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026-『崖下の祭壇』

 目視は出来るものの、到達する手段が分からない……それに、他のふたつの『天の祭壇』と違って『溶虫の神星骸』を突破してもマップに記されない……なので、序盤に設置こそされてはいるが、もっと後々に使う『天の祭壇』なのだろう……というのが、【血の雨】について調べまわっていた時に攻略wikiで見かけた『崖下の祭壇』に対する結論だったのだが。


「しかし、なぜ? まあ、興味を惹かれる場所ではありますが……」

「wikiを見る限り到達不可能、どこからか転送されてくる……あるいは、上層で飛行する手段を手に入れるのだろう……とのことだが―――別に普通に降りれそうだと思って。降りてみようかなと」


 俺はあれが降りられないとは全く思わなかった。


「……はい? ……いや、サントゥくん。もしかして、あなた……」

「ああ……」


 そんな、素直な感想を口にした俺へと疑うような視線を一度は向けたものの、確たる理由をもって『崖下の祭壇』に辿り着けると俺が口にしたことを察したらしいコールオディが、はっ、とした様子を見せた。

 ……そう、なにせ、掲載されていたスクリーンショットを見ただけでも普通に降りれるようにしか見えなかったのだ―――。


「『ロード・オブ・ライト ~ザ・ブラザーフッド~』で散々殺人パルクールをさせられた俺から言わせてもらえば、あれは普通に降りれる」


 ―――俺は、『ロード・オブ・ライト ~ザ・ブラザーフッド~』にて伝説の狩人『ブラザーフッド』となり、この世に混沌を齎す呪われた剣……『パワー・ソード』を『滅亡の火山』に投げ込むべく、闇の魔術師『ディアマリス』と闘い……は全くせず、ひたすらに少しでも操作を誤れば潰れたトマトになる殺人パルクールを50時間近くさせられた経験があったからな。


「珍しく神ゲーをやって頭が壊れちゃったのかと思いましたが、既にサントゥくんの頭はクソゲーのやりすぎで」

「クソゲー呼ばわりはやめてもらおう。『ロード・オブ・ライト ~ザ・ブラザーフッド~』にも尊厳はある」

「クソゲーのやりすぎで完全にぶっ壊れていたんでしたね」

「……………………………………」


 ……経験に基づいた確たる理由を述べたはずなんだが、なぜかコールオディは柔らかな笑みを静かに向けてきた。

 それはまるで三輪車ぐらい乗れるもん! と息巻いた幼児でも眺めるかのような視線で……。

 なぜなんだ、俺がなにかおかしなことを言ったとでもいうのだろうか。

 確かに俺は伝説の狩人『ブラザーフッド』として世界を救ったというのに……。

 『ロード・オブ・ライト ~ザ・ブラザーフッド~』のトロコン実績を解除している全人口1%未満の存在だというのに……。


「ともかく。そういうわけだ」

「……ふむ。では。少しだけ待っていて下さい」

「……? ああ。構わないが」


 だが、例えコールオディが俺の自信をどう捉えようが、別に俺は構わずに『崖下の祭壇』へ向かうつもりではいたので、切りの良いところで彼女との会話を切り上げて、この場を後にしようと思っていたのだが。

 そんな俺をコールオディは引き留めた上で、今し方出てきたばかりの店内へと戻って行った。

 あまり意図の読めない彼女のその行動には少しばかり疑問を抱かざるを得なかったが―――ほどなくして、彼女がなぜ店内へと戻ったかは分かった。


「面白そうなものが見られそうなので、わたくしもついていきます」


 その両手にそれなりのサイズの蓋付きコップを持ったコールオディが再び店内から現れ、そんなことを言いながら手に持つコップの片方を差し出してくる。

 どうやら店内には飲み物を買いに戻ったようだ。

 自分が飲む分と―――。


「なら、それは駄賃代わりということか?」

「これにそんな意味はありませんよ。単純に、わたくしがサントゥくんと一緒に飲みたいだけです」


 ―――俺が見せるパルクールショーの対価分。

 ……というわけではない、とは彼女の言葉だが、やたらと耳障りの良いことを口にしているあたり、どこまで信じたものだろうか。

 まあ、わざわざ買ってきてくれたのだから頂くのだが……。

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