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028-だって、男の子なんだもん。

「……大丈夫か?」

「え、ええ。サントゥくんこそ……」


 それ即ち、俺が無事にコールオディを受け止められたということ……ではあるのだが、華麗に受け止めることなど当然出来ず、地面とコールオディの背中に挟まれるクッションとなってしまった。


「まあ、多少のダメージは入ったが。生きてはいる」

「……すみません。ちょっと、無茶をしました……」


 とはいえコールオディ自体は無傷だったようなので問題無いだろう、と俺は考えたのだが、一方でコールオディは俺がダメージを食らったことに負い目を感じたらしく、俺の上から降りて立ち上がると早々にインベントリから回復用のポーションを取り出し、差し出して来た。


「どうしたんだ、急に。こういうことはするタイプじゃないと思っていたのだがな」

「……あなたの言う『崖下の祭壇』へのルートが正規手段である可能性が十分に高くなったからです。わたくしだって、未踏破エリアへの入り口を発見などすれば冷静ではいられません」

「なるほどな。本当にこのゲームが好きなんだな―――」


 特段受け取らない理由もないので、少しばかり恥ずかしがるような……彼女にしては大分珍しく、感情が大きく出た顔を見せるコールオディから差し出されたポーションを受け取り、使用しながら先程の行動の真意を尋ねてみたところ……驚愕の事実が判明した。

 いや、違う。

 コールオディが思っていたよりも『天骸のエストレア』に夢中であることではない。

 そんな程度のことではない。


「……まあ、はい。それなり以上には」

「……………………………………」

「…………?」


 ―――ここでひとつ説明をしておくと、この『天骸のエストレア』において下半身装備というものはズボンの類となり、そこにはスカート等は一切含まれないらしい。

 であればスカートは存在しないのかと言われれば全くそんなことなく、スカートというものは上半身装備として上下セットで収録されているのだ。

 だからこのゲームにおいて、大体の場合はスカートの下にズボン類を履いたスタイルが一般的となるのだが。


「サントゥくん? どうかしましたか?」

「別に、なにも」

「……そうですか?」


 装備重量調整の影響だろう……コールオディは、今、下半身装備を装着しておらず―――生足が晒されていた。

 ……どうかしましたか? ではないのだが、本人は自分の今の格好に対しなんとも思ってないのだろうか。

 明らかに俺が現状行ける範囲では手に入らないであろう、真鍮の鎧で所々が補強された、シックな色合いとミリタリー感が強いデザインが特徴的な見るからに上等なコートから生足を晒す、その恰好に対して。


「それで、次はどこに跳ぶんですか?」

「そうだな……」


 注意した方がいいような気もするが、本人も分かっていて割り切っているのだとしたら無暗に彼女の羞恥心を刺激することになるかもしれないし、あえてここは口には出さずそっと目を逸らすのが正解なのかもしれない……といったことを延々考えながら、コールオディの言葉にさながら話を聞いているかのような返事をしつつ、次に向かう場所を検討する。

 検討する?

 検討できるのか?

 ちょっと視線を動かしたら金奈の脚―――いや! 検討しよう。

 どこに行ったものだろうか……しかし細い。

 金奈のことだから、恐らく体形もリアル通りのままだとするとちゃんと食べているのか心配になる細さだ。

 余計、コールオディは両親が家を空けがちで、ほぼほぼ一人暮らし同然な状態だし……心配だ……。

 月文字も思うところがあるらしく、放課後に色々な店へと連れ回したりしているし、彼女の家庭環境をよく知る俺の両親もそこそこの頻度で夕食の席に金奈を招待しているので、そこまで極端に食べていないということはないだろうが。

 特段運動が趣味というわけでもなく、どちらかといえば俺と同じインドア派なのにこの細さは……心配だ……。

 心配だ……。

 心配……。


「サントゥくん……?」

「あそこに跳ぶ。さっきと同じようにシンプルに真似てくれ。このゲームはプレイヤーキャラの機動力が一律だからな。自信をもって跳べば問題無いはずだ」

「なるほど。わかりました」


 決してやましい気持ちなどなく、その細さが心配になったから見ていただけなのだが、俺が中々次に移動する場所を示さないことに違和感を覚えたらしいコールオディが小首を傾げてきたので、秒速で次に向かうべき場所を見つけて指をさした。

 ……危ない。

 あの意味の分からないレベルで少ないスタミナゲージのせいで1秒の思考時間すら致命的になりかねない『ドブブド』の究極のパルクールへ完全なる適合をするにあたって習得した、この一瞬で跳躍可能な場所を見つけ出す力がなければコールオディに不当な評価を下されるところだった。

 ありがとう『ドブブド』。

 全てお前のおかげだ。

 ありがとう、『ドブブド』……。

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