018-おけまる生産。
「爺さん!! この素材全部で腕と下半身用の防具を作ってくれ!!」
「ホホ……おけまる」
この『天骸のエストレア』を遊び始め、【減重】を入手してからリアル時間で丸一日後。
俺は周囲のカップルプレイヤー達から冷ややかな視線を向けられながらも、鍛冶を営むNPCに散々集め回ったホーンウルフの素材を渡していた。
……そう、丸一日後である。
ここに至る前に、就寝と、登校と、登校中にチュートリアルが終わったら連絡すると言っておいた金奈から『結局、昨晩は連絡がありませんでしたが。一般的なゲームはむしろ難しかったですか?』と言われるイベントと、俺が『天骸のエストレア』を始めたことを知った月文字に額を急にくっ付けられ『ありえませんわ……脳に異常をきたしているのに熱が無いなんて……もう終わりですわ……』と絶望的な表情で言われるイベントが挟まっている。
なぜか?
簡単だ。
俺が就寝時間を削ってまで無理矢理昨晩作った『ウルフアーマー(上半身)』は……乳首が露出するデザインだったからだ。
なんなんだ? この世界の男は乳首を露出するのがデフォルトなのか? 製作陣は男の乳首を露出させる趣味でもあるのか? 男の乳首なら露出されてもタダだから露出させようとしているのか?
ちなみに女性用のウルフアーマーは普通にキチッと揃った序盤装備といった感じで全く露出が無かった。
なんでなんだ……いや、別に乳首を出せと言っているわけではないんだが……。
「ホホ……できたぞい」
「すまない。助かる」
なんらかの良くない闇の力を感じつつ、鍛冶師からウルフアーマー(腕)と(下半身)を受け取る。
……もう、ウルフアーマー(上半身)が乳首を露出していた以上、俺にはあのバチクソ重い初期装備……ヘヴィアーマー(上半身)を着用しながら、腕と下半身……最悪は頭部も(狼の顔半分を頭に乗せる蛮族スタイルだったので出来れば勘弁願いたい)ウルフアーマーに変えるしかなく―――そして、もしもこれでダメだった時は……意を決して第二層に上がらなくてはならない。
しかも、攻略wikiで乳首が出ない男用の装備を見つけて、それが手軽に手に入りそうな第二層を……だ。
出来れば勘弁被りたい。
誰が乳首の見える見えないで攻略チャートを組むんだ。
…………。
……。
俺か……。
いや、まだわからんが。
「頼む……想定通りいってくれ……」
他の客の邪魔にならないよう店の隅に移動し―――どうやら一般的な初心者は、ここで初期武器以外の武器を作るなどして自己強化を図っているようだ―――、震える手でインベントリを操作してヘヴィアーマー(上半身)、ウルフアーマー(腕)、ウルフアーマー(下半身)を装備する。
装備して……恐る恐る、一歩踏み出す。
……踏み出せた。
バランスが不自然に崩れるあの感触もない。
つまり……。
「お、おぉ……!」
つまり―――!
「俺はやったんだァーーーッッ!!!!」
―――上裸、卒業というわけだ!!
俺は嬉しさのあまり店から飛び出し、道行くカップルプレイヤー達に無差別挨拶を繰り返しながら街の中を疾走する。
明らかに奇行ではあるので、少々気味悪がられている様子はあったが……乳首を晒しながら歩いていた時の反応に比べれば、全然好意的だ。
挨拶を返してくれるプレイヤーすらいた。
「はぁ……最高だ……」
こうして、ぐるりと街を一周し終えた後、街の中央に位置する公園のベンチに腰を落ち着けながら俺は永遠に続いているのであろう夜空を見上げた。
乳首を夜風に晒さず生きられる喜び……それを噛み締めながら……。
「アレ!? アニキじゃないすか!」
「ん?」
ようやく文明人として最低限の恰好を得られ、もうゲームクリアでいいかな、とか考え始めた頃。
なんだか聞き覚えのある声がしたと思って顔を動かせば、そこにはカルザーがいた。
カルザーがいた、のだが―――。
「カ、カルザー……」
「やっぱあれすか。無理っしたか、『角獣の神星骸』! 難しいですもんねえ~」
「その、乳首は……どうした……」
―――彼は、昨日までとは違い、全身にウルフーアーマーを装備しており……つまりは、堂々と乳首を晒しながら頭には狼の顔面を乗せた超蛮族的スタイルとなってしまっていた……。
そんな……まさか、俺が乳首を隠したことによって……彼が……?




