030-『贅沢』な選択肢
「サントゥくんがいつもプレイしているクソゲーでは」
「クソゲー呼ばわりはやめてもらおう。マニアクスにも尊厳はある」
「クソゲーではプレイヤー全員が一丸となって攻略に勤しんでいるかもしれませんが、一般的なゲームではむしろこちらが普通です。誰だって、他の人より上に立ちたいですからね」
「……………………………………」
攻略wikiに載っていない情報を見つけたらいち早く報告し、共に戦う同志たちと意見を交換し見識を深め……同時に、後進にも道を示すのが当たり前だと思っていた俺にとって、かなり衝撃的な存在を示唆されて驚いたのだが……なぜだか知らないが貶された。
おかしくないか? 人道的に真っ当なのは俺達なのに。
どうして俺達がおかしいみたいに言われているんだ?
攻略wikiを充実させるのは尊い行為で、それを行うのが普通なんじゃないのか?
みんな苦しんでたんだぞ? 茜 亜希の好感度微塵も動かなくて。
どんなに会話しても、どれだけ高いプレゼントをあげても、いっそ身体中触りまくっても微塵も動かなくて。
プラスにならないだけならともかく、マイナスにすら動かないから明確にバグっていることだけ分かって、もはやクリア不可であり、トロコンも不可なんじゃないかと、誰もが苦しんだんだぞ。
何回も何回も何回も『あ、あのね。お兄様。ごめんね? アキ、お兄様のこと……そういう風には……』とか苦笑いで言われて、中には過去に幼馴染に告白して見事フラれたトラウマを想起してしまって発狂した男もいたんだぞ。
そんな悲劇を……攻略wikiさえ充実していれば回避できるというのに……。
「そして、いま。わたくし達はその『他の人より上』に立とうとしているわけですが。ここでサントゥくんには、ふたつの選択肢があります」
「……選択肢? ないように思えるがな」
理不尽で狂った世の中を憂いていたら、コールオディが指をふたつ立ててピースサインを作った。
そんな彼女の表情は、その言葉を全て鵜呑みにするのであれば『誰も知らない』……あるいは、それに等しいエリアを訪れられるというのにいつも通り無感情気味で……ただ、立てたふたつの指をチョキチョキと動かしているあたり、上機嫌は上機嫌らしい。
「ありますよ。単独であの『天の祭壇』へと挑み、自分に合ったレベルの『守護者』と戦うか。それとも……わたくしと共に、遥か格上の『守護者』と戦うか」
「なるほどな。そういう話か……」
しかし、いくら未踏破のエリアを目前にしたとはいえ機嫌が良すぎるのではないか……と思っていたら、どうやら彼女の機嫌が良いのは『渦虫の祭壇』を訪れられたから、というだけではなく、彼女の好きな『贅沢』―――『幸福を捨てる自由という贅沢』を……俺に迫れるからでもあったらしい。
これが数少ないコールオディの―――金奈の欠点であり、そして、正直致命的といってもいいレベルで大きな一点だ。
そう、彼女は……自分が苦しむのも勿論好きだが、それ以上に……誰かが自分と共に苦しんでくれることが大好きなのだ。
言うなれば『幸福を捨てる自由という贅沢を誰かと共有できる最上級の贅沢』……といったところなのだろうな。
あまりにも厄介だし、このゲームには敵を撃破する旨味が基本的に存在していないので、格上への挑戦など無意味も無意味なのだから、正直に言えば勘弁願いたいところなのだが―――。
「……このゲームを教えてくれた例もある。付き合おう」
「ふふふっ。ありがとうございます、サントゥくん。……わたくし、大好きです。あなたのそういうところ」
―――『天骸のエストレア』を紹介してくれたこと、脚が細くて心配になってしまったこと、パンツ……じゃなくて宇宙を思わず空に垣間見てしまったこと、等々の理由もあるので、今回は彼女の贅沢に付き合うことにした。
すればコールオディは、毎日顔を合わせていても月に1回見れれば多い方な可愛らしい笑顔を浮かべてみせる。
「もっと他のところを好きになってくれると助かるんだがな」
「おや、贅沢ですね」
「コールにだけは言われたくないな」
きっと、これから惨い目に遭うだろうが……まあ、こんな顔を見せてくれるのならば、十分にその価値はあるといえるはずだ。
……だとか、素直に言ってみれば、もっと笑ってくれるようになるだろうか?
…………。
……。
いや、笑顔で俺が釣れることを学習して、更なる地獄に俺を引き摺り込むために笑顔を活用し出すかもしれんな……。
やめておこう……。




