020-『牙獣の神星骸』なんてないよ。
『天骸のエストレア』にはプレイヤーがレベルアップするシステムが存在しない。
しかし、それはあくまでプレイヤーのみの話であり―――『神星骸』のレベルは上昇する。
これがどういうことかと言えば単純で、どんな神星骸であってもひとつクリア―――神星骸の最奥に到達し、星遺物や星痕を手に入れるとクリア扱いだ―――すると、その神星骸と同じ層に存在する他の神星骸に出現するモンスターの能力が、ひとつ上の層と同等になるのだ。
つまり、『角獣の神星骸』をクリアした俺が続いて挑むことを決めた『牙獣の神星骸』は、第一層でありながら第二層相当の能力を持つモンスターが出現するようになるわけで―――。
「とはいえ、まあ。同じ狼と巨漢だからな」
―――だからどうした、といったところだった。
確かに多少硬くなっている気はしたが、だからといって動きが変わるわけでもないし、所詮はチュートリアルの延長線上なので、大した問題にはならなかった。
結局のところ、第一層の神星骸は最奥に到達さえすればクリアできるしな。
……まあ、得られる星痕がどれもプレイスタイルの根幹になるような基礎的なものなので、こんなものなのだろう。
しかし、第二層以降は気を付けなければならないとは思う。
この『牙獣の神星骸』もそうであり、もちろん『角獣の神星骸』もそうだったのだが、どうやら地図で確認したところ第一層から移れる第二層の神星骸は2つずつ存在するらしい。
となれば、第二層の神星骸は12個存在し……順番に巡っていたら、最後に攻略する神星骸は第十三層並になってしまう。
攻略する神星骸や、その順番は気を付けた方がいいだろうな……。
「さて、次は―――ん?」
とはいえ、そんな解放された神星骸を順番に全部攻略してまわるなんて狂気の沙汰、当然ながらやるわけもないのだけれど……と考えつつ、あまりにもあっさり『牙獣の神星骸』が終わりを迎えたので、ここからどうしたものかと思っていたところで、不意に、予め連携した外部アプリよりメッセージが届いたという通知が飛んできた。
送り主は……金奈であり、内容は―――。
「……ほう、意外だな」
―――メッセージの確認が遅れ、それで返信が遅れたことの謝罪から入り、チュートリアル突破への祝福、いまは少し手が離せないので一緒に遊べないこと……あたりが、とりあえず書かれていた。
基本的に金奈は……俺以上にソロプレイを好み、その関係で割とオンラインゲームの中では常に身が空いているイメージだったのだが、どうやらこのゲームにおいてはそうでもないらしい。
シンプルに高難度エリアに挑戦している……という可能性もあるが、金奈という少女はメッセージの返信速度が異常な少女だ。
基本10秒経たずに帰ってくる。
本気で一生端末に齧りついているんじゃないかというレベルで即返ってくる。
そんな彼女が60分以上も返信に遅れたとあらば……まあ、別の誰かと一緒に行動していて、通知に気を配る余裕が無かったと考えるのが自然なところだ。
……ちなみに、月文字は真逆で全くメッセージを返してこない。
というか、平気な顔して翌日顔を合わせた時に『そういえば昨日のお手紙なのですけれども』とか言い始める始末だ。
お手紙じゃないんだよ。
お手紙じゃないんだから見たんだったらその場で返信しろよ。
「……PKだと?」
ことあるごとにツッコミどころが出てくる月文字の恐ろしさを再認識しつつ、三行ぐらいしか無かった俺のメッセージに対し、かなり長くてハイカロリーな内容に仕上がっている金奈のメッセージに目を通していたところ、最後の方に気にせざるを得なかった箇所があった。
なにやらこの『牙獣の神星骸』に今、名前が売れたPKギルドのプレイヤーが来ているかもしれない……とのことなのだ。
PKプレイヤー……つまりは、同志であるプレイヤーを殺そうとするプレイヤー自体は、まあ、オンラインゲームなら珍しいことじゃない。
よくある対人要素の一環と言えば一環だ。
ただ、公的に認められているPvPとは違い、もう少しアンダーグラウンド的な……犯罪的な意味合いが強くなる。
よって、ゲームによってはPK行為に対し重いペナルティと高いリターンを設定するなどして、PK行為を咎めつつも認める……ような、よく分からん調整をしていたりもするのだが。
この『天骸のエストレア』においては―――もちろん、無だ。
PKには無が存在する……無しか存在しない。
当たり前だ。
モンスター倒しても素材以外ドロップしないし、種類によってはそれすらないのがこのゲームだ。
プレイヤーなんか殺してもなんの得もあるわけがない。
よって、別段ゲーム上はデメリットが存在しないし、メリットも存在しない。
単純に人から嫌われやすいだけである。




