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019-恐るべき追跡者、『カルザー』。

「え? 乳首? ああ。まあ、しゃあねす。そういうデザインすから」

「……割り切ったのか。……強いな、カルザーは……」

「お? ヘヘ。まあ、なりに?」


 まあ、そんなわけはないのだが……どうやら、カルザーは人前で乳首を晒しても平気でいられるタイプの人間だったらしい。

 なんと強靭なメンタルをしているのだろう。


「で、どうすか! ソロは無理っしたしょ! だったら、このッ! カルザー様の出番すよ! お供しますぜ、アニキ!」


 その強靭なメンタルに反比例するかの如く、微妙なプレイヤースキルであることが彼の欠点なんだろう……と思っていたところ、微妙なプレイヤースキルであるカルザーは俺が『角獣の神星骸』をクリアできずに足踏みしていて、それ故に未だにここにいると考えたようで、昨日してきたものと全く同じ提案をしてきた。


「あいや別に『角獣の神星骸』は5秒でクリアしたが」

「5秒で!?!?!?!? 光の速度超えてんすけど!?!?!?!?」

「まあな」


 勿論、『角獣の神星骸』はとっくに攻略済みなので多少盛って5秒でクリアしたとカルザーに伝える。

 どう考えても凄まじい誇張があったと分かりそうなものだが、カルザーは純真な心の持ち主なのか、すっかり信じている様子だ。

 少し彼の先行きが不安になる……なりはするが、訂正するのも面倒なので光の速度を超えてしまったことを認めておく。


「す、すげぇやアニキ……いや、今日からアニキを超えたアニキ……超アニキと呼ばせてもらうすわ……」

「好きにしろ」


 結果としてなんだかカルザーの中で俺のランクが上がったようだが……プレイに全く起因しないランクアップなど心底どうでもいいので好きにさせておく。

 それに前回の会話で感じたことだが、このカルザーという男は好きにさせてやったほうが会話が進む。


「それで超アニキはこれからどうするんす? やっぱ続く次の神星骸に行くんすか?」

「ん……」


 事実、俺に謎のランクアップを施したカルザーは今後の方針について聞いてきた。

 俺としては、むしろお前がそれを知ってどうするんだ、とっとと『角獣の神星骸』程度踏破してこいよ、といったところだが……。

 しかし、確かに……この後はどうしたものかな。

 金奈に連絡を取って合流するのが一番手っ取り早い気もするが、流石にチュートリアル終了直後から道案内をさせるのは気が引ける。

 もう少しは自分の足でこの世界を歩いてみるべきだろう。

 となれば……。


「『牙獣の神星骸』に向かうだろうな。大盾を使うから【突撃】は素直に欲しい」

「ははぁ! ここで第二層にはあえていかず、牙獣すか! 流石は超アニキ! 思慮深ェ!」


 【減重】があくまで装備重量の軽減しか効果のない星痕だったことを考えると、どれぐらいの敵を相手取らなければ分からない第二層の神星骸よりも、チュートリアルの延長線上である特性上、敵の程度が分かっている他の第一層で攻撃に転用可能な星痕―――他のゲームで言うところのアクティブスキルとか、そういったところだ―――を入手可能な神星骸へ向かうのが得策だろう。

 そして、そう考えた際に候補となるのは名前通り突進攻撃が行えるのであろう【突撃】を入手できる『牙獣の神星骸』、あるいは、【狙撃】(スナイプ)を得られる『翼獣の神星骸』、【火球】(ファイア)を得られる『巻甲の神星骸』、【血塗】(ブラッディ)を得られる『溶虫の神星骸』……に向かうことになるが―――翼獣と巻甲は明らかに遠距離攻撃で、【血塗】なんて名前からして自傷付きの香りしかしない溶虫も次に向かう神星骸として微妙なので、ほぼ牙獣一択といえる。


「……そういうカルザーはどうするんだ?」

「え、俺すか? そっすね。やっと装備も整いましたし。そろそろ本腰入れてここの神星骸を攻略ってところす! あーんしんしてください、超アニキ。すぐに追い付いてみせますってぇ!」

「あ、うん。頑張ってくれ」


 そういう考えから次の行き先を決めた俺だったが、そんな俺を持ち上げるばかりだったカルザーはどうするのかと聞いてみたら、なんていうか、なんだろう、気付かないうちに追いかけられていた。

 ……なんでここまで懐かれたんだ……? 俺なにかしたか……? ちょっと助けただけだよな……?

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