024-ポエット!
「く、あ……! す、スタン……? バカな、たかが一発の攻撃で……? まッ、まさか大盾とは……!」
「対人戦において強力な武器カテゴリだったようだな。貴重なデータの提供、感謝する」
すれば、大盾による大ぶりな一撃をもろに食らったペロペロババボは目に見えてたたらを踏み……自分で申告してきたが、どうやらしばらく動けなくなる『スタン』という状態異常に陥ったようだ。
なにやら、この『大盾』という武器種の攻撃は……スタンを発生させる能力が極めて高いらしい。
攻略wikiを見ても『別にこんなバチクソ重い盾背負わなくてもよくね?』といったニュアンスの意見しか出ていなかったから、シンプルに不遇な武器カテゴリかと思っていたのだが、そうではないらしく、単純に不人気なだけらしい。
まあ、人気が出ないのは分かるがな……誰だって仮想の世界でぐらい聖剣を握りたいだろう。
俺は神盾のが握りたいが。
「手短に話すなら、遺言を聞いてやる」
どうにもスタンは一度発生してしまえば相当な時間拘束されてしまう強力な状態異常らしく、いまだにおぼつかない足取りで動けずにいるペロペロババボの首へと直剣を当てながら、一応、聞いておいてやる。
こいつは間違いなくクズだが……とはいえ、たかがゲーム内で下衆な行動に勤しむしか人生の楽しみのないくだらない人種でしかない。
最低限の優しさぐらいはくれてやっても問題はないだろう。
「…………。巨乳に―――、惹かれてみれば―――、死ぬはめに―――、されど後悔―――、まるでなし―――」
すると、ペロペロババボはこの世の終わりみたいな辞世の句を詠んだ。
「そうか」
「アバーッ!!」
こんな輩に最低限の優しさをくれてやったことを後悔しつつペロペロババボの首を一刀で叩き落し、処す。
…………。
……。
「巨乳だと……? 【血の雨】の裏には……豊満な胸を持つ女がいるということか……?」
処して、少し冷静になってみれば……先程の終わりの一句には、なにかしらの情報が隠されていたような気がする。
いや、単純にペロペロババボが巨乳好きというだけかもしれないが……だが、先程の句の内容的には『巨乳に唆されて【血の雨】に所属した』という意味があったように思える。
それに、戦闘中に奴が口にした『血の女神』という名前……どう考えても邪神の類だが、邪神で女神であれば巨乳であってもおかしくない。
問題点は、その『血の女神』が何なのかというところ―――即ち、特殊なNPCなのか、それともプレイヤーなのか―――だが……。
「……『血』、か。次は『溶虫の神星骸』あたりを覗いてみるとしよう」
……それを考えるには、まだ情報があまりにも少なすぎるのが事実だ。
そして、どう考えても『血』を扱う彼らは『溶虫の神星骸』……あるいは、それから続くどこかの神星骸を根城としている可能性が高いので、真実に迫るため足りていない情報を集めるならば『溶虫の神星骸』に向かうしかないだろう。
いや、別にわざわざ首を突っ込まなくてもいいのかもしれないが……、ペロペロババボを撃退してしまった時点で【血の雨】に名前を覚えられた可能性があるし。
なにより。
あんな連中の魔の手が金奈や月文字、それにカルザー……俺が知る連中へと伸びるのはごめんだ。
奴らの規模感は全く分からないし、俺一人でどうにかなる問題ではないかもしれないが……だとしても、血を流すことを強いるぐらいは、できるはずだ―――。
「……妙だな」
―――と、そんなことを考えながら『溶虫の神星骸』へと向かいつつ……わざわざ金奈が名前を出して忠告してくるほど知名度のあるギルドなら、wikiにもなにかしらの情報が乗っているかと思って軽く『溶虫の神星骸』まわりのページや、要注意PKプレイヤーのページなどを眺めてみたのだが。
驚くことに、まったく情報が無い。
ペロペロババボはともかく……【血の雨】や『血の女神』に関しても、全く。
逆に、【グランド・ダリア・ガーデン】なる大規模ギルドが場合によってはPKも厭わない過激なギルドであることと、そのギルドの長である『キルレイト・ブレイブハート』が相当キレた危険な男であることはやたら書いてあったのだが。
「……あんな調子の輩が集まっているなら、目立ちそうなものだがな……」
案外、【血の雨】なんてギルドは大したことがない存在なのだろうか?
……あるいは、このキルレイト率いる【グランド・ダリア・ガーデン】が、それ以外の全てを霞める程に危険な存在なのだろうか……?




