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013-恐るべきレアエネミー、『カルザー』。

「分かった。30秒ほど貰おうか」

「30秒……? もしかして、術師の類……」


 ……などと一瞬思ったが、引かれて当然な恰好をしているこちら側に問題があるのが現実なので、俺は直剣を構えた後に最も近い場所に居たホーンウルフへと背後から強襲を仕掛けてまず1頭処理。


「は?」


 続けて、新たな敵の出現に気付いたらしい別のホーンウルフの口腔内へと直剣を突き入れ2頭目を処理。

 3頭目を返す刃で二度斬り付け処理。

 ここまでの俺の動きから、こちらの優先度を上げたらしい4頭目が距離を取る前に大盾で殴り付けてスタンさせた後に喉を抉り処理。

 不意打ちでも企んでいたらしく背後から仕掛けてきた5頭目は、突進を大盾で防いだ後に二度斬り付け処理。

 そして最後の1頭は―――。


「……この不味さでは、追う意味もないか」


 ―――尻尾を巻いて逃げたので、まあ、これも処理ということでいいだろう。

 別に今はホーンウルフを狩るのではなく、やつらに襲われていたこの男を助けるのが目的だったのだし。


「おい。無事か?」


 流石に6頭もいれば少しは苦戦するかと思ったが全くそんなことはなかった―――なんて考えながら、奴らに襲われていた男へと安否を問う。

 それと同時、ここに来てようやっと自分が助けた相手のことをはっきりと視界に捉えたのだが……なんというか、なんだろう、特段感想を抱くのが難しい程度にはそこらに居そうな若い男だった。

 このゲームのあのキャラメイクを考えれば美男美女ばかりになりそうなものだが、存外、こういう普通の外見の男もいるんだな。

 ……まあ、そんなことを考える俺も素顔の配色をバグらせただけの見た目ではあるが。


「あ……わ……カ……」


 しかし、どうしたのだろうか。

 ホーンウルフに囲まれ恐慌状態になってしまったのか、それとも俺が上裸であることを再認識して言葉に詰まってしまったのか……俺が安否確認に対する彼の返答をいくら待っていても、男はパクパクと金魚のように口を開け閉めするだけだ。


「おい―――」

「か、カッケェ~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!」

「―――なに?」


 ついにはしびれを切らして、肩でも揺すってやろうとした、まさにその瞬間……急に、男は少年のように目を輝かせ始めた。

 ……なんだなんだ、どうした? ……いや、もしかしてあれか……?

 俺のこの上裸ファッションが感性に刺さってしまったのか……?

 それは……。

 なんというか……。

 お気の毒に……。


「お、おお、俺! カルザーって言うんす! あれすか!? アニキとお呼びしてもいいすかアニキ!」

「待て待て、急になんだ……。というか、もう呼んでる……」


 こんな世紀末ファッションを気に入るような感性では、さぞかしリアルは生き辛かろう……と彼―――カルザーに憐みの感情を抱いていたところ、本当にどうしたのか分からないが、カルザーは俺の手を素早く取ってブンブンと振りながら、なぜか俺の事をアニキだなんだと呼び始めた。

 いや……。

 その……。

 俺の顔が見えないから仕方ないのかもしれないが、確実に俺のが年下で……。

 一般的高校生男児としては、二十半ば過ぎてそうな男にアニキ呼ばわりされるのは……。

 正直キツい……。


「だってそりゃアニキ呼びますわ! 30秒くれ……って言うもんすから! あー、その外観で以外にも術師タイプのビルドで? 詠唱とかに時間でも掛かるのかな、いや30秒はなげぇなどう見ても俺あと10秒もたねえだろ、って思ってたら! パパパパーッて! ガチで30秒以内であの犬コロ共倒しちまうんすから! 鬼リスペすよ! アニキ!」

「そ、そうか……別に普通だと思うが……」


 しかし、どう見てもこのカルザーなる男は俺がキツいと言ったからといって、アニキと呼ぶのを止めそうなタイプには見えなかったので、握られた手を振り回されるがままにしつつ……とりあえず適当に話を合わせて、とっとと会話を打ち切ることにした。

 普段ならもうちょっとまともに対応してやるところだが、いまの俺には1秒だって惜しいのだ。


「普通!? カァ~~~! やっぱデキる男は違うんすねえ! なんすかその謙虚さ! 神謙虚じゃないすか! ったぁ~~~! カッケェ!」

「……………………」


 1秒だって惜しいのだが、どうしよう。

 このカルザーとかいう男、俺がなにかを口にすれば、それに対していちいち全部にリアクション取って来そうな雰囲気を感じ始めた。

 まずい。

 明らかにホーンウルフよりも俺の時間を奪っているぞ、このカルザーとかいう男。

 もしやプレイヤーの形状をしたレアエネミーか? こいつ。

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