021-PKギルド【血の雨】
「【血の雨】。なるほど、物騒な名前だな」
そして、そんな無の行為に嬉々として手を染めているギルドの名が【血の雨】らしく……これは、また、厄介そうなギルドだと思った。
どう考えたって、その名前からしてシンプルに人を殺すのが好きで殺していそうな集団だ。
なにせ、このゲームにおいてPKはノーデメリットだからな。
……まあ、このゲームにおいてノーデメリットだとしても、そもそも自分のIDが汚れるのは変わらんが。
あまりIDを汚しすぎると国から精神鑑定を受けろだのなんだの通知が来る挙句、無視すると更にIDが汚れて公共機関の利用に支障が出たりもするからな。
こういう連中も、そう長続きはしないだろうが……。
「気を付けるに越したことはないな」
わざわざ金奈が知らせてきたあたり、相当な連中なのだろう。
しかも、名前が売れているらしいくせしてこんなところに来ているあたり、初心者狩りも楽しめるタイプの一番ダメなPKだ。
俺は、基本的にゲーム側が許容していることは全てやっていいと思っているので、NPC殺しもPKも気にはしないが……一般的な価値観として、基本的に人間らしいものを殺すのは忌避すべきだということは理解している。
もし、【血の雨】のプレイヤーが事に及んでいる場面にでも遭遇したら……どれだけ力になれるかは分からんが、加勢してやったほうがいいだろうな。
「うあああっ……助けてくれえええっ……!」
とはいえ、そもそもPKが可能となる街以外のエリアにおいてプレイヤーと早々マッチングすることがないので、そんな場面に遭遇するとは思えないが。
思えなかったんだが。
ばっちりマッチングしてしまっている……いや、PKに襲われているプレイヤーとではなく、『牙獣の神星骸』におけるウルフ系モンスターであるファングウルフ(元々ウルフはファングだろうに)に囲まれ、今にも絶体絶命といった様子のプレイヤーと。
…………。
……。
いや見たなあ、このシチュエーション……カルザーで既に……。
「……おい、助けがいるか?」
……まあ、いくら天丼とはいえ、丁度『困ってる人がいたら助けよう』といった具合のことを考えていた矢先にこんなマッチングをしてしまったら、助けないわけにもいかず。
どうせ許諾されるだろうな、とは思いつつも一応、追われてあたふたしている男へと加勢の許可を取る。
「え! ああっ、お願いします! 助かります!」
「わかった。60秒くれ」
そして返ってきたのは想像通りの返答。
ファングウルフはホーンウルフと……まあ、角が生えてるか牙がちょっと大きいかの違いしかなく、強さも大して変わらない(俺の場合、ステータス自体はレベル2の神星骸となっているこちらのが上だが)、だから多めに見積もっても1分もあれば片付けることは容易であり―――。
「ふう。なんだか、思ったより硬かったな……」
―――容易だったはずなのだが、割と時間が掛かり、全く1分では片付かなかった。
とはいえ、動き自体は大したことないので6頭相手でも苦戦自体はしなかったが……。
「ははぁ。これはこれはすばらしい……」
「…………」
……ここでふと、俺はひとつ気になることができた。
俺が今片付けたファングウルフ達―――こいつらは、いったい何レベルのファングウルフなのだろうか? ということだ。
例えば俺にレベルが合わせられていたら2で、今、後ろで手を叩いて俺を称賛しているこの男に合わせられていたら。
「レベル4のファングウルフを。こうも容易くとは」
「ッ!」
刹那、俺は反転してこちらを狙っていた刃を大盾で弾く。
「うふふ……。そうですよね。こんなものでは……ねェッ!」
「……【血の雨】か。お前は」
「アハハ! ご存じで! これまたすばらしい!」
異常なことが起きているのは確かだが、俺は別に慌てもしなかった。
なにせ、事前にこういう輩のことを金奈より知らされていたからだ。
……そう、PKギルド【血の雨】―――それに所属するプレイヤーが、この地を訪れていることを。
「わたしの名前はペロペロババボ……。【血の雨】第一の刃、指狩りのペロペロババボです」
「………………………………えっ、ペロペ……なに……?」
「ペロペロババボですペロペロババボ」
…………。
……。
えっ、ペロ……え……?




