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015-鹿士、身体は闘争を求めない。

 『角獣の神星骸』におけるメインダンジョン、これまた『角獣の神星骸』……。

 俺が上裸状態から脱却するにあたって突破が必須のダンジョンであり、全プレイヤーがこのゲームを正式に〝スタートさせた〟と胸を張るためにも同様のことが言えるダンジョン。

 つまりは、まあチュートリアルの終着点というわけだが―――。


「なるほど。これは、確かにな」


 ―――このダンジョンを徘徊する一般的なモンスターらしき、鹿のような角の生えた……あるいは、そういった装飾の防具を装備している大男『ホーンウォリアー』の振るう大斧を大盾で捌きながら、俺は金奈がこのゲームを『高難度』だと評した意味を知った。

 基本的に、戦いというものは体が大きいものが有利なのは当然だ。

 だからこそ、巨人を小さき人が討てば神話になる。

 重ねて言えば、勿論装備が充実している者のが戦いを優位に進められる。

 つまりこのホーンウォリアーという、真っ当な作りをしている装備に身を包んだ1ワイバーン近いモンスターは間違いなく強敵であり。


「ライトユーザーがどれだけ突破できるのか不安なところだ」


 『角獣の街』があれだけ賑わい、カップルプレイヤー……だけでなく、誰かしらとパーティーを組んでいるプレイヤー達が多いのも納得だった。

 ゲーム慣れしていない人間であれば、こんな相手が待ち構えているダンジョンをひとりでうろつこうとは考えないだろうからな。

 とはいえ、所詮はチュートリアルの終着点でしかないので、そこまでホーンウォリアーは動きが良いわけでもなく……適度に攻撃を凌ぎながら、隙を見て反撃してやれば大した時間も掛からずに処理出来た。

 付け加えるなら、この程度の動きならば3人程度なら同時に相手出来るだろう―――流石に、ホーンウルフのように6人を同時に相手したらどうなるかは分からんが。


「そして戦果は―――無し。無しときたか。人型のモンスターは素材のドロップすらないのか」


 まあ、流石にチュートリアル終わりのダンジョンでそこまでの数がまとまって現れることはないだろうな、と考えながら戦利品を確認すべくインベントリを開いてみたところ……驚くことに、なにもなかった。

 確かに人型のエネミーはどのゲームにおいても、所謂『素材』をドロップしたりするイメージは無いから不思議なことではないのだが……基本的に、そういった場合は経験値や金銭等が多く貰えて帳尻が合わせられている。

 …………。

 ……。

 つまり、モンスターが経験値も金銭等も全く落とさないこのゲームであれば、こうなるのが必然であると?

 いや、確かに今回ドロップが偶然無かっただけ、という説はあるが……少なくとも、道中のホーンウルフは毎回最低なにかしらひとつはドロップしていたし、多いときは3~4種のドロップ品を寄越してきていたことを考えたら、このゲームがアイテムのドロップ率に関しては甘いゲームだということは察せられるし……。

 …………。

 ……。

 つまり、ホーンウォリアーはどうしようもないほど不味いモンスターであると? ホーンウルフと比較したら2倍以上は強力なモンスターなのに?

 いや! もしかしたら用いていた装備品が低確率でドロップする可能性はあるかもしれない! 違う、決して違う……。


「クソエネミーとは呼ばん。お前達にも尊厳があるからな……」


 ……ホーンウォリアーは、決してクソエネミーなどではない。

 絶対に、絶対にそれは違うんだ……。


「だが戦闘は避けさせてもらうぞ」


 絶対に違うのだが、それはそれとして俺は徹底してホーンウォリアーとの戦闘は回避することを心に誓った。

 装備のドロップは確かにあるかもしれないが、こんな超序盤のドロップ品などすぐに街売りの装備品に性能を越されるだろうことを考えると、わざわざ狙う程ではないだろうし。

 それを狙わないなら、戦う意味が無いからな。

 不要な戦いを避けてこそ、一流のゲーマーだ。

 ゲーマーとバトルジャンキーは違うのだからな。

 手当たり次第にモンスターを殺戮しまわるのはナンセンスだろう。

 だから、だ。

 俺は、ホーンウォリアーとは……戦わない。

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