヘヴンズ・ゲート)を叩きましょう。サントゥくん」

「……どうだかな。案外楽勝かもしれんぞ」

「ふふふ。容易く突破してくれるなら、それはそれでありです」


 まるで、眼前の巨躯―――全ての『天の祭壇』にて共通して出現するボス、『守護者』―――を嗾けた側のような台詞を言いながら、コールオディが俺の隣に並んだ。

 そんな彼女に俺が向けた言葉は、決して強がりとかそういうものではない。

 というのも、この『守護者』というボスと戦うのは今回が初めてなわけじゃない……『牙獣の神星骸』に向かう際に通った『牙獣の祭壇』や、この場所……『溶虫の神星骸』に向かう際に通った『溶虫の祭壇』で既に撃破済みだ。

 というわけで、その動きは大体把握しているし、このゲームはモンスターのレベルが上がろうが動きは変わらず……そして、この『守護者』というボスはそこまで動きが良いわけではない。

 ……まあ、それは第一層へと向かう『天の祭壇』に出現していた『守護者』の話であり、この第二層へ向かう『天の祭壇』を守護する彼は―――余計、それが隠された祭壇である『渦虫の祭壇』のものならば―――違うかもしれんが。


「わたくし、前衛と後衛、どちらも出来ますが。どちらをして欲しいですか?」

「後衛で頼む」

「わかりました。では、そのように」


 決して油断することは無く、かといって、過度に警戒することもなく……出来得る限りフラットな状態で俺は【減重】を装着しなおした大盾と、未だにひとつの星痕も刻んでいない直剣を取り出しながら『守護者』へと近寄りつつ、随分と機械的なデザインをした錫杖と、様々な生物を組み合わせて作り上げられていそうな生々しいチェーンソウという両極端な装備を取り出してみせたコールオディに後衛を任せることにした。

 『守護者』というボスは、俺と似たようなスタイル……即ち、重装備で身を固めた騎士型のボスであり、機動力は大したことがない。

 なので、距離を放して攻撃出来るメンバーがひとりでも居れば簡単に……。

 …………。

 ……。

 いや、待て? さっき一瞬見えたグロいチェーンソウはなんだ? コールオディ、あんな武器普段使いしてるのか?


「む、しまった―――」


 決して油断するつもりは無かったのに、コールオディがあまりにも衝撃的過ぎるものを見せてきたせいで気が散り、俺は『守護者』に先手を譲ってしまった。

 とはいえ、俺は10Fまでは対応することが可能であり、当然ながらそんな理不尽な速度では攻撃を行わない『守護者』の一撃など簡単に盾で受け止められる。


「―――なぁあああああーーーーーッ!?」


 受け止められなかった。

 きちんと防御姿勢を取って完璧に受けたはずだが、そんな力が入っているようには見えなかった『守護者』の通常攻撃1発で俺の身体はボロ屑のように吹き飛び、地面を転がされることになった。

 もちろん、こんなリアクションを取らされたのだからHPも9割近く吹き飛んでいる。

 …………。

 ……。


「え、えェーーーッ!?」


 思わず絶叫が出た。

 当たり前だ。

 なんだ今の。

 死ななかったのが奇跡だが。


「もう。ダメじゃないですか、サントゥくん。敵のレベルは14ですよ。そんな装備で真っ当にやりあったら死んじゃいます♡」

「死んじゃいます♡じゃないが。なんだレベル14って」

「レベルが14ということです」


 自分の足元に吹き飛んできた俺を見下ろしながら、コールオディが少しばかり息を荒げて恍惚とした表情を浮かべて、俺達が今対峙している『守護者』のレベル―――先程、俺が聞いた時ははぐらかしてきたそれを、楽し気に教えてきた。

 れ、レベル……14……? 『天の祭壇』に出現する『守護者』は、その祭壇から続く神星骸のレベルに等しいのだから……通常、次が第二層である第一層の『天の祭壇』に出現する『守護者』のレベルは2……。

 そして、第二層の神星骸は6つある第一層から2つずつ分岐して、計12……。

 つまりは、コールオディは少なくとも第二層の神星骸までは全て攻略済みであり……この『守護者』は、第十四層クラスの敵ということで。

 俺は『角獣の神星骸』と『牙獣の神星骸』しか攻略しておらず、第三層程度の強さしか知らないわけだから……。

 …………。

 ……。

 なるほどな、俺が知る5倍程度の強さを誇る敵というわけか。

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