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014-上裸の男は素早く詠唱する―――イランテ、別れの魔法だ。

「その、なんだ。悪いんだが……俺は先を急いでいてな」

「あ! そっすよね! すんません足止めちゃって! じゃあ行きましょうか!」


 これはこちらから話を切り上げて離れなければ一生放してもらえないな、と……そう考えて、雑にはなったが無理矢理会話を終わらせてみたところ。

 なぜかは知らないが、カルザーは突如として『角獣の神星骸』の方へと向きなおった。

 …………。

 ……。


「……じゃあ、とは?」

「はい? え、行くんすよね? 神星骸。お供するっす」


 ……どういうわけなのか全く分からないが、カルザーは完全に俺に同行する気満々の様子だったようだ。

 …………。

 ……。

 えーっと、だな。

 

「いらん」

「いらん!?」


 ターゲットが分散して相手の動きが読み辛くなりそうだし、道中で目を離した隙にどこかに消えて気をもみそうだし、そもそも別に戦わなくてもいい相手に対し積極的に喧嘩を売っていきそうだし……。

 完全に、カルザーという仲間は俺には不要だった。

 あまりにも不要すぎて一切の装飾無しに彼に事実を伝えてしまった。

 結果、カルザーは俺から放たれた拒絶の言葉を何度も反芻しながら……。

 …………。

 ……。

 ……いや、反芻し続けているだけだ……。


「あー……。その、俺個人のポリシーとしてだな。初見のコンテンツにはソロで挑みたいところがあるものでな……」


 率直な意見をぶつけても、反芻し続けているだけでなんの進展もなかったので、もうしょうがないからそれっぽい適当な嘘をでっちあげることにした。

 別に俺は初見のコンテンツをソロで楽しむ趣味もないし、別に初見じゃなくても基本ソロで挑みたいところがあるものなんだが。


「ああ。ははあ! なるほどす! そっすよね! やっぱ一発目はひとりでじっくりやりてぇすもんね! 分かりますわ!」


 しかし、きっとこのカルザーというプレイヤーの形状をした拘束トラップを解除するなら、これで良かったのだろう。

 あくまで戦力外だからいらない、というわけではなく、ゲームの楽しみ方として初見でプレイする時はいらないよ、という理由があっての先の俺の言葉……だと思い込んだらしいカルザーは、うんうん、と何度も深く頷いた。

 ……いや、なんでこっちはそんな即座に理解してくれるのに、単純な戦力外通告は反芻し続けるだけで認めようとしないんだよ。

 もしかして、自分が最低限プラスワンにはなっていると思い込んでいて、いないよりは居た方がマシで当然だと思っている類か?

 残念ながら俺を基準にしてしまったらそれはない。

 あんなホーンウルフ6頭程度に追い詰められている奴は、精々良くてプラスマイナスゼロだ。


「そういうわけだ。すまないな」

「いやいやいいんすいいんす! じゃ、あれすから! 俺、アニキが困った時いつでも手ェ貸せるように街で待ってますわ!」

「え……」


 まあ、どうでもいい。

 所詮は一期一会の相手。

 今日、この場で適当にあしらってしまえば、もう二度と関わることはない―――と、思っていたのだが。

 なんか街で待機されることになってしまう……あまりにも要らなすぎる申し出であり、思わず素の反応を返してしまった。

 こいつ正気だろうか。

 もしも俺が美少女だったらこれは犯罪にあたるだろう。

 間違いない。


「そうか……。機会があれば尋ねよう……」

「うす! それじゃ、初見プレイ頑張ってくださいアニキ! 応援してるす!」

「ああ……」


 よもやこの時代に、仲間になった途端酒場に一生駐在し続けるタイプのキャラクターが現存しているとはな……。

 驚きのあまりに来るはずもない機会を、さもあるかのように語ってしまった。

 ……いや、来るはずもないかどうかは分からないといえば分からないか。

 もしかすれば……『角獣の神星骸』がとんでもなく難易度の高いダンジョンである可能性があるのだからな。

 …………。

 ……。

 待てよ? 俺が苦戦する程のレベルだったら、あんなホーンウルフに手間取る程度の存在はいても居なくても……。

 …………。

 ……。

 うん、まあ。

 これ以上はやめておくか。

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