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025-遭遇する、冷美なる彼女。

「おや」

「なに?」


 俺にとって第三の神星骸となった『溶虫の神星骸』、その中の『溶虫の街』にて。

 まるで想定していなかった人物と俺は遭遇していた。

 この夜空に溶け込んでしまいそうな漆黒に、流れ星のような金色のメッシュを所々走らせた長い髪、人形のように整っている上、本人が無表情気味なこともあって無機質さすら覚えさせる顔。

 彼女のことを知らなければ全てがキャラメイクによって作られたものだろうと思えてしまうほど、華麗なそれらを持つ少女。


「意外ですね。【血塗】はあなたの趣味じゃないと思っていましたが」

「意外なのはこちらもだ。てっきり、もっと上層にいるものだと」


 実を言えば俺と同じように、造形はリアルのまま配色だけ変えているアバターを用いたこの『コールオディ』というプレイヤーネームの少女は……俺の幼馴染であり、このゲームをプレイすることを薦めてくれた新葉 金奈その人である。

 俺の『サントゥ』というプレイヤーネームを見るだけで、こちらが誰なのかを察しているのが、その証拠だ。


「……いま、その用事は片付きまして。軽い打ち上げをしていたところだったんです」

「なるほど。つまりこの店は……飲食屋か」


 そして、金奈―――コールオディと俺が遭遇したのは街中にある、とある建物の入り口で……この建物がなんの施設のものなのかを確かめるべく入ろうとしたら、ちょうど中から彼女が出てきたわけだ。

 なかなか入り組んだ裏路地の先にあったものだから、ちょっと品揃えが特殊な面白みのある店かと思って期待したのだが、コールオディが首だけで振り向きながら口にした言葉を聞く限り、どうにもそういうわけではないらしい。


「そういうサントゥくんは? 先程も言いましたが、【血塗】はあなたの趣味じゃないと記憶していますが」


 であれば、別にわざわざ入ることもないか、と考えていると、再びこちらに視線を戻したコールオディが小さく首を傾げて、俺がここにいる理由を尋ねてくる。

 ……まあ、気になるかもはしれない。

 こんな大盾とバチクソ重い鎧を初期装備に選んでる時点で分かることだろうが、俺は基本的に守りと安定に重点を置くタイプで、デメリットを持つが効果が大きいスキル等を好まない。

 そして、それをコールオディは長い付き合いの中で十分に理解しているのだから。


「……そうだな。コールに隠すこともないか。実を言うと【血の雨】に遭遇してだな。相当アレな連中だったので、撲滅するため、奴らについて色々調べようと思った次第だ」

「ほう? それでは、『溶虫の神星骸』に向かう前にリスポーンポイントを更新するついでに街を散策中といったところですか」

「いや、それに関しては少し違う」


 わざわざ隠すようなことでもないので、ここに来た理由―――【血の雨】撲滅のため―――を素直に打ち明けると、コールオディは納得したような表情を浮かべた。

 だが、実際のところは彼女が予想した内容には少しだけ事実と異なる点がある。


「違う、というと」

「実は、面白そうなものを見つけてな。『溶虫の神星骸』ではなく、そちらに向かおうかと思っている」

「なるほど……?」


 というのも、俺はこれから『溶虫の神星骸』へと向かうつもりはなかったのだ。

 ならば、どこに向かうのかと聞かれれば―――。


「ここにはあるだろう。誰も到達出来ていない、謎の『神星骸』へと繋がる『天の祭壇』がひとつ」

「……ああ。『崖下の祭壇』ですか」


 ―――マップには存在が記されていないが、確かに目視で確認することが出来る『天の祭壇』……合点がいった様子でコールオディが口にした、プレイヤー達の間で『崖下の祭壇』と呼ばれる施設。

 本来であれば、利用可能となった『天の祭壇』はマップ上に記される……それもそのはずで、そもそも『天の祭壇』と呼ばれる施設は別の神星骸へとプレイヤーを転送してくれる、『街』や『神星骸』に並ぶ重要な施設だ。

 そして本来、この『溶虫の神星骸』に存在している『天の祭壇』はマップが記す限りではふたつのみであり、そのどちらも『溶虫の神星骸』をクリアすることで利用可能となり、マップ上にも位置が記される。

 だが、『崖下の祭壇』は『溶虫の神星骸』をクリアしてもマップには記されない……不思議な場所なのだ。

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