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016-そこにいないならいないですね。

「しかし、これが元生物の体内とは……思えんな」


 ホーンウォリアーとの和平条約を無事に結んだ俺は、『角獣の神星骸』内を巡回し続ける彼らの視界や聴覚を刺激することを回避しながら、とりあえず眼前に開けている道をひたすらに進んでいた。

 そして、その最中に抱いた感想が……これだった。

 このダンジョンに入るにあたり、先が見えないほどの巨大な角を有する謎の生命体の頭蓋……その口部分より入ったわけだが―――そんな入場方法であれば、なにかしら生命の痕跡を感じる部分がありそうだというのに、このダンジョンは完全なる石造りの遺跡といったロケーションである。

 ……まあ、あんな入り方をしたとはいえ、全体的に落ち着いていて洒落た雰囲気であることが多いこのゲームなのに、ダンジョンに入った途端に生々しいロケーションだったら一部のプレイヤーは嫌がりそうだしな。

 俺は、一身上の都合により一時期は生きた巨人の口から体内に入って内側より生命活動を停止させる公務についていた時期があるので、全く気にならんが。

 あんなものを公務にした世界観を作るな。

 公務員をなんだと思ってるんだ。


「……もう最奥、か?」


 特殊性癖のゲームクリエイターがドラッグをキメて互いの身体を貪り合いながら性欲のままに作ったと言われていた恐るべきマニアクス、『巨人始末課』の悍ましさを思い出し、懐かしみながら足を進めていたところ……不意に、視界にやや広い部屋と、中央に鎮座する用途不明の端末が飛び込んできた。

 ぱっ、と見た限りでは、その部屋から繋がる通路は無く……となれば、ここが終着点であると考えられ―――。


「道中の敵がああなんだ。多少警戒しておいたほうがいいか」


 ―――同時に、この『角獣の神星骸』の主である存在……ボスモンスターとの戦闘を行う『ボス部屋』であるとも考えられるのが当然だ。

 そして、道中にホーンウォリアーがそれなりの数徘徊していたことから、あのホーンウォリアーというモンスターはこの『角獣の神星骸』においては間違いなく『雑魚敵』であり、ならば、ここで戦うことになるボスモンスターは彼らを容易く葬れる前提で作られたモンスターということになる。

 つまりは、普通に強敵である可能性が高い。


「…………」


 不意打ちに備え、大盾を構えながら部屋に侵入する……外から見た限りでは、部屋の中になにかがいる様子ではなかったが……プレイヤーが足を踏み入れると出現するタイプなのだろうか。


「…………」


 どうやら部屋に軽く入っただけでは出現しないらしい。

 ……こういう場合はなにかしらのオブジェクトに近付くと現れることが多い―――今回で言えば、明らかにあの部屋の中央に鎮座している用途不明の端末だろう。


「…………」


 ……端末前まで来たが、いまだにボスは現れない。

 あれだろうか。

 調べたら来るパターンか。

 随分と引っ張るようだな。

 仕方がないので片手で端末に触れる。


『【減重】を入手しました。』

『星痕は非戦闘中にインベントリから着脱が可能です。』

『なお、着脱に際し条件や消費アイテム等は存在しません。』


 …………。

 ……。

 星痕……手に入ってしまった……。


「そんなことあるか?」


 思わず口から驚きの声が漏れ出た。

 どうやら、あれらしい。

 このダンジョン……ボスがいないらしい。

 ……いや、だが、おかしなことではないのかもしれない。

 俺がゲーム慣れしているから問題無かっただけで、あの道中に散々いたホーンウォリアーというモンスターは普通に強敵の類で、プレイヤーの腕次第では一生涯掛かっても倒せないことすらありかねない。

 なにせ、動きが読みやすいだけで動作の速度は普通に早かった。

 ホーンウルフもそうだったが……、どうやらこのゲーム、難易度の調整を『動きの強弱』で行っているタイプで、動きの速さは一切容赦なしにリアル準拠にしているようだ。

 ……まあ、ともかく。

 ホーンウォリアーは強力なモンスターであり、あのモンスターを基準として作られたボスモンスターは……間違っても初心者が相手取るようなレベルにない。

 であるならば、ダンジョンの最奥にはボスが存在せず……道中のホーンウォリアーを倒した報酬として、ただシンプルに『星痕』が得られる端末だけ置いてあっても、おかしくない。

 まあ、俺はホーンウォリアーとの戦闘は徹底的に回避してきたのだが……。


「いや、そこまで読み通り、か?」


 ……あんまりにもあっさりとした『角獣の神星骸』攻略完了に、もしかするとおかしな挙動を自分が取ってしまったか、と考えたが……冷静になってみれば、このゲームはいくらモンスターを倒したところで経験値も金銭等も手に入らず、そこまでプレイヤーの強化に繋がらないゲームだ。

 つまり、他のゲームと違ってレベルを上げて無理押しするという、ある種RPGにおける究極の攻略法が通じない。

 だから、このゲームにおいて唯一プレイヤーを直接的に強化する『神星骸』に関しては、詰み防止の意味を込めて、戦闘を行わずに攻略できるものも存在しているのだろう。

 なので、こういった消極的なプレイングで容易く突破されることは、ある程度制作側にも意図されているのかもしれない。


「まあ、いい。ともかく……これで【減重】、入手だ……!」


 結論、そんなことはどうでもよくて、とにかく【減重】が入手出来たのだから、これで上裸から卒業することが出来る……!

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